反対咬合は下の前歯が上の前歯よりも前に出ている状態のことで、受け口とも呼ばれます。
前歯は話したり笑顔になったりしたときに目立ちやすく、悩んでいる人は少なくありません。
急に体の調子が悪くなるわけではないので、放置している方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、反対咬合を放置してしまうと口腔内や全身にさまざまな不調を引き起こす恐れがあります。
この記事では、反対咬合の原因・対処方法について解説しています。歯科医でできるマウスピース型矯正やワイヤー型矯正の治療にかかる費用や、メリット・デメリットとともに紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
反対咬合(受け口)をマウスピース型矯正で改善できる症例
マウスピース型矯正は歯並びを改善する歯列矯正治療の1つです。それぞれの治療計画をもとに作成されたマウスピース型を使用します。
マウスピース型をご自宅で2週間ごとに交換して少しずつ歯を動かします。透明のマウスピース型なので、つけていても目立ちにくいのが特徴です。
この歯列矯正治療には適応・不適応があるため、マウスピース型矯正で対応可能な噛み合わせを下記で解説します。
反対咬合が軽度の場合
下の前歯が、上の前歯よりも前に出ている状態を反対咬合(受け口)といいます。原因は大きく2つあり歯の位置に起因するもの、顎骨のサイズに起因するものがあります。
歯の位置に起因するものである場合はマウスピース型矯正が適応される可能性が高いです。
しかしマウスピース型矯正の適応は患者さんの症状によって異なることがあるため、歯科医師の診断を受けることが大切です。
歯の生え方に問題がある場合
子どもは6歳頃に初めて乳歯が抜け始め、永久歯が生えてきます。
このとき何らかの理由で下の前歯が上の前歯よりも出てしまうと、噛み合わせが上下逆の状態になることがあります。
具体的には上の歯が後ろに傾いたり、下の前歯が前に出っ張ったりした状態がそのまま成長期に持ち越されると、反対咬合の原因となる可能性があるでしょう。
また遺伝的要因もあり、親の遺伝により生まれつき歯並びが不均衡だと、反対咬合になる可能性があります。
マウスピース型矯正での治療が難しい反対咬合(受け口)の症例
マウスピース型矯正が適応する反対咬合をお伝えしましたが、マウスピース型矯正をするのが難しい場合もあります。
噛み合わせは歯並び以外にも顎や筋肉が関係しており、これらがバランスよく機能している状態というのが正しい噛み合わせです。
そのため治療のゴールも反対咬合の程度や顎の形によって変わっていきます。
反対咬合が重度の場合
マウスピース型矯正では治らない症例もあり、その場合はワイヤー矯正で治療する場合があります。
具体的には以下のような症例ではマウスピース型矯正が不適応の場合があります。
- 顎の骨に問題がある出っ歯や反対咬合
- 顎変形症などの外科的治療が必要な症例
- 神経を取った歯がある場合や、抜歯部位が左右非対称になる場合
顎の骨に問題がある場合
歯列ではなく顎の骨に問題があると判断された場合は、以下の内いずれかの治療が検討されることが多いです。
- お口の周りの筋肉の機能訓練
- 顎骨の形や位置を変える治療
- 顎骨手術を併用した外科的矯正治療
お口の周りの筋肉の機能訓練とは、口唇の筋肉・咀嚼筋・舌筋などの異常な活動を解消するために行う、筋肉のトレーニングです。
2つ目の顎骨の形や位置を変える治療は、ヘッドギアを夜間限定で使用します。
使用期間は1年から2年です。メリットとしては、手術ではないので体に傷がつかないことです。
顎骨手術を併用した外科的矯正治療は、文字どおり手術を行います。
顎骨の変形が大きく、歯列矯正のみでは歯や口内組織の負担が大きいと判断された場合に実施される治療法です。
顎骨の変形による顔の形を大きく改善することができ、適切な噛み合わせになるという利点があります。
顎変形症の治療には、手術のみならず、その前後に歯列矯正による歯の移動が必要です。
手術は多くの場合、お口のなかの切開によって行われるのでお顔に傷がつくことはありません。異常のある顎骨を骨切りし、正常な位置まで移動させます。移動後は骨切りした部位をプレートで固定します。
加えてお口のなかの矯正器具を使い、一定期間、上顎と下顎があまり開かないように抑制する(顎間固定)のが一般的です。
その後、徐々に口を開けるリハビリを行います。そして歯の位置の微調整をするために術後歯列矯正治療を行います。
反対咬合(受け口)をマウスピース型矯正で改善する治療法と流れ
マウスピース型矯正をする場合、具体的にどのような検査・治療が必要なのかお伝えします。
またマウスピース型矯正の使い方・メリット・デメリット・きれいな歯並びを保つための保定についてもご紹介します。
カウンセリング・精密検査
治療の流れは以下のとおりです。
- 初診相談
- 精密検査
- 診断・治療計画の説明
- 歯列矯正治療開始
まず初診相談で実際にお口のなかの簡単な診査を行い、悩み・治療に関する疑問・心配について相談をします。
予想される範囲での治療期間・費用・治療内容を歯科医師と相談します。
次に精密検査(レントゲン撮影・写真撮影・歯型の採取など)です。ここで得られる資料は歯列矯正の治療計画立案や成長や治療の経過観察の資料として大切な役割をもちます。
その後診断・治療計画の説明を行い、精密検査の結果をもとに患者さんに適した治療計画を立てます。
治療方法・期間・費用・支払方法なども説明するので、納得できるまで十分な説明を受けましょう。
ここまで来てようやく歯列矯正治療開始となります。一人ひとりに合ったマウスピースを渡されるため、ご自身で2週間ごとに交換しましょう。
装置の装着状態・噛み合わせのチェック・歯の動きチェックのために、大体1ヵ月に1回の間隔で通院します。
治療内容によっては、マウスピースの補助にワイヤーを使い分けることもあり、治療期間についても患者さんの骨格や症状の難易度によって大きく異なります。
歯列矯正
マウスピース型矯正は取り外しが可能な透明なマウスピース型の矯正装置を使って歯並びを改善する歯列矯正です。
メリットは透明なので歯列矯正していることを周囲に気付かれにくいだけでなく、食事の際には取り外すことができるので、歯列矯正中でも気にせずに食事を楽しむことが可能です。
その代わり食事のとき以外、睡眠時を含む1日20時間以上装着する必要があります。
使い捨てコンタクトレンズのように治療の段階に合った矯正装置を2週間ごとに交換することで、徐々に歯並びを整えていくのが特徴です。
デメリットとして、すべての歯科医院でマウスピース型矯正を導入しているわけではないこと、保険適用外のため治療費が高額になることがあります。
また歯並びの状態によっては、予定よりも歯が動かずに治療中または治療後に補助的にワイヤー矯正が必要になることがあります。
保定
歯列矯正治療後、動かした歯は元の位置に戻ろうとする力がかかるため、動かした歯を安定させる保定という治療段階が必要です。
保定装置(リテーナー)には取り外し式のタイプや、歯にワイヤーを固定するタイプなど、いくつか種類があります。いずれの装置につきましても、一般的には2年以上の使用期間が推奨されています。
取り外し式の装置は、最初の1年程度は食事や歯磨きのとき以外は可能な限り装着したままで過ごさねばなりません。
歯並びが安定してきたら少しずつ装着する時間を減らしていきます。
保定期間や保定装置の装着時間などは、患者さんの口腔内の状態や治療内容などによって違ってきますので、主治医に説明してもらい適切な保定治療を行ってください。
保定期間は3ヵ月から6ヵ月に1回の経過観察を行う場合が多く、経過観察では、歯並びと噛み合わせのチェックと口腔内の歯石や着色をとるクリーニングなどを行いましょう。
保定装置には、きれいに整った歯並び、しっかりとした噛み合わせを後戻りから守る大切な役割があります。
反対咬合(受け口)に対するマウスピース型矯正の費用・治療期間
マウスピース型矯正の費用・治療期間はどの程度になるか気になる人も少なくないでしょう。
またマウスピースを含む歯列矯正は歯を少しずつ動かす治療のため、年単位の時間がかかります。
費用や治療期間の目安は事前に知っておくべき情報なので必ずご確認ください。
費用
マウスピース型矯正で有名なインビザライン(※)の費用は、全体矯正か部分矯正、歯並びの状態によっても変わります。
- フル矯正:800,000円(税込)〜
- フル矯正と難しい歯並び:1,000,000円(税込)
- フル矯正と軽度の歯並び:500,000円(税込)〜
- 部分矯正:300,000円(税込)〜
歯科医院によっても費用・値段が変わってくるので、歯科医院で相談してみましょう。
歯科医院では初回相談を行っていることがあるので、インビザライン(※)を導入しているのか、料金はどのくらいなのか相談してみるとよいでしょう。
(※)未承認医薬品等であるため医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。
治療期間の目安
マウスピース型矯正の治療期間は症状によりますが、おおよそ1年から3年が目安です。ただし、抜歯が必要な症例では非抜歯治療に比べて治療期間が長くなる傾向があります。
また、矯正治療が終わった後も、歯が元の位置に戻らないように、保定装置を使用することが必要です。この保定装置は、1年以上の使用が推奨されています。
全体的な治療期間を考える際には、この保定する期間も考慮しましょう。
反対咬合(受け口)を放置するリスク
反対咬合というと歯の問題ととらえる方もいますが、実際は骨格や歯列の遺伝が影響している場合もあります。
また、反対咬合を放置することで全身に悪い影響を与える可能性があります。
見た目に悪影響がある
反対咬合による見た目の悪影響としてまずあげられるのが、普段の見た目です。
何もしなくても、外から見れば反対咬合だとわかってしまうこともあるでしょう。
程度によりますが、反対咬合は下顎が前歯より前に出ているため、普段から目立ちやすいです。話したり笑顔になったりすると、より下の歯が見えやすくなります。
人前での笑い方や写真に写る際の表情にコンプレックスを感じ、隠したいと思う方もいるかもしれません。
対人関係に支障をきたすこともあるでしょう。
次にあげられるのが、食事マナーが悪く見える可能性です。
前歯や唇がしっかり閉じられないことから、食べこぼしが増えたり、くちゃくちゃと音をたてたりする傾向にあります。
食事のときの動作が乱れ、他人から見て悪印象を与えてしまう可能性があるでしょう。
これらの問題は対人面で大きな影響を及ぼす可能性があります。
自己評価や自尊心を低下させ、人との関わりを避けてしまう可能性もあります。
胃腸に負担がかかる
反対咬合などが影響し噛み合わせが適切でない場合、食事の際に噛み砕いてすりつぶすことが十分に行えません。
その結果、食べ物が大きなまま胃腸に運ばれて、消化不良を引き起こしてしまうことがあります。
長期的に見ると胃腸の機能低下を引き起こすことも考えられるでしょう。
また、咀嚼が十分でないと、食事中に唾液が十分に分泌されないという問題も生じます。そのため口内環境が悪化し、むし歯や口臭の原因となります。
顎関節症になりやすい
顎関節症とは、お口を開け閉めする際に使われる顎関節が痛む、ポキッという音がするなどの症状が出る病気です。
下顎は本来前後左右に自由に動かせますが、反対咬合の場合は下顎の動きが制限され、顎関節に負担がかかります。
食事や話す際も、正常な噛み合わせができないために顎関節に常に負荷がかかる状態となり、長期化すると顎関節症の発症につながります。
発音に支障をきたす
反対咬合だと漏れる空気の量が通常よりも増えるため、発音に影響を及ぼす可能性があります。
特にサ行とタ行の音は歯と舌の位置関係が重要なのですが、正確な音の発生が難しく、聞き手に意図した音と異なって聞こえることがあるかもしれません。
自分ではしっかりと発音しているつもりでも、実際には他人からは不明瞭に聞こえることがあります。さらに日本語では問題なく発音できていても、母国語以外の言語で特定の音を出すのが難しくなることもあるでしょう。
子どもの反対咬合(受け口)への治療
一般的に子どもの反対咬合は骨格の問題を抱えることがあり、癖の改善に時間がかかることがあります。
もしお子さんの反対咬合に気付いたのであれば、早い時期から治療を行いましょう。
治療方法のひとつとしてムーシールドというマウスピース型矯正があります。ムーシールドのメリットは次のとおりです。
- 3歳から治療が開始できる
- 夜寝ている間につけるだけなので見た目を気にしなくてよい
- 小さなお子さんでも、夜寝ている間だけであればストレスも感じにくい
- 使用を始めてから半年程で効果が出ることがある
- 矯正装置による痛みはほとんど感じない
デメリットとしては、お子さん本人がつけてくれないと効果を得られず、治療期間が長引く点があげられます。
夜寝ている間に使用するため、無意識に外してしまうケースもあるでしょう。
またムーシールドだけでは反対咬合が治らない場合もあります。その場合は別の方法をとって矯正治療を行う必要があります。
まとめ
反対咬合を治すと見た目もよくなり、体への負担も減る可能性があります。歯列矯正を始める時期は、成長期の小中学生が望ましいとされていますが、大人でも可能です。
歯列矯正は長期的な治療であり費用もかかるため、焦って治療を受ける必要はありません。
特にお子さんの場合、治療に患者さんご本人が協力的でないと歯列矯正は困難です。
しかし、反対咬合は放置することでさまざまなリスクがあります。歯科医師と相談したうえで適切な時期を選択しましょう。
歯科医院では歯列矯正の相談を行っております。大切な自分の歯を守り、自身に合う歯列矯正方法にてきれいな歯並びを目指してみてください。
参考文献