歯並びの治療を検討する際には、まず自分のお口のなかをチェックすることかと思います。歯並びの状態や装着している修復物や補綴物を見たときに、銀歯があると歯列矯正できるか不安に感じるかもしれません。銀歯は金属製の人工物であり、矯正装置とは相性が悪いと考えてしまうでしょう。今回はそんな銀歯がある場合の歯列矯正の可否や方法、注意すべき点について解説します。
歯列矯正は銀歯があってもできる?
はじめに、銀歯がある場合の歯列矯正の可否と判断のポイントについて解説します。
銀歯がある場合でも歯列矯正は可能
銀歯が入っていても歯列矯正することは可能です。銀歯というのは、金銀パラジウム合金で作られた詰め物や被せ物を指す言葉で、保険診療では広く使われていることから、歯列矯正を希望する患者さんのお口のなかでもよく見られます。
銀歯は、天然歯とは見た目も性質もまったくことなる人工歯ではあるものの、歯列矯正を行ううえで妨げとなることはありません。歯列矯正で大切なのは、口腔内に露出していない歯根と顎の骨の状態なので、それらに深刻な問題がなければ、銀歯があっても歯列矯正をすることができます。ただし、銀歯があるすべてのケースで歯列矯正を行えるわけではなく、いくつかの条件を満たしている必要があります。
歯列矯正ができるか判断のポイント
銀歯があるケースで歯列矯正が可能かどうかは、以下の3つのポイントで判断することになります。
【ポイント1】銀歯の状態
銀歯の噛み合わせや歯への適合が良くて、むし歯も再発していない場合は、基本的に歯列矯正をすることができます。銀歯を入れて数十年が経過して、劣化も進んでいるような状態の場合は、一時的に仮歯にして歯列矯正を行う方がよいとされています。また、銀歯の下でむし歯が再発している場合は、むし歯を治してからでなければ歯列矯正をすることができません。
【ポイント2】銀歯の範囲・装置の種類
銀歯が少ない程歯列矯正はしやすくなります。噛み合わせの一部分にしか銀歯がないような歯列では、問題なく歯列矯正を行うことができます。その一方で、銀歯が複数本連なった金属製のブリッジがある場合は歯列矯正ができない可能性があります。
【ポイント3】矯正装置の種類
銀歯の歯列矯正で問題となるのは、歯面に直接ブラケットを接着するワイヤー矯正です。透明な樹脂製のマウスピースを使うマウスピース型矯正は、歯列全体に装置を被せるため、銀歯やレジン歯、セラミック歯があっても問題にはなりません。ただし、マウスピース型矯正を用いる場合は、一部の簡単な歯の動かし方のみであり、積極的に臼歯部を動かしたり、歯の高さを合わせたり、捻れを治したりする難しい動きが必要な場合、唇側(頬側)の歯面がメタルで覆われているとアタッチメントやリンガルボタンといった矯正器材を接着できるCRの素材のものに事前に入れ換える必要があります。
銀歯が複数本ある場合の歯列矯正の方法
銀歯が1本だけではなく、複数本ある場合は、歯列矯正にどのような影響が及ぶのか気になるところです。ここでは、銀歯が複数本ある場合の歯列矯正の方法として、ワイヤー矯正とマウスピース型矯正の2つを取り上げます。
ワイヤー矯正
ワイヤー矯正とは、金属製のワイヤーとブラケットを用いた歯列矯正の方法です。マウスピース型矯正よりも適応範囲が広く、歯をダイナミックに動かせる方法ではありますが、患者さんが装着している人工歯の種類や構造によっては制限がかかることがあります。
単独の歯に銀歯が装着されている場合は、基本的に制限がかかることはありませんが、複数の歯が銀歯であったり、ブリッジのような特別な装置が装着されていたりする場合は、事前の処置が必要となることもあります。
具体的には、特殊な処理液を用いて銀歯とブラケットの接着を強くさせたり、電気溶接機を使ったりすることで、複数の銀歯が入っているケースでも対応できるようにします。また、複数の銀歯が連なっているブリッジに関しては、そのままの状態でワイヤー矯正することは難しいため、装置の撤去が必要となります。奥歯が銀歯の場合は、バンドと呼ばれる補助装置を装着して、歯を動かす方法もあります。
マウスピース型矯正
マウスピース型矯正とは、透明な樹脂製のマウスピースを用いた歯列矯正の方法です。治療の性質上、銀歯が複数本あっても問題はありません。マウスピース型矯正は、天然歯であろうと銀歯であろうと、歯を動かす際に違いは見られないからです。
ただし、複数本に連なった銀歯がブリッジである場合は、そのままの状態で歯列矯正を行うことはできません。ブリッジを撤去して、適切な補綴装置を付け直す必要があります。マウスピース型矯正は、ワイヤー矯正より適応範囲が広くないため、このようなケースは歯列矯正ができないと断られる可能性もあります。
銀歯がある場合の歯列矯正の注意点
続いては、銀歯がある場合の歯列矯正における注意点を解説します。ここでは銀歯が被せ物(クラウン)である場合と詰め物(インレー)である場合、さらには抜歯が推奨される場合の3つのケースを紹介します。
被せ物
銀歯の被せ物であるメタルクラウンは、天然歯と同じ手順では、ブラケットをしっかりと接着させることができません。そのため、プライマーと呼ばれる特殊な処理剤を使用することがあります。プライマーで事前に処理をすることで、銀歯とブラケットとの接着力を強めることができます。それでも奥歯の銀歯の場合は、歯列矯正を行っていくなかでブラケットが頻繁に外れてしまうことも珍しくありません。 そのようなケースではバンドと呼ばれる金属製の輪っかを銀歯に装着します。バンドにはブラケットのような構造が付随しているため、銀歯にはめた直後からワイヤーを通すことが可能となります。バンドが銀歯から外れることは少ないため、付け直しなどの手間もかかりません。
詰め物
詰め物の銀歯であるメタルインレーは、ほとんどの歯質が天然なので、ブラケットの接着を妨げることはありません。メタルインレーの形によっては、ブラケットの脱離を招くことがあるため、メタルクラウンと同様にバンドを装着することがあります。
メタルインレーの場合は、天然の歯質と銀歯との間に汚れがたまりやすく、むし歯の再発リスクが高くなっているため、ブラケットを接着する前には検査が必要です。ブラケットを装着した後も、むし歯にならないよう注意しなければなりません。ブラケットの装着後にむし歯が再発した場合は、装置を撤去したうえでむし歯治療を行わなければなりません。
抜歯を選択する場合
歯列矯正では、歯をきれいに並べるために抜歯を行うことがあります。便宜抜歯と呼ばれるもので、前から4番目か5番目の小臼歯を抜くのが一般的です。小臼歯は位置や大きさ、咀嚼機能における役割から、ほかの歯よりも重要性が低いと考えられているためです。
どの歯を抜くかは、スペースが不足している部位によって変わってきます。例えば、前歯部のスペースが不足している場合は、前から4番目の第一小臼歯を抜歯し、臼歯部のスペースが不足している場合は、前から5番目の第二小臼歯を抜くことが一般的です。ここに銀歯がある症例では、抜歯の選択で少し違いが見られます。
例えば、前歯部のスペースが不足しているケースで、5番目の歯に神経を抜いた銀歯がある場合は、第二小臼歯を抜歯することがあるのです。歯列矯正において抜歯が必要なときに、銀歯が優先的に選択されるケースもあるといえます。
あるいは、銀歯を装着している歯にむし歯の再発が認められ、むし歯治療や根管治療を行ったとしても予後が悪くなるようなケースでは、歯列矯正を始める前に抜歯することもあります。
銀歯やほかの材質と歯列矯正の相性
歯列矯正と相性がよいのは天然歯です。修復や補綴がされていない天然歯なら、何ら問題なく歯列矯正を始めることができます。そこで気になるのがそのほかの材料と歯列矯正との相性です。ここではレジン、金属、セラミックの3つの素材について解説します。
レジン
歯科用プラスチックであるレジンは、歯列矯正との相性がよいです。安価で劣化しやすい素材なので、一見して歯列矯正との相性が悪そうに思えますが、実際はそんなことはありません。レジンで作られた詰め物や被せ物は、表面を少しだけ削ることで天然歯と同じようにブラケットを接着できます。ただし、レジンが割れたり摩耗している場合は、ブラケットが脱落するリスクが高まるため注意が必要です。
金属
銀歯に代表される歯科用の金属材料は、歯列矯正との相性がよくありません。特殊な処理剤を使ったり、電気溶接機を利用したりすることで、ブラケットをしっかり固定することは可能ですが、天然歯やレジン歯の安定性は期待できないでしょう。
セラミック
天然歯の色調や質感、光沢、透明感などを忠実に再現でき、経年的な劣化がすくないセラミックは、歯列矯正との相性が悪いです。ブラケットとセラミック歯をそのまま接着剤で固定することができないからです。セラミックの表面に傷をつけることで接着力を向上させることは可能ですが、それでもブラケットが途中で外れることがあります。
また、セラミックに傷をつける際に破損が生じることも考えられるため、一時的に仮歯にする方法が推奨されます。
銀歯を白い歯にする方法
銀歯を白い歯にする方法について解説します。
銀歯を白くする際に選べる素材
銀歯を白くする方法としては、コンポジットレジン、CAD/CAM冠(キャドキャムカン)、ハイブリッドセラミック、セラミック、ジルコニアなどの天然歯に近い色調の素材に入れ替えることで白くできます。
◎コンポジットレジン
歯科用プラスチックで、見た目は白色をしており自然な仕上がりが期待できます。健康保険が適用されるため費用も安価ですが、経年劣化が起こりやすくむし歯が再発しやすいなどのデメリットも伴います。
◎CAD/CAM冠
保険診療で入れられる白い歯で、コンポジットレジンよりは審美性や耐久性に優れています。CAD/CAM冠の材料にセラミックが少量含まれているためです。
◎ハイブリッドセラミック
ハイブリッドセラミックは、レジンとセラミックの混合材料で、中間的な性質を備えている素材です。健康保険が適用されないため費用は全額自己負担となりますが、セラミックやジルコニアよりは安価です。
◎セラミック
天然歯の色調や透明感を忠実に再現できる素材で自由診療となります。セラミックは、経年的な劣化が起こりにくいのですが、強い衝撃が加わると割れるという欠点があります。
◎ジルコニア
セラミックの一種であるジルコニアは、人工ダイヤモンドと呼ばれるくらい強度に優れた素材です。セラミックの割れやすいという欠点はなく、経年的な劣化も起こりにくくはありますが、透明感にやや乏しいというデメリットがあります。
被せ物や詰め物のやり直しは歯列矯正後
被せ物や詰め物をやり直す場合は歯列矯正後が推奨されます。歯を動かす治療が完了した後では、歯の位置や傾きなど変えられないからです。
マウスピース型矯正はタイミングに注意
マウスピース型矯正は、銀歯による影響が少ない方法ですが、被せ物のやり直しをするタイミングには注意が必要です。マウスピース型矯正は、歯型取りをした時点の歯の形がベースとなることが理由です。特にインビザラインは、はじめの歯型をもとに、ゴールまでのマウスピースのすべてを一度に製作することから、被せ物治療で歯の形を変えるわけにはいかないのです。
まとめ
今回は、銀歯がある場合の歯列矯正の方法や注意点について解説しました。銀歯の詰め物や被せ物がある場合でも、基本的には歯列矯正を行うことができますが、ケースによっては特別な処置が必要になったり、仮歯に変えなければならなかったりするため、銀歯がある人はカウンセリングの段階できちんと相談しておくことが大切です。銀歯がたくさんあることで、ワイヤー矯正の難易度が高くなるようなケースでは、銀歯による影響が少ないマウスピース型矯正を選択するのもひとつの手段といえます。
参考文献