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矯正治療で親知らずは抜歯すべき?抜歯が必要なケースや抜歯しないリスクなどを解説

矯正治療で親知らずは抜歯すべき?抜歯が必要なケースや抜歯しないリスクなどを解説

20歳前後に生えてくる奥歯にある永久歯を親知らずといいます。第三大臼歯と呼ばれる奥歯で、歯列の一番奥に生えてくるため、さまざまなトラブルが起きやすいとされています。親知らずは、いつかは抜かなければならないと思っている人が少なくありませんが、実際はそんなことはありません。

親知らずには抜歯が必要なケースとそうではないケースとがあり、どちらに該当するかは個々で異なります。矯正治療ではその判断が極めて重要となることから、親知らずの抜歯について正しく理解しておく必要があります。ここではそんな矯正治療における親知らずの抜歯の要否を詳しく解説します。

矯正治療で親知らずの抜歯が必要なケース

矯正治療で親知らずの抜歯が必要なケース はじめに、矯正治療で親知らずを抜歯しなければならないケースについて解説します。

歯並びに影響を及ぼしている場合

親知らずが生えているせいで、全体の歯並びが悪くなっている場合は抜歯が必要となります。矯正治療は悪い歯並びを改善するために行うものなので、歯列不正の原因を作っている親知らずが残っている限り、きれいな仕上がりは期待できません。

親知らずの生え方が悪くて、歯並びや噛み合わせに影響がある場合は、矯正治療ではなくても抜歯の必要性が高まります。

歯列矯正のためのスペース確保

日本人の歯並びでよく見られるのは、出っ歯や乱ぐい歯です。これらの歯並びは、歯のスペースの不足が原因で現れやすい症状で、欧米人よりも顎の骨が小さい日本人に現れやすいです。スペース不足を解消する方法として行われるのが便宜抜歯です。健康な歯を抜いて、不足しているスペースを作り出す方法ですが、親知らずが優先的に抜かれることがあります。

親知らずはもともと歯列の奥に位置していて、歯ぐきのなかに半分埋まっていることもあるため、抜歯をしても十分なスペースが確保できないケースがほとんどです。結果的には、前から4番目か5番目を併せて抜歯することになりやすいです。親知らずの抜歯は、歯列全体を後方に下げる効果が期待できます。

むし歯や歯周病リスクが高い場合

親知らずが現状の歯並びや噛み合わせに悪影響をもたらしておらず、歯の移動の妨げにもならない場合でも、むし歯や歯周病のリスクが高い場合は、予防的に抜歯することがあります。矯正治療の期間中は、装置の影響で普段より口腔衛生状態が悪くなりやすく、むし歯や歯周病のリスクも高まるため、親知らずの抜歯の必要性も高くなります。 歯列矯正中に親知らずがむし歯になると、周囲の歯に感染が広がったり、むし歯治療のために矯正装置を外さなければならないことがあります。このようなケースでは治療計画に親知らずの抜歯を盛り込むことが少なくありません。

矯正治療で親知らずの抜歯が必要ではないケース

矯正治療で親知らずの抜歯が必要ではないケース 続いては、矯正治療を行うにあたり、親知らずを抜く必要がないケースについての解説です。

親知らずが正常に機能している場合

親知らずは斜めや真横に生えていたり、歯並びや噛み合わせに影響をもたらしたりしている症例ばかりではありません。親知らずのなかにはまっすぐ正常に生えて、永久歯のひとつとして機能している場合もあります。

このような親知らずは、矯正治療後も大切に扱った方が患者さんのメリットも大きくなります。永久歯というのは、抜いてしまうと再生することはなく、1本1本の価値が極めて高い器官なので、不必要に抜くことはよくありません。親知らずが正常に機能している場合は、それを活用した治療計画が立てられ、歯の移動もその他の永久歯と同様に行われます。

親知らずが完全に埋伏していて問題がない場合

親知らずは、歯ぐきのなかに埋まったままのケースも珍しくありません。完全埋伏と呼ばれる状態で、患者さんによっては親知らずが歯ぐきのなかに存在していることすら知らずに生活している場合があります。

歯列矯正では、精密検査でパノラマレントゲンというお口全体のエックス線写真を撮影することから、完全埋伏している親知らずの本数や大きさ、周りの歯に与えている影響などを確認できます。その結果、完全埋伏している親知らずが周りの組織に悪影響を与えておらず、含歯性嚢胞のような病変も生じていない場合は、抜かずにそのまま残しておきます

ただし、歯列矯正でその他の歯を動かすのに支障をきたさないことが前提となります。完全埋伏している親知らずというのは、抜くのにもそれなりのリスクを伴うことから、何ら問題が生じていないのなら触れずに放っておいた方がよいとされています。

親知らずを抜歯せずに矯正治療を受けるリスク

親知らずを抜歯せずに矯正治療を受けるリスク ここまでは、矯正治療で親知らずの抜歯が必要なケースとそうでないケースについて解説してきました。抜歯が必要でない場合は、何も気にせずそのまま矯正治療を進めて行けばよいのですが、抜歯が必要な場合は、患者さんの価値観や全身の健康状態などによって、選択肢が分かれます。

親知らずの抜歯には、術後の痛みや腫れに加えて、細菌感染や神経の麻痺など、いくつかのリスクを伴うことから、矯正治療のためでも抜きたくはないという患者さんが一定数いるからです。親知らずを抜きたくないという患者さんの意志を無視して、抜歯をすることはできないので、その場合は親知らずを抜かずに矯正治療を進めることになりますが、以下のようなリスクを伴う点に注意が必要です。

矯正治療後に後戻りする可能性

親知らずを抜く必要があるにもかかわらず、抜歯をせずに矯正治療を行うと、後戻りの可能性が高まります。スペースが足りていない、あるいは親知らずによる影響で歯並びが悪くなっている状態を放置して矯正治療を行っても、十分な効果が得られにくいからです。

抜歯をせずに見た目を改善できたとしても、歯並びが悪くなっている根本的な理由は改善されていません。噛み合わせにも問題が残るため、矯正治療後は徐々に後戻りしていく可能性が高くなってしまいます。

歯列移動が制限される可能性

歯を効率よく移動させるためには、適切なスペースが必要です。

もともと顎の骨の大きさが正常で、大きな乱れも見られない歯列なら、歯の移動もそれほど難しくはありません。親知らずのせいでスペースが使われており、混み合った状態の歯並びでは、歯の移動に制限がかかります。

治療期間が長くなるだけでなく、矯正の仕上がりにも決定的な影響をもたらしかねない点に注意が必要です。つまり、出っ歯や乱ぐい歯などの症状を完全に治せないまま矯正を終わらせざるをえないことも珍しくないのです。

炎症や痛みが発生する可能性

親知らずは、斜めに生えていたり、半分埋まっていたりするため、清掃性が悪くなります。歯列矯正中は装置の影響で口腔全体が不衛生となりやすいことから、親知らずに炎症や痛みが発生するリスクも高まります。智歯周囲炎という親知らず特有の歯周疾患は、重症化しやすく、その他の永久歯にも悪影響を及ぼしやすいため、十分に注意しなければなりません。

親知らず抜歯の適切なタイミング

親知らず抜歯の適切なタイミング 次に、矯正治療で親知らずを抜く場合の適切なタイミングについて解説します。基本的には、矯正治療が始まる前に親知らずを抜くことになります。

矯正治療前に抜歯すべき理由

矯正治療が始まる前に親知らずを抜歯する理由は、以下の通りです。

【理由1】大掛かりな外科処置が必要となりやすい

親知らずの抜歯は、通常の抜歯と異なる点があります。まず、半分埋まった状態で斜めに生えていたり、顎のなかに埋まっていたりする親知らずは、抜歯の際に歯ぐきをメスで大きく切開し、骨を削るなどの処置が必要となります。

こうした外科処置を矯正器具装着後に行うのは、あまり好ましくありません。もちろん、不可能ではないのですが、外科処置にさまざまな制限がかかりますし、術後の感染症リスクも高くなることから、矯正治療前に行うのが一般的です。

【理由2】矯正治療後に腫れや痛みが生じたら厄介

親知らずを残したまま矯正治療を始めると、抜歯するまでの間に何らかのトラブルが生じる可能性も否定できません。いずれ抜歯するとはいえ、歯列矯正中に親知らずがむし歯や歯周病になってしまったら、歯並びの治療の大きな妨げとなります。矯正治療が始まる前に親知らずを抜いておいた方が合理的といえるでしょう。

【理由3】不足しているスペースを作り出す

親知らずの抜歯が不足しているスペースを作り出す目的であれば、矯正治療前に行う方がよいでしょう。特別なケースではない限り、歯の移動を開始した後に親知らずを抜く理由はありません。

治療中に抜歯する場合の注意点

一部のケースでは、矯正治療中に親知らずを抜歯することになります。歯ぐきをメスで切開して、顎の骨を削るなどの処置が必要な抜歯は、大学病院での口腔外科で行うため、診療の予約がなかなか取れないことも珍しくありません。

親知らずの存在が現在の歯並びや矯正治療に大きな影響を及ぼさないケースでも、歯列矯正前に抜歯はせず、適切なタイミングを見計らうことがあります。このような矯正治療中の抜歯では、以下の点に注意しましょう。

【注意点1】親知らずのケアを徹底する

歯列矯正中は装置の影響によって口腔衛生状態が悪くなるため、親知らずの歯周病やむし歯リスクが上昇します。抜歯をするまでにこれらの病気を発症してしまうと、矯正治療に大きな悪影響が及ぶことから、親知らずのケアは徹底するようにしてください。

【注意点2】抜歯をするタイミングに気を付ける

口腔外科で親知らずを抜歯する場合は、紹介状を書いてもらったうえで、患者さんが診療の予約を取ることになります。口腔外科での診療は、予約が1ヵ月先まで埋まっていることも珍しくないため、主治医に指示された抜歯のタイミングに親知らずを抜けないということもあり得ます。

口腔外科で抜歯をする場合は、初診で口腔内診査や画像診断などを行い、次の診療で親知らずを抜くことになります。その後も消毒や抜糸などで数回通院する必要があることから、スケジュールに余裕を持って予約を取ることが大切です。

【注意点3】抜歯後の口腔衛生状態に要注意

親知らずを抜歯した後は、うがいをしっかり行えなかったり、食事や歯磨きに制限がかかったりするなど、口腔衛生状態が悪くなりがちです。患部は大きく腫れ、強い痛みも生じることから、心身へのストレスが顕著に高まる点に注意が必要です。それでも口腔ケアはしっかり行うようにしてください。

親知らず抜歯後のケアと回復のポイント

親知らず抜歯後のケアと回復のポイント 親知らずを抜歯した後のケアと回復のポイントを解説します。

術後の注意事項

親知らずの抜歯後は、以下の注意が必要です。

  • 出血が止まるまでガーゼを噛む
  • ドライソケットを予防するため強いうがいを控える
  • 抜歯窩を指や舌で触らない
  • 血流が良くなる行為は控える(運動、飲酒、湯船に浸かるなど)
  • 喫煙しない
  • 処方された抗菌薬や鎮痛剤は指示された通りに服用する

食事の注意点

親知らず抜歯後の食事は、患部を刺激しないものが望ましいです。傷口が落ち着くまでは、あまり噛まずに飲み込めるスープやお粥が推奨されます。熱い食品や辛い食品は、患部に不要な刺激を与えるため、抜歯から1〜2週間程度は控えるようにしてください。

回復までの期間

親知らずを抜いてから2〜3日は、腫れと痛みが強くなります。1週間くらい経つと、傷口が塞がり、回復へと向かっていきます。一般的には抜歯から1週間後に抜糸を行うので、それまでは患部を刺激しないような生活を送ることが大切です。

回復するまでの期間は、痛みや腫れ、食事制限などで大きなストレスがかかりますが、口腔ケアは頑張って行うようにしてください。回復までの期間中にお口の中が不潔になると、傷口に細菌感染が起こったり、むし歯を発症したりするリスクが高まります。

まとめ

今回は、矯正治療で抜歯が必要なケースとそうではないケースについて解説しました。親知らずが歯並びに悪影響を及ぼしていたり、歯をきれいに並べるためのスペースが不足していたりするケースでは、抜歯が必要となりやすいです。それ以外のケースで、親知らずが真っすぐ正常に機能している、歯ぐきのなかに埋まっている場合は、無理に抜く必要はないといえます。本来は親知らずの抜歯が必要であるにもかかわらず、あえて非抜歯で矯正治療を行おうとすると、後戻りの可能性が高くなる、歯の移動に制限がかかる、矯正期間中に親知らずが悪さをするなどのリスクを伴うため、十分な注意が必要といえます。

参考文献

この記事の監修歯科医師
坂本 輝雄歯科医師(東京歯科大学 千葉歯科医療センター 矯正歯科 臨床准教授)

坂本 輝雄歯科医師(東京歯科大学 千葉歯科医療センター 矯正歯科 臨床准教授)

東京歯科大学卒業 東京歯科大学大学院歯学研究科(歯科矯正学専攻)修了 東京歯科大学歯科矯正学講座助手 慶応義塾大学医学部形成外科学教室非常勤講師 米国オクラホマ大学歯科矯正学講座 Visiting Assistant Professor 東京歯科大学歯科矯正学講座講師 東京歯科大学退職 東京歯科大学千葉歯科医療センター矯正歯科 臨床准教授

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坂本 輝雄歯科医師(東京歯科大学 千葉歯科医療センター 矯正歯科 臨床准教授)

東京歯科大学卒業 東京歯科大学大学院歯学研究科(歯科矯正学専攻)修了 東京歯科大学歯科矯正学講座助手 慶応義塾大学医学部形成外科学教室非常勤講師 米国オクラホマ大学歯科矯正学講座 Visiting Assistant Professor 東京歯科大学歯科矯正学講座講師 東京歯科大学退職 東京歯科大学千葉歯科医療センター矯正歯科 臨床准教授

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