鋏状咬合とは、上下の歯が鋏のように接触する咬合異常です。特に奥歯で発生することが多く発見が遅れがちです。
鋏状咬合を放置すると、奥歯が過萌出(正常な高さより延びてしまう)してしまい、矯正するのが難しくなります。従いまして、見つけたらなるべく早く治療することが重要です。
この記事では、鋏状咬合の特徴・原因・治療方法・費用・治療の注意点について包括的に解説します。
鋏状咬合(シザーズバイト)の特徴と原因
- 鋏状咬合とはどのような状態ですか?
- 鋏状咬合とは上下の歯がすれ違い、適切に噛むことができない状態です。特に下顎奥歯が舌側に向かって咬合面が傾き、まるで鋏のように上顎奥歯と下顎奥歯の側面同士が接触することで適切に物を噛めなくなります。その結果、口腔内に多量のプラーク(細菌の塊)が蓄積され広範囲の歯肉炎などを引き起こします。
- 鋏状咬合が起こる原因を教えてください。
- 環境的要因として、乳歯の早期喪失や悪習癖による神経や筋機構の不調和があります。また遺伝的要因として、上下顎の骨格的な不調和や歯胚の位置、萌出方向の異常が指摘されています。しかし乳歯の早期喪失などの要因がなく上下顎の骨格的な不調和もない鋏状咬合の症例が確認されているため、奥歯の萌出するスペースの不足、歯胚の位置および萌出方向の異常が主な原因と考えられるでしょう。
- 治療するメリットを教えてください。
- 鋏状咬合は放置すると多量のプラーク(細菌の塊)を蓄積し広範囲の歯肉炎を引き起こします。治療することでプラークが溜まりにくくなり口腔衛生状態が改善されます。
部分矯正で鋏状咬合(シザーズバイト)は治療できる?
- 部分矯正とはどのような治療法ですか?
- 部分矯正は歯列全体ではなく特定の箇所だけ治す矯正方法で、全体矯正は歯列全体に装置をつける矯正方法です。どちらの矯正方法であってもワイヤーやマウスピース型矯正装置などを使用します。部分矯正と全体矯正の主な違いは治療時間と費用です。部分矯正に比べて全体矯正はより多くの時間と費用がかかります。特に費用の面で多くのウェイトを占めているのが矯正装置代です。例を挙げると、部分矯正では150,000円(税込)~250,000円(税込)である一方で全体矯正では600,000円(税込)~1,000,000円(税込)程かかります。
- 部分矯正で鋏状咬合は治療できますか?
- 可能ではありますが推奨されておりません。鋏状咬合は奥歯の咬合面が鋏のようになる症状ですが、部分矯正で治療できる不正咬合は奥歯の噛み合わせに異常がないものに限られます。部分矯正で治療可能かどうかは歯科医師が診断後に決めます。
- 鋏状咬合には全体矯正の方が適していますか?
- 部分矯正で治せる箇所は前歯の一部分など軽度の不正咬合であり、全体奥歯の治療を要する鋏状咬合には全体矯正が適していると考えられます。鋏状咬合の矯正方法には顎間ゴム(エラスティック)が用いられます。顎間ゴムとはマウスピースに取り付けた突起物やブラケット(チューブ)にゴムを引っかけることで矯正力を高める補助装置です。顎間ゴムは上下の歯のズレを整えるために用いられます。計画どおりに歯を移動させ矯正効果をより引き出すことができます。顎間ゴムにはII級ゴム・III級ゴム・垂直ゴム・交叉ゴムの4種類が用意されており、鋏状咬合に使用するのは交叉ゴムです。
- 治療の流れを教えてください。
- 大きく分けて初診・動的治療・動的治療終了後・保定の流れで治療します。初診では5つの経過をたどります。
- 現症および主訴の確認をします。
- 顔貌所見: 正面から顔全体の非対称性を判断し、次に側面から口腔周囲の緊張感や突出感を判断します。
- 口腔内所見: 上顎と下顎の歯列を確認し、口腔衛生状態を判断します。
- X線写真所見: 側面頭部X線規格写真(セファロ)により、上顎骨と下顎骨の位置関係や臼歯部の高さなどを確認します。
- 唾液検査・歯周組織検査: 唾液検査では唾液の分泌量とむし歯の原因菌であるミュータンス菌の数を確認し、歯周組織検査では歯肉からの出血を確認します。
初診後に歯科医師が治療方針と治療期間を定め、動的治療と呼ばれる矯正装置の装着を開始します。動的治療は3つの経過をたどります。
- 装置装着時(動的治療開始直後): ワイヤーやマウスピースを装着します。
- 顎間ゴム装着時(動的治療開始から18ヵ月後): 鋏状咬合治療のために顎間ゴムをブラケット(チューブ)やマウスピースに装着します。
動的治療を終えた後は、初診時同様の所見を経て治療を終了します。動的治療終了後は3つの経過をたどります。
- 顔貌所見
- 口腔内所見
- X線写真所見
- 治療期間と費用の目安を教えてください。
- 顎間ゴムは簡単な調整で1ヵ月程度、大きなズレがある場合は半年以上の治療期間を要します。顎間ゴムの1日の装着時間は20時間から22時間であり、これは通常のマウスピースの装着時間と変わりません。歯科医師の判断によっては夜間だけ装着することもあります。3ヵ月〜2年程の治療期間で530,000円(税込)~1,000,000円(税込)が治療費用の目安となっています。
鋏状咬合(シザーズバイト)を治療する際の注意点
- 鋏状咬合を治療する際の注意点はありますか?
- 顎間ゴムに関する注意点は4つあります。
- 正しく装着する: 顎間ゴムをかけるのは難易度が高いと感じることがあるため、歯科医師の指示を正確に理解し焦らず少しずつ習得するようにしましょう。
- 装着時間を守る: 食事や歯磨きなどで顎間ゴムを外した後、すぐ再度装着する必要があります。手間が単純に増えますが、指示された時間より顎間ゴムがかかる時間が短ければ治療が計画どおりに進行しないので注意しましょう。
- 毎日ゴムを取り替える: 顎間ゴムは毎回装着するだけでなく毎日取り替える必要があります。顎間ゴムを繰り返し使用すると伸縮性が低下するためです。また、ゴムが切れた場合は切れた方だけでなくもう一方のゴムも交換しましょう。
- 予備のゴムを持ち歩く: 外出中に顎間ゴムが切れた場合、すぐに新しいゴムに取り替える必要性があります。特に長期の旅行を計画する場合は必ず予備のゴムを多く携帯しましょう。
- 治療を成功させるポイントを教えてください。
- 鋏状咬合は一見歯並びや噛み合わせに問題がないように見える症例です。そうした状況を回避するために、鋏状咬合の治療は10代や20代もしくはそれ以下の若い時期に開始することが望ましいと考えられます。また早く治療を開始することで治療期間も短縮することができるため費用の削減も可能となります。若い時期の治療が推奨されているということは、成人してから自分で治療するのでは遅いということです。親御さんが子どもの違和感に気付いたり治療を開始したりすることが、鋏状咬合の治療を成功させるポイントといえるでしょう。
編集部まとめ
この記事では、鋏状咬合の特徴と原因・治療方法と費用・治療するうえでの注意点についてまとめました。
部分矯正は一部の歯列を治す矯正方法ですが奥歯の治療には適しておりません。鋏状咬合が奥歯で発生する異常咬合であるため、全体矯正で治療することが推奨されます。
矯正器具にはワイヤー矯正やマウスピースが用いられ、そこに顎間ゴムを引っかけることで歯のズレを整えていきます。
人によりますが多くの場合、鋏状咬合は口腔環境を悪化させるため、まずこれらの治療を優先させることとなり治療は長期間となるでしょう。その結果、費用も多くかかりがちです。
鋏状咬合の治療期間および費用を抑えるためには、早期発見と治療が欠かせません。少しでも違和感があるならば専門家による診断を受けることを推奨します。
参考文献