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出っ歯の特徴は?基準や原因と弊害、治療法を解説

出っ歯の特徴は?基準や原因と弊害、治療法を解説

子どもの歯並びの悩みのなかでも、出っ歯は多くの保護者が気にする問題です。上の前歯または上顎全体が前方に突き出た状態で、見た目だけでなく噛み合わせやお口の機能にも影響を与えることがあります。そこで本記事では、出っ歯の特徴や判断基準、原因、健康への影響、そして子どもと成人それぞれの場合の治療法について解説します。

出っ歯の特徴と割合

そもそも出っ歯の特徴はどのようなものがあるのでしょうか。また、出っ歯になる方はどのくらいいるのでしょうか。本章では出っ歯の特徴と割合について解説します。

出っ歯の特徴

一般に出っ歯とは、上の前歯が目立って前に出ている状態の総称です。歯科医学的には正式な用語ではないものの、上の前歯が下の前歯より著しく前方に突出している状態を上顎前突と呼びます。出っ歯には大きく分けて2つのタイプがあり、骨格性上顎前突歯性上顎前突に分類されます。骨格性の場合、上顎の骨が相対的に大きいか、もしくは下顎の骨が小さく後方に下がっていることで上の歯が突出して見えます。日本人では特に下顎の発達が小さい(下顎後退)タイプが一般的だとされます。一方、歯性上顎前突では、歯並びそのものの乱れで上の前歯だけが前に傾いている状態です。いずれの場合でも、上の前歯が突出することで口唇がきちんと閉じにくい状態になることがあり、これが乾燥や口呼吸を招くこともあります。また、横から見ると口元が突出して見えるため、横顔の輪郭にも影響することがあります。

出っ歯の割合

出っ歯は子どもから大人まで幅広く見られ、その頻度は調査によって異なりますが、決して少ない状態ではありません。日本の幼児を対象とした研究では、何らかの不正咬合がある子どもは全体の約半数以上にのぼり、そのなかでも上の前歯の突出は約19.9%と最も高頻度で見られたと報告されています。この結果を見ると、5人に1人が前歯の突出があり、出っ歯は珍しい病気ではないことがわかります。保護者の方は「うちの子だけが出っ歯なのでは」と不安に感じるかもしれませんが、決して特殊ではないことをまず押さえておきましょう。

出っ歯と判断される基準

それでは、どの程度前歯が出ていれば出っ歯と判断されるのでしょうか。歯科医院での検査では、オーバージェットと呼ばれる前後の噛み合わせのずれを測定します。これは上の前歯先端と下の前歯先端の水平距離で表され、一般的に上の前歯が下の前歯より前方に数㎜以上出ている場合、オーバージェットがあるとされます。正常な噛み合わせではわずかに上の歯が前に出ていますが、その差が2〜3㎜以内なら問題ない範囲と考えられます。一方、4㎜以上前突している場合は歯科的に過度のオーバージェット(上顎前突)と定義され、不正咬合として治療の検討対象になります。日本小児歯科学会の基準ではオーバージェット4mm以上を上顎前突の判定基準としています。診察ではこの距離を実測し、さらに上下の顎の位置関係をX線写真などで確認することもあります。加えて、お口を自然に閉じた状態で上の前歯が唇から見えてしまうか、口唇を閉じるのに努力を要するかといった所見も判断の目安になります。総合的に見て、上の前歯が下の前歯より明らかに突出していると歯科医が判断すれば、出っ歯と診断されることになります。

出っ歯の原因

出っ歯はまれな病気ではないですが、できるだけ出っ歯になりたくないと思う方もいらっしゃると思います。実際に出っ歯の原因は多岐にわたっています。そこで、本章では遺伝的要因と後天的な要因に分け、原因を解説します。

遺伝的要因

出っ歯の生じる原因には遺伝的な要因と環境や習慣による後天的な要因があります。まず遺伝的要因についてですが、顎の骨格や歯並びの傾向は親子間で似ることが多いとされています。実際、家族に上顎前突の方がいる場合、子どもも出っ歯になる可能性が高いことが指摘されています。骨格性上顎前突の多くはこうした先天的な骨格の特徴によるもので、成長過程で特別な要因がなくても出っ歯傾向が現れる場合があります。しかし、遺伝がすべてではありません。骨格性の場合でも、環境要因が影響することがあります。例えば、幼少期から頬杖をつく癖があると、下顎の正常な成長を妨げて相対的に上顎が突出してしまう可能性もあります。このように遺伝的素因に生活習慣が加わって骨格のズレが助長されることも考えられます。しかし、基本的には、骨格由来の出っ歯は遺伝的な要因が大半であり、親から子へと受け継がれる顎のサイズや形状の特徴が土台にあると考えてよいでしょう。

口呼吸やおしゃぶり、舌の癖などの後天的な原因

一方、後天的な原因としては、子どもの頃の癖や生活習慣が出っ歯を招くことが知られています。代表的なものに口呼吸おしゃぶり、そして舌の癖が挙げられます。これらの習慣があるからといって必ずしも出っ歯になるわけではありませんが、出っ歯の原因や悪化させる原因になることがあります。

口呼吸

本来、鼻で呼吸しているときは唇が閉じられ舌は上顎に当たっています。ところが、お口で呼吸する習慣がある子どもでは、常にお口が半開きになり唇の筋肉の緊張が低下します。その結果、通常であれば唇が上の前歯を内側に押さえている力が弱まり、前歯が外側へ傾きやすくなります。実際、3~6歳の子ども1,616名を対象とした研究では、口呼吸の子どもは鼻呼吸の子どもに比べて、前歯の突出や開咬などの不正咬合の発現率が高いことが報告されています。また、口呼吸の原因となるアデノイド肥大(咽頭扁桃の肥大)も、下顎の成長方向に影響を与えて上顎前突およびオーバージェットの増大を引き起こす場合があります。つまり、慢性的な口呼吸は筋肉のバランスや顎の成長に影響し、出っ歯を招く重要な後天的要因なのです。

おしゃぶり

乳幼児期のおしゃぶりや指しゃぶりは多くの子どもが行いますが、長期間続けていると歯並びに影響する可能性があります。指やおしゃぶりを強くくわえると、上の前歯の裏側に指や乳首が当たり前歯を前方へ押し出す力が長時間加わります。その結果、前歯が徐々に前に傾斜して出っ歯を生じたり、上下の前歯がかみ合わなくなる開咬(前歯の間にすき間ができる噛み合わせ)を引き起こすことがあります。

舌の癖

舌の悪い癖も出っ歯の原因になり得ます。通常、飲み込む際には舌は上顎に当たりますが、舌を前方に突き出す癖や普段から無意識に舌で前歯を押す癖があると、前歯に繰り返し強い力が加わります。骨はじわじわと力がかかれば形を変えていくため、毎日のように舌で前歯を押していると歯が少しずつ動いてしまいます。歯列矯正治療で出っ歯を治した後でも舌の癖が残っていると再び前歯が押し出されて戻ってしまう恐れがあり、舌の習慣の改善(口腔筋機能療法など)も重要になります。

出っ歯によって生じる健康上の問題

出っ歯は見た目上の問題なのでしょうか。本章では出っ歯が与える健康への影響について解説します。

咀嚼機能への影響

前歯が大きく前方へ突出している噛み合わせは、食べ物をうまく噛み切ったりすり潰したりする機能(咀嚼)に影響を及ぼすことがあります。正常な歯並びでは上下の歯が適切に接触して食べ物を効率よく嚙み砕けますが、出っ歯のように前歯の嚙み合わせがずれると上下の歯の接触面積が減少し、咀嚼効率が低下する恐れがあります。噛み合わせのズレや前歯の突出により奥歯にも不均等な負担がかかり、食べ物を十分に噛み砕けないまま飲み込んでしまうといった事態も起こりえます。

加えて、出っ歯が顕著な場合は前歯で食べ物を噛み切る動作が難しくなります。例えば麺類をすすったり、サンドイッチやピザを前歯でかじり取る際に、前歯が噛み合わない状態だと食べ物をうまく切れず苦労します。子どもの場合、「うちの子は食べ物をお口に入れてもなかなか飲み込めない」と感じるとき、それは噛み合わせの問題で咀嚼がうまくできていない可能性もあります。

心理的な影響

歯並びや噛み合わせの問題は、子どもの心理面や対人関係にも影響を及ぼすことがあります。特に前歯は笑ったときや話したときに人目につきやすいため、出っ歯の子はそれを気にしてコンプレックスを抱きやすい傾向があります。実際の研究でも、不正咬合が子どもの心理社会的な生活の質に影響を与えうることが示されています。また、歯並びとメンタルヘルスの関連を調べた報告では、噛み合わせの異常は、不安や抑うつ傾向など心理面への悪影響を及ぼしうることも指摘されています。つまり、重度の出っ歯など目立つ歯列不正を抱える子どもほど、精神的なストレスを感じやすい可能性があります。

出っ歯の治療法

出っ歯が見た目だけでなく、心身の健康に影響を及ぼす可能性があることはわかっていただけたと思います。では、その出っ歯の治療法はどのような方法があるのでしょうか。本章では出っ歯の治療法を子どもと成人に分けて解説します。

子どもの出っ歯

子どもの出っ歯に対しては、成長発育を利用した早期の歯列矯正治療が効果的な場合があります。子どもの骨は柔軟で成長力があるため、適切な時期に介入することで顎の成長方向をコントロールし、将来的な上顎前突を軽減できる可能性があります。

例えば、上顎が大きすぎる、前に出すぎるタイプの出っ歯には上顎の成長を抑制するような装置、逆に下顎の成長が足りないために相対的に出っ歯に見える場合には下顎の成長を促す歯列矯正装置が用いられます。具体的には、幼少期から混合歯列期に使えるバイオネーター、ツインブロックなどの機能的歯列矯正装置や、就寝時に装着するヘッドギアなどが代表的です。これらの装置により、上顎の成長を抑えたり下顎の前方成長を引き出したりして、骨格的なズレを緩和します。

治療開始の時期は患者さんごとに異なりますが、一般的に幼稚園児~小学校低学年で顎の成長に着目した装置を開始し、小学校高学年〜中学生で仕上げの本格的な歯列矯正を行うことが多いです。ただし、軽度の出っ歯であれば混合歯列期の経過観察後、中学生頃から1回の歯列矯正治療で対応する場合もあります。適切な時期に介入すれば、永久歯列になってから歯を抜くような大がかりな歯列矯正を避けられる場合もあります。

成人の出っ歯

成人の方の出っ歯治療は、基本的にはブラケット矯正やマウスピース型矯正などの歯列矯正によって歯を適切な位置に動かすことになります。顎の成長が完了した大人では子どものように骨格自体を変えることは難しいため、歯の移動や場合によっては外科的手術を組み合わせて治療します。軽度から中等度の症例であれば、上下の歯にブラケットという装置を付けワイヤーで歯並びを整える歯列矯正歯科治療だけで改善できる場合がほとんどです。

一方、骨格性上顎前突の成人では、歯列矯正だけで理想的な改善をするのが難しいことがあります。例えば上顎自体が極端に突出している、あるいは下顎が極端に小さい場合、歯並びを動かすだけでは上下の顎のズレを補正しきれません。そのような場合には、外科的歯列矯正治療(顎矯正手術)が検討されます。これは外科手術で上顎骨や下顎骨の位置関係を整えたうえで、歯列矯正で細かな噛み合わせを仕上げる方法です。骨格自体を正常な位置に治すため、重度の骨格的出っ歯には有効な治療ですが、入院や手術を伴うため本人の希望と全身状態を踏まえて慎重に判断されます。

成人歯列矯正では治療期間は1年から3年程度かかり、その後の保定のためのリテーナー装着も必要です。長い道のりに感じるかもしれませんが、歯並びが整うことで得られるメリットは見た目の改善だけでなく、むし歯や歯周病リスクの低減、咀嚼機能向上、発音の明瞭化など多くあります。一部には、歯を削って被せ物で見た目だけ直す審美治療の提案がされることもありますが、根本的な噛み合わせの問題を解決するわけではないため機能面の改善にはなりません。成人してからでも決して遅すぎることはありませんので、出っ歯が気になっている方は歯列矯正を行う歯科医師に相談してみてください。

まとめ

出っ歯は放置しても命に関わる問題ではありませんが、食べる、話すといった基本的な生活の質(QOL)や心の健康に影響しうる重要な要素です。適切な介入によって将来的なトラブルを減らせることが期待されています。お子さんの歯並びが気になる保護者の方は、信頼できる情報源に基づいて正しい知識を持ち、必要に応じて歯列矯正の専門医に相談しましょう。本記事がその一助になれば幸いです。

参考文献

この記事の監修歯科医師
多田 佳史歯科医師(歯科医師)

多田 佳史歯科医師(歯科医師)

奥羽大学歯学部卒業 / 昭和大学歯科病院臨床研修終了 / 鶴見大学歯学研究科(博士課程)卒業(歯科矯正学) / 日本矯正歯科学会認定医

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