歯科矯正は終了するまでに年単位で時間のかかる治療です。後戻りを防ぐための保定期間も入れると、5~6年ほどかかることも珍しくありません。
そのため、矯正期間中に転勤・結婚・留学などで、引っ越しをしなければならない場合もあります。引っ越し先が近ければ問題ありませんが、遠い場合もあるでしょう。
転院する場合、転院先では基本的に改めて矯正治療費が満額かかることになります。そのため、歯科矯正中の引っ越しは慎重に検討する必要があります。
もし、歯科矯正中に引っ越しが決まったら、どうすれば良いのでしょうか。本記事では、歯科矯正中の転院は可能なのかどうかを解説します。
また歯科矯正中の引っ越しが決まったらやるべきことや、転院先の選び方もご紹介しますので、引っ越しによる転院を考えている方はぜひ参考にしてみてください。
歯科矯正中に引っ越しが決まったら?
もし、歯科矯正中に引越しが決まった場合、どのような選択肢があるでしょうか。具体的には、次の3つのケースが考えられます。
- 通える範囲ならそのまま今の歯科医院に通院する
- 歯科矯正を中断する
- 転院先を見つけて歯科矯正を継続する
それぞれのケースについて詳しくみてみましょう。
通える範囲ならそのまま今の歯科医院に通院する
1つ目のケースは、通える範囲ならそのまま今の歯科医院に通院することです。今通っている歯科医院は、歯の状態やこれまでの治療経過を一番よく知っているため、可能であれば継続して治療を受ける方が良いでしょう。
とくに難症例の場合は、転院せずに今の歯科医院に通うことがおすすめです。転院先では治療が継続できない可能性があるからです。
ほかにも、今まで月に1回通っていたのを2か月に1回にするといった方法で通える場合もあるでしょう。ただし、あまりにも引っ越し先から今通っている歯科医院が遠く離れている場合、時間や費用を考えると通い続けることは現実的ではありません。その場合、次にご紹介する2つ目・3つ目の方法を選択することになるでしょう。
歯科矯正を中断する
2つ目の方法は、歯科矯正を中断することです。中断する場合は、矯正装置を撤去したり、後戻りを防ぐためのリテーナーを付けたりする必要があるでしょう。
治療を中断した場合、費用は実際に行った治療分のみで、残りは返金してもらえる場合があります。ただし、返金対応は契約内容によっても異なるため、歯科医院に確認する必要があります。
歯科矯正を中断すると、歯並びが後戻りして、これまでの治療が無駄になる可能性があるでしょう。歯のリスクや費用面を考えた場合、途中で歯科矯正をやめることはおすすめできません。
可能な限り、今の歯科医院に通院するか、転院先を見つけて歯科矯正を継続する方法を検討しましょう。一時的に中断する場合も、できるだけ早めに治療を再開することがおすすめです。
転院先を見つけて歯科矯正を継続する
3つ目の方法は、転院先を見つけて歯科矯正を継続することです。もし、転院して歯科矯正を続けられれば、これまでの治療が無駄にならずに済みます。
また、費用については、改めて満額かかる可能性があるため注意してください。
ただし、複雑な歯並びや重度の不正咬合などの難症例の場合は、転院先を見つけることが困難な場合があるでしょう。
また舌側矯正(裏側矯正)を行っている場合、歯科医院によっては対応していないことがあるため、装置を撤去して新たな装置を取り付けることもあります。デメリットについてもよく考えたうえで転院するかどうかを決めた方が良いでしょう。
本記事では、転院する場合にすべきこと・転院先の見つけ方・転院によるリスクなどをご紹介しますので参考にしてください。
引っ越しが決まったらやるべきこと
もし、矯正治療中に引っ越しが決まったら、何をすべきでしょうか。具体的には、次のようなことをできるだけ早めに行いましょう。
- 歯科医院に引っ越しについて伝える
- 引っ越し先から通いやすい転院先を探す
- 必要な書類を揃える
- 転院先に必要な書類を提出する
それぞれの項目について詳しく解説します。
歯科医院に引っ越しについて伝える
最初に、できるだけ早めに今通っている歯科医院に引っ越しについて伝えましょう。担当医師と相談して、転居先から通院するのか、転院するのかを決めます。
引っ越し先の地域に担当医師と知り合いの歯科医師がいるなら、紹介してもらえるでしょう。また、同系列の歯科医院がある場合は、治療を引き継いでもらえます。
転院する場合は、引き継ぎのための資料や書類を揃える必要があり、準備には時間がかかる点に注意が必要です。
また、矯正治療を中断する場合も、装置の撤去やリテーナーの準備が必要になります。引っ越しが決まり次第、早めに担当医師に伝えましょう。
引っ越し先から通いやすい転院先を探す
転院する場合、引っ越し先から通いやすい転院先を探しましょう。今通っている歯科医院の担当医師から、現在の治療を引き継いでくれる転院先を紹介してもらえる場合もあります。
また、自身で転院先の歯科医院を調べて担当医師に相談しても良いでしょう。
転院先を選ぶ際には、できるだけ引っ越し先から通いやすいところを選ぶことが大切です。あまりに遠い歯科医院を選ぶと、通うことが負担になったり、装置にトラブルが発生した際に応急処置で通うことさえ難しくなったりするからです。
また、せっかく料金が安いところを選んでも、距離が遠くて交通費がかかってしまうとあまり意味がないでしょう。転院先の詳しい選び方については、次の項目で詳しく解説します。
必要な書類を揃える
次に、転院するために必要な書類を揃えます。具体的には、次のような書類を用意する必要があるでしょう。
- 担当医師による紹介状
- 診療情報提供書類
- 初診から現在までの治療経過の資料
書類の作成にあたっては、1~3万円ほど費用がかかる場合もあります。資料作成には時間がかかるため、引っ越しが決まったらできるだけ早めに歯科医院に連絡しましょう。
転院先に必要な書類を提出する
最後に、転院先に必要な書類を提出しましょう。転院先に行く前に、矯正歯科の治療中であることを伝える必要があります。
歯科医院によっては、治療途中の患者さんを受け入れていない場合もあるからです。予約する時点で転院であることを伝えましょう。
必要な書類は自分で提出する場合もありますが、これまで通っていた歯科医院から転院先に郵送してもらえる場合もあります。
転院先の選び方は?
もし、引っ越しによって転院することを決めた場合、どのように転院先を選べば良いでしょうか。転院前の歯科医院から紹介してもらえる場合もありますが、もし難しい場合は自分で探す必要があります。
具体的には、次のようなポイントに注意して選ぶと良いでしょう。
- 日本矯正歯科学会認定の専門の医師を探す
- 受け入れ態勢が整っている転院先を探す
- これまでの治療を続けられる転院先を探す
まず、日本矯正歯科学会認定の認定医や専門の医師を探しましょう。日本矯正歯科学会のホームページから検索できます。
また、受け入れ態勢が整っている転院先を探すことも大切なポイントです。ホームページを見ると、転院受け入れについて紹介している歯科医院もあるので参考にできるでしょう。
また、お問い合わせフォームや電話で相談したときに、転院の流れを分かりやすく説明してくれる歯科医院もおすすめです。
最後に、同じ矯正器具を取り扱っている歯科医院のように、できるだけこれまでの治療が続けられる転院先を探すと良いでしょう。
歯科矯正にはさまざまな方法があり、歯科医院によって取り扱っている装置は異なります。矯正器具が異なると新たに作り直す必要があるため、費用がかさんでしまうでしょう。
現在かかっている歯科医師の紹介や、系列の歯科医院であれば、これまでと同じ治療が続けられる可能性が高いといえます。
歯科矯正の引っ越しで考えられるリスクは?
歯科矯正中に引っ越しして転院することには、さまざまなリスクがあります。具体的には、次のようなリスクが挙げられるでしょう。
- 転院前と転院後で治療方針が違う可能性がある
- 通常より費用が多くかかることがある
- 通常より治療期間が長くなることがある
- メンテナンスが不足する可能性がある
転院のリスクを一つずつ解説します。
転院前と転院後で治療方針が違う可能性がある
歯科矯正中の転院による1つ目のリスクは、転院前と転院後で治療方針が違う可能性があることです。
歯科矯正には多くの方法があり、歯科医院によってどのような方針・方法を採用しているかは異なります。
今通っている歯科医院と転院先で主に使用している装置が異なる場合、装置を付け替えなければならないこともあるでしょう。そうなると、転院した歯科医院で最初から治療を始めなければならないケースもあります。
通常より費用が多くかかることがある
歯科矯正中に転院すると、通常より費用が多くかかる場合があります。基本的に、転院先では改めて矯正治療費が満額かかることになるからです。
歯科医院によっては、引っ越すまでにかかった治療費を清算して返金してくれる場合もあるでしょう。
しかしながら、契約内容によっては返金してもらえないケースもあります。転院先の初回の診察では、検査料・診断料などの初期費用も必要です。
通常より治療期間が長くなることがある
転院による別のリスクとしては、通常より治療期間が長くなることがあることも挙げられるでしょう。転院するために治療を受けない期間があると、その期間は治療が進みません。
とくに中断期間が長くなると噛み合わせや歯並びに影響を与え、治療期間も長くなる場合があるでしょう。転院先によっては最初から治療をやり直す場合もあり、そうなると当然治療が終了するまでの時間は長くなります。
メンテナンスが不足する可能性がある
転院による別のリスクは、メンテナンスが不足する可能性があることです。転院までに治療が受けられない期間が長くなると、メンテナンスも不足する可能性があります。
そのため、むし歯や歯周病が進行してしまう場合があるでしょう。とくにワイヤー矯正のような固定式の装置を使用する場合は、むし歯や歯周病になるリスクが高いといえます。
引っ越しによって費用はどうなる?
引っ越しによって、歯科矯正の費用がどうなるか気になる方もいるでしょう。転院前の歯科医院での費用と、転院後の歯科医院での費用によって違う場合があります。
それぞれの場合に費用がどうなるかご紹介します。
転院前の歯科医院での費用
まず、転院前の歯科医院での費用ですが、費用の一部が返ってくるケース、返ってこないケースがあるでしょう。
これまでに治療した割合に応じて治療費を清算し、返金してもらえる場合があります。具体的にどのくらいの費用が返金されるかはケースバイケースです。
一般的には、治療がまだあまり進んでいなければ返金される金額は大きくなるでしょう。また、支払い方法によっても返金されるかどうかは異なる場合があります。
一括払いや、すでにすべて支払い済みの場合には返金対応していないケースが多いでしょう。一方、分割払いの場合は費用の一部が返金される場合もあります。
歯科医院によって異なるため、細かい内容はそれぞれの歯科医院に問い合わせましょう。
転院後の歯科医院での費用
転院後の歯科医院での費用は、転院前の歯科医院との関係により異なる場合があります。同じ系列の歯科医院に転院する場合、追加費用がかからないことが多いでしょう。また、使用している矯正装置も統一されている場合が多いです。
しかしながら、転院前の歯科医院とまったく別の歯科医院の場合は新たに矯正治療をすることになるため、あらためて規定された治療費がかかることになるでしょう。
新しい転院先を探した方が良いか、遠距離通院の方が安く済むのか、費用を良く計算することがおすすめです。
また、引っ越しする可能性がある方は、最初から全国展開している歯科医院で矯正治療を受けるのも1つの方法です。
保定期間に引っ越しをする場合はどうする?
矯正治療が終了し、後戻りを防ぐための保定期間に引っ越しが決まるケースもあるでしょう。保定期間中は矯正治療中ほど通院する必要はありませんが、保定期間に入ってからの転院に対応していない歯科医院もあります。
また、保定期間の転院を受け入れても、リテーナー(保定装置)が転院先で使えない場合もあるでしょう。
その場合は新たにリテーナーを作成するため、費用が余計にかかることになります。基本的には、転院先の歯科医師の方針により保定期間や装置などが決められることを覚えておきましょう。たいていの場合、保定期間中の通院は数か月に1回のケースが多いです。帰省や仕事などで転院前の歯科医院の地域に行く可能性がある場合は、転院しないという選択もできます。
まとめ
本記事では、もし歯科矯正中に引越しが決まった場合、どのような選択肢があるかをご紹介しました。
引っ越ししても通える範囲なら、そのまま今の歯科医院に通院することもできますし、転院先を見つけて歯科矯正を継続することもできます。
ただし、転院する場合は改めて矯正費用の全額が必要になるため慎重に検討することをおすすめします。
もし、引っ越しが決まった場合は、できるだけ早めに歯科医院に引っ越しについて伝えてどうするかを相談しましょう。
また、転院したあとは新しい担当医師としっかり話し合い、歯科矯正を継続できるようにすることが大切です。
参考文献