小児矯正は、乳幼児から小学生・中学生の学童期までのお子さんの健全な歯列の形成と口腔機能の維持を目的とした矯正治療です。
治療方法は見た目の自然さやつけ心地のよさが特徴のマウスピース型矯正と、大きな歯並びの改善が期待できるワイヤー矯正に分かれています。
小児矯正が初めてのお子さんは、抜歯や治療器具の痛みや音に不安や恐怖を抱く場合が少なくありません。歯列矯正の必要性を感じる親御さんは、精神的にも肉体的にも負担が少ない方法を選択する必要があります。
本記事では小児矯正におけるマウスピース型矯正とワイヤー矯正の違いを解説します。
マウスピース型矯正とワイヤー矯正の違い
マウスピース型矯正は歯型の石膏模型やデジタルデータから透明な矯正装置を作製し、一定期間装着を続けて歯並びを整える治療方法です。
対してワイヤー矯正は歯の表面にブラケットとワイヤーを固定して、歯列を形成する治療方法です。それぞれの一般的な違いは次のとおりです。
見た目の違い
会話中や食事中に口腔内の器具が見えることから、興味を抱きつつも矯正治療を敬遠する方は少なくありません。
しかし、マウスピース型矯正は無色透明の器具を装着するため、金属製のブラケットとワイヤーをつけるワイヤー型矯正に比べて見た目が目立ちにくい傾向があります。
装着時間と治療期間の目安
マウスピース型矯正は一日に約20~22時間器具を装着し続ける必要があるのに対し、ワイヤー矯正は治療が完了するまで矯正装置をつけることになります。
マウスピース型矯正の平均的な治療期間は2年〜3年です。
移動後の後戻りを防ぐためマウスピースの装着期間が終了しても、リテーナー(保定装置)を約1年間装着する必要があります。一方ワイヤー矯正の治療期間はマウスピース型矯正よりやや長く、1年〜3年程度です。
上記は全体矯正と仮定したうえの比較です。部分矯正の場合は、いずれの方法でも短ければ3ヶ月程度で治療が完結します。また、ワイヤー矯正は裏側矯正(舌側矯正)と表側矯正の手法に分かれています。
日常生活への影響
食事や歯磨きの面では、ワイヤー矯正の方が日常生活への影響が大きくなります。歯と器具の間に食べ物が詰まりやすく、取り除くのに苦労する可能性があります。
また、ワイヤー矯正はメンテナンスが難しく、歯周病やむし歯の発症リスクが高い治療方法です。
マウスピース型矯正は食事や歯磨きのときは原則としてマウスピースを取り外すため、日常生活への影響は軽微といえるでしょう。
治療中に口腔内の環境が悪化して歯の痛みや歯茎の腫れが発生すれば、学校生活やご家庭の暮らしに支障をきたす場合があります。ただしマウスピース型矯正も器具の装着中は水以外飲食できないという制限が課されます。
お手入れのしやすさ
マウスピース型矯正の場合は器具をとり外して歯を磨けるため、メンテナンスの難しさは治療前と変わりません。マウスピースは毎食後に水洗いして、食べかすや汚れが付着しないよう注意しましょう。
また2〜3日に1回程度は専用の洗浄液を用いて除菌すると効果的です。ワイヤー矯正は器具を取り外せないため、治療前より食べかすが残りやすく、歯垢も付着しやすくなります。
ブラケットやワイヤーが邪魔で歯ブラシを思いどおりに動かせないことから、以前にも増して丁寧な歯磨きが必要になります。
費用の目安
治療費用はマウスピース型矯正よりもワイヤー矯正の方が高い傾向にあります。神奈川歯科大学付属横浜クリニック・横浜研修センターの矯正歯科治療料金規定では、次のように定めています。
- 乳歯列期、混合歯列期の矯正基本治療料:476,300円(税込)
- 永久歯列期の金属の矯正装置:833,490円(税込)
- 歯の裏側の矯正装置:1,369,400円(税込)
- マウスピース型矯正:893,100円(税込)
上記の治療費用のほかに抜歯やむし歯治療の外科処置の費用、初診料、定期検査料、装置のクリーナー代などの負担が伴う場合があります。
総治療費用はマウスピース型矯正は1,000,000円(税込)、ワイヤー矯正は1,500,000円(税込)程度を上回る場合も少なくありません。
【小児矯正】マウスピース型矯正のメリット・デメリット
小児のマウスピース型矯正は大きな歯列移動は難しいものの、見た目への影響が少なく、負担が軽い点が特徴です。
治療方法のメリット・デメリットを考えてみましょう。
メリット
マウスピース型矯正のメリットは器具が無色透明で目立ちにくく、見た目に影響を及ぼさないことです。また、金属アレルギーのあるお子さんでも治療が可能です。
患者さん自身で取り外しができ、口腔内の清掃が容易な点も特徴です。またお子さんのマウスピース型矯正は成人後に治療を受ける場合と比較して、痛みが少ない傾向にあります。
顎の骨がやわらかく歯が動きやすいためです。小児矯正では多くの場合、口周りの筋肉を鍛えるトレーニングを並行して実施します。
発育の過程にあるお子さんの歯列矯正が計画どおりに進むか否かは日々の継続に左右されます。 親御さんも協力して取り組み、顎の運動を毎日継続するモチベーションを高めましょう。
デメリット
マウスピース型矯正のデメリットは、治療の成果が患者さん自身の行動に委ねられることです。
一般的には食事と歯磨き以外の1日約20〜22時間の装着が義務付けられますが、我慢できずに自己判断で取り外す方が多数います。
結果想定どおりに治療が進まず、計画した治療期間のうちに終了せず失敗したと嘆く方が後を絶ちません。
小児のマウスピース型矯正では歯並びや噛み合わせが十分改善されず、成人後に再度歯列矯正をすることになった症例は少なくありません。
さらにマウスピース型矯正は歯の移動距離に限界があり、症状によっては治療が難しいこともあります。使用できる症例が限られる点は大きなデメリットといえます。
【小児矯正】ワイヤー矯正のメリット・デメリット
歯列矯正と聞くと、ワイヤー矯正をイメージする方は少なくありません。この治療方法のメリットとデメリットを確認しましょう。
メリット
ワイヤー矯正のメリットは、幅広い症例に対応できることです。大きく動かして歯が生えるスペースを設けるほか、微細な調整も効きます。
ワイヤー矯正の代表的な装置は舌側弧線装置およびマルチブラケットです。乳歯列期、混合歯列期の患者さんは前者が、永久歯が生えそろった12歳以降の方には後者の使用が検討されます。
また近年は成人後の矯正治療を中心に、外見上は目立ちにくいセラミックタイプのブラケットが登場して注目を集めています。今後小児矯正にも波及していけば、審美面の懸念点は解消の方向に向かうでしょう。
治療計画どおりの正確な歯の移動が期待できる器具機器はマルチブラケットです。上下だけなく前後の奥行きを含む三次元の操作が可能で、永久歯の最終的な配列に用いられます。
また矯正用のアンカースクリューを使用した場合、治療期間の大幅な短縮につながることがあります。
歯の移動の基準となるくさびを打ち込む方法です。難しい部位や大きな位置の変動が伴う場面でも治療効果を発揮します。
デメリット
ワイヤー矯正のデメリットは、ワイヤーとブラケットが食事の快適さを阻害し、ときには邪魔だと感じるリスクがあることです。
また歯ぎしりの癖がある方は、舌や粘膜に傷をつける可能性が否定できません。多大な効果が期待できる反面、メンテナンスの手間が伴うといえます。
実際にマルチブラケットは歯磨きに不備がみられる際にはむし歯や歯周病の発症リスクが高くなるという因果関係が認められています。
またワイヤー治療は全体的に費用が高額になりやすく、金銭的に厳しい状況のご家庭は治療費の捻出に苦慮することでしょう。
通常かつ一般的な金属ブラケットではなく、歯に近い色で目立ちにくい審美ブラケットや、歯の裏側にワイヤーを通す舌側矯正装置は高額の傾向があります。
マウスピース型矯正がおすすめなお子さんの特徴
マウスピース型矯正が向いているお子さんの特徴は次のとおりです。
- 見た目への影響を極力とどめたい方
- 治療中の痛みを恐れている方
- 医師が定めた治療期間と装着時間を順守できる方
- 親御さんが治療に協力的なご家庭の方
目立ちにくく取り外しが容易なマウスピース型矯正は、お子さんの歯並びを正す方法として選択するケースが目立っています。歯型を複数用意して治療の段階が進むごとに付け替えます。
少しずつ歯を整えるために痛みが出にくいことも、恐怖心に苛まされる小児期の治療に適切だと述べた理由です。お子さんの場合、歯列矯正の適齢期は混合歯列期と呼ばれる6~12歳の間です。
一般的にはまだ幼い頃と呼べるため、歯磨きの習慣がきちんと染み付いていない方もいるでしょう。また多感な年代であることから、友人との会話や昼食時に容貌が悪化することに過度に恐れを抱くお子さんもいます。
マウスピース型矯正が成功するか否かは、装着時間の管理に委ねられます。このため親御さんのサポートが重要事項の一つに掲げられると認識しましょう。
ワイヤー矯正がおすすめなお子さんの特徴
ワイヤー矯正が向いているお子さんの特徴は次のとおりです。
- 歯並びの乱れ方が重度な方
- 短期間に治療を終えたい意向をもつ方
- 年齢や性格を考慮して自己管理が難しいとされる方
金属製ワイヤーにより強い力で歯を動かせるため、マウスピース型矯正が難しい重度の症状に適しています。
例えば過度なそう生や出っ歯、受け口、過蓋咬合などの症例です。ほかにも抜歯が伴う場合や、顎の骨格の影響によりマウスピースの効果が限定されるケースなどはワイヤー矯正を検討する価値があります。
不正咬合は歯の位置に起因する症例と顎骨のサイズや位置が原因の2パターンが考えられ、それぞれ患者さんの割合はおおむね半々です。
単に歯の位置に問題があるにとどまれば、マウスピースを付け替えて徐々に改善が見込めます。しかし骨格性の不正咬合は、顎骨の成長の抑制や外科的治療の必要が生じます。
男子では12〜17歳、女性は10〜15歳に差しかかると、思春期の骨格の急激な成長に伴って出っ歯や受け口が悪化するケースは少なくありません。
ワイヤー矯正でも対応が難しい過度に重度な症例の場合は、チンキャップやヘッドギアの装着が義務付けられる場合があります。
また短期間に治療を終えたいと希望する方は調整力が強く、部分的な治療にも対応可能なワイヤー矯正が向いています。また小学生に成り立ての幼いお子さんや性格的にきちんとした自己管理ができない方向きです。
食事や歯磨きのたびに器具を外して洗う面倒な手間が不要です。ただしワイヤー矯正でも1ヶ月~3ヶ月のスパンで歯科医院に通い、器具の交換や調整を受ける手間は避けられません。
迷ったときの歯科医院の選び方
マウスピース型矯正がよいかワイヤー矯正が適切か判断できない方は、医師の指導を受けると迷いが解消されるでしょう。信頼できるクリニックや歯科医院を見つける際は、価格だけを判断基準にしないことが大切です。
歯科矯正のような専門性が高い治療を安価に受けられることはメリットです。実際には技術や経験の不足を背景とする場合もあると考えられます。
本来なら幅広い選択肢があるにも関わらず、医師が得意な領域の治療方法に限定されるリスクがあります。例えば非抜歯で可能な症状なのに抜歯の前提で治療計画の立案が行われるケースです。
また矯正治療は患者さん自身のメンテナンスいかんで治療の成果が変動する特徴があるため、経過によっては治療方針の見直しや調整が必要です。
しかし安価な歯科医院やクリニックは医師の知識や技術の不足から柔軟な治療ができず、不十分な歯の移動や改善にとどまる可能性が高いためです。
まとめ
小児矯正は第一大臼歯が生えはじめる6〜7歳頃から適齢期に差しかかります。顎の骨が成長途上にある小児期に、歯並びや噛み合わせの改善を目的に矯正治療を検討する親御さんは少なくありません。
マウスピース型矯正とワイヤー矯正のいずれが適切かどうかは、患者さんを悩ませる大きな問題です。状況に応じた選び方は記事内で紹介したとおりです。
不安や恐怖を感じやすいお子さんの場合、マウスピース型矯正が負担の少ない治療方法が向いています。一方で症状によってはワイヤー矯正しか実施できないため、どちらがよいかはケースバイケースです。
治療方法の選択で迷ったときは、ぜひ信頼できる歯科医院やクリニックの歯科医師の指導を仰ぎましょう。費用が相場と大きくかけ離れている場合、治療内容や実績を慎重に確認することが重要です。
参考文献