マウスピース型矯正の治療を行う場合、抜歯をする必要はあるのか気になりませんか。抜歯といえば痛みを伴うため、できれば抜歯をしたくないという方もいるでしょう。
抜歯をするかどうかは歯科医師の判断によって異なることがありますが、抜歯をする場合とはどのような歯の状態なのでしょうか。
抜歯をするといわれても、むし歯にもなっていない健康な歯を抜くことに抵抗がある人もいるでしょう。
この記事では、マウスピース型矯正をするにあたって抜歯が必要なのかどうか、抜歯をせずに無理な治療をした場合どのようなリスクがあるのか解説します。
ぜひ、最後までご覧ください。
マウスピース型矯正は抜歯しないと治療できない?
マウスピース型矯正は、透明なマウスピース型を装着して歯を少しずつ動かす方法のことです。
歯を理想の歯並びになるまで動かすためには、抜歯をしないと治療できないのか気になる方も多いでしょう。
マウスピース型矯正では、抜歯が必要な場合と抜歯の必要がない場合があります。歯の状態に応じて、抜歯の必要性を判断します。
「抜歯をするのが怖くて歯科矯正に踏み切れない」という方もいるでしょう。抜歯が必要かどうかを自分で判断することは難しいです。
歯科矯正を検討している方は、ぜひ一度歯科医院を受診して詳しい話を聞いてみましょう。
マウスピース型矯正で抜歯が必要な場合
マウスピース型矯正を行うにあたって、抜歯が必要な場合とはどのような歯の状態なのでしょうか。
- 歯の位置に問題がある
- 歯の生える向きに問題がある
- 前歯がひどく突出している
- 顎が小さく歯が並びきらない
- むし歯や歯周病がある
こちらでは、以上の5つのポイントに分けて詳しくみていきます。
歯の位置に問題がある
歯の位置に問題がある場合、抜歯が必要です。例えば、下顎が上の前歯よりも前に出ている「反対咬合」と呼ばれる状態があります。
本来は上の歯が下顎よりも前に出ているはずですが、上下の噛み合わせが反対になり「受け口」とも呼ばれています。
受け口の状態だと、正しいあごの動きができずに滑舌が悪くなったり、食事のときに咀嚼音が大きくなったりすることがあるでしょう。
さらに、前歯・奥歯に負担がかかり、歯の健康を害してしまう可能性があります。
歯の生える向きに問題がある
歯が生える向きに問題がある場合、抜歯が必要になります。例えば、「叢生(そうせい)」と呼ばれる、歯並びがデコボコしている状態を状態のことです。このような歯の状態の場合、抜歯が必要になることがあるでしょう。
歯が綺麗に正しく生えるためのスペースが不足していることから、歯が重なり合って生えたり、ねじれて生えたりします。
また、歯が大きい人の場合や顎が小さい場合なども歯が綺麗に生えるスペースがないことから、叢生になることがあるでしょう。
ただし、軽度の叢生である場合は抜歯が必要ないこともあります。
とはいえ、綺麗な歯並びを手に入れるためには、歯を抜かなければならないケースが多いでしょう。 また、奥歯の歯並びがデコボコしていると感じる場合は、親知らずの生え方に問題がある可能性があります。
まだ生えていなくても親知らずに問題がある場合は、抜歯することが多いです。
前歯がひどく突出している
前歯が前に出ている出っ歯状態の場合、抜歯が必要になるでしょう。歯が横に綺麗に正しく並ぶためのスペースが十分に足りていないと、出っ歯のように前の歯が特に突出してしまう状態になります。
よって、綺麗な歯並びにするためのスペースをまず確保する必要があるでしょう。そのためには、不要な歯を抜歯して歯が並びやすい隙間を作る必要があります。
前歯が非常に突出してしまう原因は、人によって異なるでしょう。
両親が出っ歯の場合や、幼い頃に口に手をいれて指を舐める指しゃぶりやシリコン製のおしゃぶりを咥えていたなどが考えられます。
また、口呼吸などの生活習慣が関係することもあります。
前歯が出ていることで抜歯が必要になるかどうかは、歯科医師によって判断が異なるため納得して治療を進められる歯科医院を選びましょう。
顎が小さく歯が並びきらない
理想の歯並びにするための歯を並べるスペースがないと綺麗な歯並びにはできません。つまり、顎が小さくて歯が並びきらない場合は抜歯をする必要があります。
むし歯や歯周病がある
むし歯や歯周病などの歯のトラブルがある場合、歯科矯正を始める前にきちんと治す必要があります。
むし歯や歯周病の治療をせずに矯正治療を開始すると、矯正中に抜歯することになるためです。
マウスピース型の作成後にむし歯治療を行うと、歯の形が変わる可能性があります。そうすると、歯並びに影響が出てしまい、作製したマウスピース型が合わなくなってしまうでしょう。
歯のトラブルによって抜歯をしないためにも、歯磨きなどで口腔内を清潔に保つことが大切です。
マウスピース型矯正で抜歯が必要ない場合
マウスピース型矯正を行うにあたって、抜歯が必要ない場合とはどのような歯の状態なのでしょうか。
- IPRで対応できる
- 歯列の幅を広げられる
- 奥歯を後方に移動できる
こちらでは、以上の3つのポイントに分けて詳しくみていきます。
IPRで対応できる
歯を小さく削ることによって歯が動くためのスペースを確保できる場合は、IPRで対応できます。
IPRとは「Inter Proximal Reduction」の略称で、歯を抜くのではなく、歯を削って小さくすることで歯並びを整えるスペースを生み出す方法です。
IPRは、歯の表面にあるエナメル質の部分をヤスリがけします。むし歯や歯周病などの歯のトラブルがない健康な歯を削ると聞くと「痛い・怖い」というような印象を受けますが削る大きさは0.1~0.25mm程度で痛みはありません。
そのため、IPRの処置によって歯の強度が過度に低下したり、知覚過敏になったりする心配はほとんどないでしょう。
歯列の幅を広げられる
歯列の幅を広げられる場合、歯並びを整えるスペースを確保できるため抜歯の必要がありません。
歯列の横幅を広げる方法を「側方拡大」といいます。片方の顎だけをを側方拡大した場合、上と下でバランスが崩れてしまうため両方の顎の拡大が必要となるので注意しましょう。
もし歯列を横に広げることができた場合でも、マウスピース型矯正に必要なスペースを十分に確保できない場合は抜歯が必要になります。
奥歯を後方に移動できる
奥歯を後方に移動させることで歯を移動させるための十分なスペースが確保できる場合は、抜歯が不要になります。
矯正用のアンカースクリューと呼ばれる装置を歯茎に埋め込みます。
そして、アンカースクリューを軸にして第2大臼歯である一番奥の歯をさらに奥へ引っ張ることで、歯を移動させることが可能です。
個人差があるものの、親知らずを抜いている場合はその位置まで奥歯を移動できるでしょう。
しかし、親知らずがある場合や生まれつき顎が小さい場合などは、奥歯を後方に動かせたとしても綺麗な歯並びにするためのスペースを確保できないことがあります。
このような場合は、抜歯が必要になるでしょう。
マウスピース型矯正で抜歯するメリット
マウスピース型矯正をするにあたって、抜歯をするメリットはどのようなものがあるのかみていきましょう。
まず、抜歯をすることで複雑な歯並びでも綺麗な歯並びにできます。例えば、1本の歯を抜くだけでも歯が移動できるスペースが広がります。
- 重度の叢生や出っ歯
- 受け口
- ガタついた歯並び
歯を移動させるスペースが生まれれば、上記の治療が可能です。抜歯をすることで、歯列矯正の可能性が広がります。
また、抜歯をすることで治療計画を立てやすくなります。
抜歯により十分なスペースを確保することで、歯を確実に移動でき、シュミレーションどおりに歯を動かせるためです。
それ以外にも、抜歯をしたほうが歯科矯正治療後の輪郭に影響が出にくくなります。
仮に抜歯をせずに歯列矯正を終了した場合、前歯の加減によっては口元が盛り上がってしまうことがあるでしょう。
抜歯をすることで歯並びを整えるだけでなく、綺麗なフェイスラインを手に入れることが可能です。
マウスピース型矯正で抜歯するデメリット
マウスピース型矯正をするにあたって、抜歯をするデメリットはどのようなものがあるのかみていきましょう。
まずは、体への負担がかかるということです。歯科矯正に伴う抜歯は、むし歯のように使えなくなった歯を抜くわけではなく健康な歯を抜くことになります。
抜歯をした後には、以下のような注意が必要です。
- うがいを激しくしない
- 過度な運動を控える
- 長時間お風呂に入らない
- お酒を飲まない
抜歯の処置中に、骨・神経などを損傷するリスクがあります。歯列矯正のために抜歯が必要でも、体への負担が大きい処置であることを覚えておきましょう。
また、抜歯をして歯を移動させるための十分なスペースを確保する必要がある場合、治療期間が長くなります。抜歯によって十分な歯のスペースが空いている分、歯を動かす距離も大きくなるためです。
次に、抜歯が必要となるとそのための費用がかかります。歯科矯正は自由診療のため保険は適用されず、全額自己負担となります。
歯科矯正治療における抜歯においても保険は適用されないため、1本あたり15,000円(税込)程度必要です。何本も抜歯が必要と判断された場合、費用の負担が増えるでしょう。
マウスピース型矯正で抜歯が必要な状況で抜歯せず治療するリスク
マウスピース型矯正にあたって抜歯が必要な状況であるにも関わらず、抜歯をせずに治療を進めてしまうとどのようなリスクがあるのでしょうか。
- 歯茎が下がる
- 噛み合わせが合わなくなる
- 出っ歯になりやすい
- 矯正の治療期間が長くなる
- 横顔のバランスが崩れる
このようなリスクが考えられます。こちらでは、この5つのポイントについて詳しくみていきましょう。
歯茎が下がる
抜歯をせずにマウスピース型矯正による治療を進める場合、歯茎が下がることがあります。これは、本来は抜歯をして歯を綺麗に並べるためのスペースを確保する必要があったにも関わらず、狭いスペースに歯を無理やり並べてしまうためです。
無理に歯を並べることによって、骨に収まりきれなかった歯が骨の外に飛び出してしまって歯茎が下がってしまうでしょう。
骨の高さによって歯茎の大きさが決まるため、このような状態になってしまった歯に安定した歯茎ができません。
歯茎を戻すためには歯を骨の中に入れる必要があるため、抜歯をしてもう一度矯正することになるでしょう。
噛み合わせが合わなくなる
抜歯をせずに十分なスペースを確保しないままに無理やり歯を並べて矯正した場合、歯が外側に突出してしまい口を閉じた状態でも口もとが出てしまうことがあります。
その場合、嚙み合わせにも不具合が生じてしまい両方の歯でしっかりと噛めないというトラブルが発生するでしょう。
出っ歯になりやすい
抜歯をしなかったために歯に十分なスペースがないまま矯正治療を完了した場合、出っ歯になりやすくなります。そのため、口元が盛り上がったような仕上がりになる可能性があるでしょう。
矯正の治療期間が長くなる
抜歯をせずに歯列を広げてしまうと、次のことが起こる恐れがあります。
- 歯周病が進行しやすい
- 歯並びが矯正前の形に戻ってしまって状態が安定しない
このような状態になってしまった場合、歯のトラブルの治療に時間がかかったり、矯正をやり直すことになってしまいます。そうすると結果的に治療期間が長くなってしまうでしょう。
横顔のバランスが崩れる
抜歯をしなかった場合は出っ歯になるリスクがあり、横顔のバランスが崩れることがあります。
横顔のバランスは「Eライン(esthetic line)」と呼ばれる「横側から顔を見たときに鼻先と下顎の切端部を結んだ直線」の位置で決まります。
Eラインが唇に少し触れるか、全く触れないことが理想です。 歯科矯正をすることでEラインを理想どおりに修正できますが、抜歯をしなかった場合はそれが難しくなるでしょう。
まとめ
マウスピース型矯正で、抜歯をせずに治療を進めることは可能です。しかし、抜歯が必要なのに抜歯を行わずに歯に十分なスペースがないまま矯正治療を進めてしまうとさまざまなトラブルが起きてしまうでしょう。
トラブルが起きてしまうと、その対処のために治療が長引いたり、再度矯正をすることになりかねません。
抜歯と聞くと痛みに抵抗がある方は抜歯を避けて治療を行いたくなりますが、歯科医師の指示に従い適切な治療を行うようにしましょう。
参考文献