歯における矯正治療に悩まれている方は少なくないでしょう。歯並びのよい口元に憧れ、芸能人の雑誌を見ては自分の口元と比べてしまい、自信をなくしてしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。
医療の進歩によって歯列矯正の世界では、かつてのワイヤー矯正と比べて人目につきにくいマウスピース型の矯正器具が登場しています。
歯全体の歯列矯正としてマウスピースは有効ですが、費用や治療期間を考え部分的に矯正したいと考える方も少なくありません。
前歯のみの矯正方法としてマウスピースが適用できるのかについて、一緒にみていきましょう。
前歯矯正にマウスピースは適応できる?
前歯矯正にマウスピースを使用することは可能です。前歯だけをきれいにしたいと考える方は少なくなく、マウスピースを使った前歯の矯正は適した治療といえます。
マウスピース型矯正にはさまざまな種類がありますが、どの種類でも前歯だけの矯正治療はできます。ただし、お口の中の状態によっては治療を断られることもあるでしょう。
マウスピースを使った前歯矯正を検討されている方は、まず、治療を受ける歯科医院で相談するのがおすすめです。
歯列矯正する箇所
歯列矯正をする箇所は前歯となりますが、どの部分までが前歯なのでしょうか。前歯は真ん中の歯から左右に3本ずつ、犬歯までの歯を指します。上が6本、下が6本の計12本です。
歯並びが悪い・出っ歯やすきっ歯がある・ねじれがあるなどの気になる歯列に対して矯正できます。
- ガタガタ歯や八重歯
- 出っ歯やすきっ歯
- 受け口
- 前歯でお口が閉じない
- 噛み合わせが悪い、深すぎる
以上の状態である歯に対して、マウスピース型矯正治療が受けられる可能性があります。ただし、あまりにも歯並びが悪い場合など状況によっては矯正治療が受けられないケースもあるため、詳しくは歯科医院にご相談ください。
マウスピースを選択するメリット
従来のワイヤー矯正ではブラケットと呼ばれる金属製の矯正装置を歯の表面に取り付けるため目立ってしまう欠点があり、人目を気にして矯正治療に億劫になる人もいました。
その点、マウスピース治療は透明な矯正装置となるため取り入れやすく、人目を気にする人にとってもメリットの大きい矯正方法といえます。上の前歯だけでなく下の前歯のみの矯正も可能です。
- 従来のワイヤー矯正と違って透明であるため目立ちにくい
- 前歯のみの矯正が可能でありコストを抑えやすい
- 前歯のみの矯正の場合は歯列全体の矯正よりも治療期間が短くなりやすい
また、定期的にマウスピースを交換することにより少しずつ歯列を矯正できる点もメリットでしょう。
従来型のワイヤーによる矯正治療では、歯列全体を一気に動かしていくため、矯正時の痛みや違和感が懸念点でした。対してマウスピース型矯正治療の場合、段階的に歯を動かすため、移動の際の痛みが分散されて抑えられる点がメリットです。
また、歯科医院によってはマウスピース型矯正治療によって歯列がどのように移動していくのか、治療前に3Dでシミュレーションすることもできます。
前歯矯正をマウスピースで行える適応例
マウスピースで行える前歯矯正について、適応例をご紹介します。すきっ歯や軽度の不正咬合・歯列矯正後の後戻り治療などが挙げられますが、個人差があるためすべての方に対して有効とは限りません。歯科医院との相談のうえ、治療を行っていくことをおすすめします。
すきっ歯
すきっ歯は、空隙歯列や正中離開とも呼ばれており、歯に隙間が生じている状態のことを指します。
主に舌を前歯に押し付けてしまう癖や、歯が小さい・本数が少ないなどの理由によって生じる症状であり、審美面でのデメリット以外にも言葉の発音がしづらいなど機能的な問題が生じることもあります。
ほかにも下唇を上の歯で噛む癖もあり、それによって上の歯が外へ開くことで隙間が生じるケースもあるようです。これらはマウスピースによる矯正治療が可能なケースがあります。
ただし、個人差があるため誰でも治療を受けられるとは限りません。また、舌を前歯に押し付けてしまうなど悪癖がある場合は、せっかく治療をしても再びすきっ歯になる可能性も否定できません。悪癖がある場合は、悪癖を改善する必要もあることを認識しておきましょう。
軽度の不正咬合
デコボコとした歯並びや出っ歯など、歯並びの悪さによって噛み合わせが良くない状態のことを不正咬合といいます。軽度であればマウスピースによる矯正治療が可能です。
また歯が重なったり、犬歯が正常な歯列よりも上から生え(八重歯)ていたりしても矯正できるケースもあります。
これらは顎の成長異常や幼児の頃の指しゃぶりが原因となって発生していることもあります。放っておくとすきっ歯と同様、審美面での問題が起こるだけでは済まないケースも出てくるでしょう。
咀嚼がしづらいことで食べ物をしっかり擦り潰せず、大きな塊のまま丸呑みし胃に送られることで消化不良を引き起こすことが考えられます。ほかにも食事中に舌や頬の粘膜を噛んでしまい、口内炎を引き起こすリスクもあります。
また、発音のしづらさや顎関節症などの深刻な問題を引き起こすことにもなりかねません。矯正治療によってこれらの問題を改善していくことは必要といえるでしょう。
歯列矯正後の後戻り治療
歯列矯正後の後戻り治療においても、マウスピース型矯正治療は有効です。矯正治療を行った歯は、歯の土台である骨が不安定であるため動きやすい傾向にあります。
動かないよう固定させておくために必要となるのが保定装置です。これによって歯の後戻りを防ぐ必要があります。ですが、先述したとおり下で歯を押してしまう悪癖のある方は、後戻りしやすい傾向にあるのです。
ほかにも爪を噛む癖・頬杖・どちらか片方の歯で噛んでしまう噛み癖なども悪癖であり、せっかく手間や時間やコストをかけて治療しても、もとに戻ってしまうリスクが高まります。また、矯正治療後の保定装置の装着時間をしっかり守ることも大切です。
装着時間が短かったり、正しく装着できていなかったりするとこちらもまた、後戻りの原因になりかねません。
前歯矯正をマウスピースで行う場合の費用
前歯矯正をマウスピースで行う場合、保定装置による保定期間も含めて約50万円(税込)程度です。
これは上顎または下顎のそれぞれ6本までを矯正させる費用であり、かつ治療期間が半年程度で終わる方の例となります。もちろん個人差もあり、歯科医院による診断結果で変わるため一概にはいえませんが、このくらいかかる見込みと考えておくといいでしょう。
マウスピースによる前歯の矯正治療
マウスピースによる前歯の矯正治療について、矯正中の治療期間や通院回数・保定装置などをご紹介していきます。
歯列矯正中の治療期間・通院回数
歯列矯正中は一般的に1日20時間、マウスピースを装着する必要があります。これは1日のうち食事中や歯磨きを除いた時間は基本的に、マウスピースを装着し続ける必要があるということです。
定められた時間を守らず、装着時間を短くしていると矯正治療がうまく行えなくなり、長い期間治療を続けなければならなくなります。異物が口内に入るので、矯正治療を始めた当初は煩わしさを感じるかもしれません。ですが、しっかり装着し続けるようにしましょう。
マウスピースは、メンテナンスを怠ると黄ばんできたり変形したりすることもあります。歯科医師の指示のもと、定期的な洗浄はしっかり行いましょう。クリーンな状態で保ってこそ、矯正の効果が発揮できます。
そして、歯列の移動に伴ってマウスピースを交換していくことも忘れないようにしましょう。一般的には7日程度で交換していくことが多いようです。
前歯だけの部分矯正の場合、14〜20枚程度を使用し、大体100日〜140日程度治療します。すでに歯が動いている状態で同じマウスピースを使用していても効果がないばかりか、治療期間が長期間しかねません。
また通院回数は2、3ヵ月に1回程度ですが矯正する歯の状態によって変わる可能性もあるため、あくまで参考程度にしてください。
治療後は保定期間が必要
先述しましたが、矯正治療後は動きやすくなっている歯の土台の骨を固定させるための保定期間を設けなければなりません。
保定装置はリテーナーと呼ばれていますが、この期間中はリテーナーを正しく装着し、決められた期間装着するよう意識しましょう。
保定期間は矯正治療の期間と同じくらいの期間であることが通常であり、長い期間の装着に煩わしさを感じるかもしれませんが、辛抱して続けることが肝心です。
リテーナーはマウスピースであることが少なくなく、すでに矯正治療でマウスピースを使用しているため、違和感は少ないでしょう。
マウスピースで前歯矯正ができないケース
マウスピース型矯正は大変便利で審美面でも優れていますが、なかにはマウスピースによる矯正治療ができないケースもあります。詳しく見ていきましょう。
噛み合わせに問題がある
噛み合わせに問題がある場合、マウスピースによる矯正治療を受けられないことがあります。上下の顎に大きなずれがある場合や、上顎が大きく下顎が小さい(または上顎が小さく下顎が大きい)場合は歯列だけでなく骨格そのものを矯正する必要があり、マウスピースだけでは矯正できません。
ほかにも抜歯を伴った場合も、残された歯の移動量が大きくなるため不適合です。また、マウスピースはピッタリと歯に密着させてこそ矯正の効果が出るものです。埋伏歯などは短くマウスピースでしっかり覆うことができないため、マウスピースによる歯列矯正は難しいでしょう。
抜歯が必要なケース
先述しましたが、抜歯が必要な場合もマウスピース型矯正治療はできません。歯がぐらついてしまうとマウスピースを装着しても矯正力が働かないためです。
重度の歯周病を患っている
重度の歯周病を患っている場合も、マウスピース型矯正治療は受けられません。重度の歯周病に罹患していると、矯正治療の途中であっても歯が抜け落ちてしまう可能性があります。
その状態で歯列矯正治療をしてしまうと、矯正力の具合によっては歯がぐらついてしまう恐れもあります。抜け落ちると矯正治療を続けることができなくなるでしょう。
またマウスピース型矯正することで歯垢が溜まってしまい、歯周病を悪化させるケースもあるようです。歯周病を患っている場合は、まずは歯周病を治すことを優先しましょう。
前歯矯正をマウスピースで行うリスク
前歯の矯正をマウスピースで行う場合、そのリスクがあることも認識しておきましょう。歯科に限らず、どのような治療もリスクはあるものです。そのリスクを許容してもなお、治療によるメリットが大きいと判断したときに初めて、治療を開始できるといえるでしょう。
一つ目のリスクとして、噛み合わせが変わってしまうことが挙げられます。解決策として全顎矯正で噛み合わせを整える・早期接触している歯の咬合調整を行う必要が生じることもあるでしょう。
その他、以下のようなリスクがあります。
理想どおりの仕上がりにならない
少し隙間が残っていたり、多少のガタつきが生じていたりなど、理想どおりの仕上がりにはならなかったケースもあるようです。
歯科医師もプロなので、極力患者さんの理想とする歯並びとなるよう努めます。それでも、ご自身の理想とする仕上がりになるかどうかはやってみなければわからない場合もあります。
特に最後の微調整は難しいとされているようです。理想とする仕上がりにするためには、装着時間を守ったりマウスピースや歯のメンテナンスをしっかり守るという、患者さん側の努力も必要です。
患者さんと歯科医師がお互いに万全を尽くして初めて、成功の可能性を高められる治療である点は留意しておきましょう。
歯を削る処置が必要になる
マウスピース型矯正治療において、歯列をきれいに並べるために歯を削る必要が生じることがあります。歯を削ることで歯を動かす方向へのスペースが生じ、理想とする歯並びへさらに近づけることができるためです。
削る面積は小さく、歯のエナメル質を0.25mm程度削ります。場合によっては少しの痛みが生じる可能性がありますが、ほとんど感じないことが多く体への負担は小さいです。そのうえ、きれいに並べるために抜歯をする必要がなくなります。
また、削らなければ移動距離が長くなってしまう場合でも、削ることで最小限の移動に済ますことができるため治療期間の短縮にもなります。
むし歯・歯周病になる
マウスピースは毎日20時間程度装着することが推奨されています。装着している間は唾液に触れにくい状態であり、唾液による自浄効果が得にくい状況にあるため、むし歯や歯周病の原因となりやすいでしょう。
そのため、以下の点を押さえておく必要があります。
- 積極的に水分を摂る
- 食事中はマウスピースを外す
水分を摂ることで、口腔内の乾燥防止に努めましょう。口腔内が乾燥していると、細菌などに感染しやすくなります。
夏場などはもちろんのこと、水分補給をさほど必要としない冬場であっても、マウスピース型矯正治療中は水分の摂取を行うようにしてください。
また食事中はマウスピースを外しましょう。マウスピースを装着したまま食事をすると、マウスピースと歯の間に挟まった歯垢が原因となってむし歯のリスクが高まります。マウスピースを装着する前にも歯磨きをすると、より効果的です。
まとめ
マウスピースは全歯列だけでなく、前歯だけの部分矯正も可能です。便利である反面、使い方を間違えるとむし歯や歯周病などのリスクを高めてしまいます。
しっかりメンテナンスを施したうえで、治療を行うようにしましょう。
参考文献