別名、見えない矯正とも呼ばれている「裏側矯正(舌側矯正)」。
歯の裏側に装置を付けるため、目立たないことが最大の特徴です。
歯並びが影響して、「滑舌が悪い」「ものが食べづらい」など、お悩みの方も少なくないでしょう。
そこで本記事では、歯列矯正で後悔しないために、裏側矯正(舌側矯正)についてお伝えしていきます。 「表側矯正」「マウスピース矯正」にもふれますので参考にしてください。
裏側矯正(舌側矯正)はおすすめしない?
「裏側矯正(舌側矯正)はおすすめしない」という意見を耳にすることがあります。ですが、表側矯正にはない強みもたくさんあります。基本的な知識を学んでいきましょう。
裏側矯正(舌側矯正)とは
裏側矯正(舌側矯正)とは、ブラケット装置とワイヤーを用い、歯の裏側から矯正していく治療法です。ワイヤーの引っ張る力を利用し、少しずつ理想の位置へと移動させます。
- 出っ歯
- 受け口
- 八重歯
- すきっ歯
主に上記の悩みを抱えている患者さんが対象です。歯並びのバランスが悪いと、見た目への影響だけでなく、発音しにくかったり、食べ物を嚙みづらかったりします。
一度直してしまえば、今後歯並びで苦労することはないでしょう。一定の費用や時間を要する大掛かりな治療になります。
また裏側矯正(舌側矯正)の大きな特徴は「見た目」です。ブラケットとワイヤーを歯の裏側に取り付けるので、装置が目立ちにくいです。「他人に気づかれにくい」という点を魅力に感じ、裏側矯正(舌側矯正)を選ぶ方もいます。
【治療の流れ】
・カウンセリング
カウンセリングでは、治療期間や費用、どのような歯並びにしたいかなどを明確にします。 疑問点などがあれば、医師に相談すると良いでしょう。
・検査
レントゲン撮影や型取りをします。所要時間は30分ほどです。
・治療開始
歯のクリーニングを行います。必要であれば、事前にむし歯や歯周病の治療をします。
・矯正装置の装着
矯正装置を取り付け、状態に合わせて調整します。所要時間は1〜2時間ほどかかります。
・検診・装置の調整
歯の状態に合わせて装置を調整します。月に1回程度の通院を続け、その都度、矯正具合をチェックします。
・矯正終了(装置を外す)
治療期間は3ヶ月ほどです。矯正が終わったら装置を外します。
裏側矯正(舌側矯正)をおすすめしない理由
裏側矯正(舌側矯正)には下記のようなデメリットもあります。
食事がしにくくなる
歯の裏側に矯正装置がついているので食べづらくなります。舌が装置に接触することが多いためです。咀嚼の際や、食べ物を飲み込む際に違和感を感じます。柔らかく飲み込みやすいものを食べるようにし、咀嚼の回数を低減することで、装置による痛みや違和感を軽減できるでしょう。
食べ物の繊維が装置に挟まり、なかなか取れないこともあります。無理に取り除こうとすると、装置が壊れてしまうことがあるので注意しましょう。慣れてくればあまり気にならなくなるので、しばらくの辛抱が必要です。
滑舌に影響が出てしまう
裏側矯正(舌側矯正)の治療を始めたばかりの頃は、滑舌が悪くなり話しづらさを感じるかもしれません。舌に装置が当たるため、発音の妨げになるからです。特に、舌を下げて発音する言葉は滑舌に影響します。
- サ行
- ザ行
- タ行
- ダ行
- ナ行
- ラ行
装置の装着直後は痛みも伴うので、発音に悩まされることがあります。痛みの緩和とともにスムーズな滑舌になっていくでしょう。1ヶ月ほど経てば、違和感が和らいでいく患者さんが一般的と言えます。
表側矯正よりも費用がかかる
表側矯正よりも裏側矯正(舌側矯正)の方が費用が割高になります。費用がかかる理由は、治療の難易度が高く、より時間を要するからです。歯の裏側を舌や指で触ってもらうとわかりやすいですが、デコボコと複雑な形状をしています。そのため裏側矯正(舌側矯正)では、患者さんごとにブラケットを作成するオーダーメイドになります。複雑な形状がゆえに、装置代が高額になり、調整にも時間がかかります。裏側のため目視しながら処置しにくいことも、治療を難しくしています。
一方、表側矯正は既製品の装置を使うので、一から型をとり作成する必要がありません。また目視できるのでワイヤー調整などもスムーズです。
表側矯正:約75万円
裏側矯正(舌側矯正):約95万円
あくまで目安であり、歯科医院によっても異なります。
歯磨きに時間がかかるようになる
歯磨きに時間がかかるようになります。ブラケットやワイヤーに詰まった汚れを、入念に手入れする必要があるからです。磨き残しがあると、菌が繫殖してしまい、下記のような症状に繋がります。
- むし歯
- 歯肉炎
- 口臭
歯肉炎にかかると歯茎が腫れて部分的に盛り上がってしまい、ワイヤーの調整が困難になります。完治するまで歯列矯正が進まないこともあります。
また歯磨きも難しくなります。
- 歯ブラシ
- 歯間ブラシ
- ワンタフトブラシ
- マウスウォッシュ
ワイヤー矯正の場合、装置を自分では取り外せないため、装置と歯の隙間などに歯垢が残りやすくなります。菌の繫殖を抑えるためにも、歯間ブラシやマウスウォッシュなども積極的に使いましょう。
ワンタフトブラシは、仕上げ用のブラシとして重宝します。ヘッドが小さく毛先がコンパクトなので、矯正装置周りの細かいところまできれいにできます。またミニライトで、口腔内を照らしながらお掃除するのも良いでしょう。時間をかけて入念にクリーニングしましょう。
治療期間が長くなる可能性がある
裏側矯正(舌側矯正)の治療期間は、およそ2〜3年です。治療が難しく、装置も一から作成するので長期化します。ただし、必ず長くなるわけではないので、初回のカウンセリングで確認すると良いでしょう。あくまで目安として、表側矯正より長くなる傾向にあります。
期間は矯正する本数や、歯並びの状態でも変わります。数本だけ動かすような部分矯正であれば6ヶ月ほどで治療が終了する場合もあります。軽度の傾きを直す程度であれば、対象範囲が少ないので比較的短くなります。 予定よりも長期化しないように、以下のポイントを意識しましょう。
- 虫歯や歯周病にならないように口腔内ケアを徹底する
- 経験豊富な歯科医院を選ぶ
- 装置に不具合が生じた場合は歯科医師に報告する
裏側矯正(舌側矯正)をおすすめする理由
次は裏側矯正(舌側矯正)をおすすめする理由を5つ解説していきます。 良い面・悪い面、両方理解することが大切です。
- 見た目で矯正装置が見えない
- 歯の表面のエナメル質が傷つきにくい
- 食べかすの挟まりが気にならない
- むし歯や歯周病になりにくい
- 前歯を後ろに動かす矯正がしやすい
見た目で矯正装置が見えない
装置が歯の裏側に隠れているので、大きく口を開けない限り見えにくいです。仕事柄、人と接する機会が多い方などにはおすすめできる矯正方法といえます。また、矯正の効果を早く実感できます。裏側に装置があるので、歯の移動状況を見た目で確認できるからです。治療自体は2年以上かかりますが、6ヶ月ほどで効果を実感することができるでしょう。長期化する治療なので、その都度、成果を実感できるのはモチベーション維持になります。
歯の表面のエナメル質が傷つきにくい
裏側矯正(舌側矯正)では、歯のエナメル質が傷つきにくいです。表面に比べ、裏面の方がエナメルが多いからです。エナメル質が損傷することを「エナメルクラック」といいます。歯にヒビや亀裂が入ってしまい、そこから細菌が侵入し、むし歯や知覚過敏になります。自覚症状がなく、徐々に重症化していくこともあります。自然と完治するものではないので、早急な治療が必要です。しかしながら、細かな亀裂なので肉眼では確認できず、放置してしまって症状が悪化し、その状態で強く噛んだ衝撃で歯が折れてしまう危険性もあります。
食べかすの挟まりが気にならない
表側矯正では、歯の表面に装置があるため、それに食べかすが挟まると目立ってしまいます。すぐに歯磨きできれば問題ありませんが、外出中は難しいですよね。挟まった食べかすに気を取られてしまい、会話に集中できないことも起きうるでしょう。食べ物がワイヤーに絡まってしまうとなかなか取れません。舌を使って取り除こうとしても、鏡がないことには取れたかどうかが確認しにくいです。裏側矯正(舌側矯正)は表側矯正に比べ、こういった苦労が少ないことも魅力といえます。
むし歯や歯周病になりにくい
裏側矯正(舌側矯正)では、むし歯や歯周病のリスクを軽減できます。歯の裏側は、唾液が循環しやすく乾燥しにくく、エナメル質も豊富なため、細菌が繁殖しにくいためです。
・唾液が循環しやすい
歯の表側に比べ、裏側は唾液が循環しやすいです。唾液には殺菌効果があるので、菌の停滞を抑制し繫殖を抑えてくれます。
・エナメル質が表側の3倍
歯の裏側は表側に比べてエナメル質が3倍です。歯の表面にコーティングされているエナメルがバリア機能を果たすので、むし歯や歯周病から守ってくれます。
・乾燥しにくい
口腔内が乾燥することで、むし歯菌が増殖します。歯の裏側は表側より乾燥しにくいため、むし歯・歯周病のリスクを軽減できます。
前歯を後ろに動かす矯正がしやすい
裏側矯正(舌側矯正)は、出っ歯のような場合に前歯を後方へ移動させたい時に効果的です。歯を後ろに引き込む場合に適した矯正方法のためです。安定感のある奥歯に固定できるので、前歯を効果的に引っ張り込めます。また舌がストッパーになるため、歯を引っ張りすぎてしまうことも防げます。
裏側矯正(舌側矯正)以外におすすめできる矯正方法
表側矯正 マウスピース矯正 上記2つの矯正もおすすめです。裏側矯正(舌側矯正)と比較しながら参考にしてください。
表側矯正
表側矯正は、歯の表側に装置を取り付け、ワイヤーの力で歯のバラつきを矯正します。 構造的には裏側矯正(舌側矯正)と同じです。裏側矯正(舌側矯正)との違いは以下の通りです。
- 費用が安い
- 治療が比較的容易
- 幅広い症例に適応できる
- 発音への影響が少ない
- 見た目が気になる
- むし歯・歯周炎になりやすい
表側矯正は、肉眼で確認できるため調整しやすいと言えます。費用も安価で、治療期間も裏側矯正(舌側矯正)に比べて短い傾向にあります。両方の矯正方法のメリットとデメリットを理解した上で検討し、どちらにするか選ぶと良いでしょう。
マウスピース矯正
マウスピース矯正とは、透明な樹脂でできたマウスピースを用いた矯正方法です。ワイヤーを使った矯正には、自分では装置を外すことができないなど、受診に心理的なハードルを感じる方も多いようです。その点、マウスピース矯正は精神的な負担は少ないと言えます。マウスピース矯正の特徴としては、下記のような点が挙げられます。
・簡単に脱着可能
ワイヤー矯正と違い固定式ではないので、食事や歯磨きの際などに自分で取り外すことができます。
・痛みが少ない
マウスピースを定期的に交換しながら、ゆっくりと歯を動かしていく矯正方法なので、痛みが少ないと言えるでしょう。
・長時間の装着が必須
1日に20時間以上はマウスピースを装着しないと、歯の移動が進みません。睡眠中にマウスピースを煩わしく感じて外してしまうことがないように注意しましょう。
・治療期間が長期に渡る
徐々に歯を移動させるため、治療期間が平均して3年以上かかるようです。ワイヤー矯正より、期間が長くなる傾向にあります。
まとめ
本記事では、裏側矯正(舌側矯正)について紹介しました。表側矯正の特徴も合わせてご理解できたかと思います。ワイヤー矯正のハードルが高いと感じる方は、「マウスピース矯正」も含めて検討すると良いでしょう。裏側矯正(舌側矯正)には発音しづらくなる、食べ物が食べにくくなるなどのデメリットもありますが、見た目で気付かれにくいなど様々なメリットがあります。適した歯並びの方にはおすすめできる矯正治療方法と言えるでしょう。裏側矯正(舌側矯正)を検討されている場合は、まずは歯科医院に相談し、カウンセリングを受けてみましょう。ご自身の歯並びに合った歯列矯正をお選びください。
参考文献