ガミースマイルとは、歯を見せて笑ったときに歯茎が大きく見える状態です。見た目の悩みだけでなく、笑うことに消極的になってしまうなど、ガミースマイルによって心理的な影響が出ることもあります。
原因はさまざまですが、その一つに歯並びや噛み合わせが関係しているケースも少なくありません。
そこで今回は、ガミースマイルに対して歯列矯正でどのような改善が見込めるのかを解説します。歯列矯正の方法や治療期間、費用の目安、外科的な治療との違いについても詳しく見ていきましょう。
歯茎が目立つガミースマイルとは?
笑ったときに歯茎が過度に露出する状態をガミースマイルといいます。見た目の印象に関わる悩みのひとつであり、歯並びや表情に自信が持てない原因になることもある症状です。
ガミースマイルの見た目の特徴
笑ったときに歯茎が大きく見える状態がガミースマイルと呼ばれます。明確な定義はありませんが、一般的には上唇を上げた笑顔のときに、2mm以上の歯肉が露出するとガミースマイルと判断されることが多いようです。
特に3mm以上になると目立つと感じる方が増える傾向にあります。この歯肉の露出量によって笑顔の印象が大きく変わるため、審美的な観点から気になる方も少なくありません。
ガミースマイルの原因
ガミースマイルの原因は一つではなく、複数の要因が組み合わさっていることが一般的です。主な原因としては、以下のようなものがあります。
- 上唇の過剰な挙上
- 上唇が短い
- 骨格的な問題
- 上顎前突・前歯の唇側傾斜
上顎の前歯が前方に出ている、唇側(外側)に傾いているといった理由で、結果的に歯肉も前方に押し出された状態になり目立ちやすくなります。
笑ったときに上唇が過剰に上がることで、通常よりも多くの歯肉が見えてしまいます。また、上唇が短いことも、歯肉露出の増加の原因のひとつです。骨格の問題では、上顎の骨が下方に発育しすぎていることや上顎の前歯が前方に出ていたり唇側に傾いていたりすることなどが挙げられます。
ガミースマイルはこれらの原因が複合的に存在するケースも多く、治療には正確な診断が不可欠です。
ガミースマイルを放置するリスク
ガミースマイルは命に関わる病気ではありませんが、自覚がありながら放置すると、さまざまな問題が生じるおそれがあります。
まず挙げられるのは、心理的なコンプレックスにつながるという懸念です。人前で笑ったり話したりすることを避ける、写真を撮られるのが苦手になるなど、自己表現やコミュニケーションに影響を与えることがあります。
また、咬合や発音の問題の背景に骨格的要因があることも考えられます。ガミースマイルの原因が上顎の過成長や前突などの場合、噛み合わせや発音に影響を及ぼすケースも注意点のひとつです。見た目の問題にとどまらず、口腔機能にも関係する可能性がある点には注意しておきましょう。
ガミースマイルを見た目の問題として片づけずに、必要に応じて矯正歯科や口腔外科での専門的な診断を受けることをおすすめします。
歯列矯正でガミースマイルを改善できる?
ガミースマイルの治療にはさまざまな方法がありますが、歯列矯正によって改善できるケースも少なくありません。前歯の位置や傾きが原因となっている場合や、上唇の動きと歯列の関係が影響しているケースでは、歯の移動によって見た目を整えることも可能です。
例えば上顎前突や前歯の唇側傾斜(前方に傾いている状態)が原因となって歯肉が強調されている場合は、歯列矯正によって歯の位置を後退することや角度を調整することで歯肉の露出を軽減することができます。また、歯列矯正によって口唇の動きに影響を与えることもあり、それがガミースマイルの改善につながる場合もあります。
歯列矯正用アンカースクリューを用いた治療では、前歯の圧下(歯を垂直方向に押し下げる処置)を行うことで、外科手術をせずに歯肉の露出量を減らす治療も可能です。ただし、骨格的な要因(上顎の過成長など)が大きい場合や歯列だけでは対応が難しいケースでは、外科的な処置との併用が必要になることもあります。そのため、歯列矯正が適しているのかどうかは、歯科医師による精密な診断をもとに判断することが重要です。
歯列矯正によるガミースマイルの治療方法
ガミースマイルの原因が前歯の位置や傾き、上顎の前突など歯列の問題に関係している場合には、歯列矯正によって見た目の改善が期待できます。なかでもワイヤー矯正やマウスピース型矯正、そしてアンカースクリューを活用した治療法は症状に応じて選べば、ガミースマイルの改善につなげることが可能です。
ワイヤー矯正
ワイヤー矯正は、歯の表面または裏側にブラケットを装着し、ワイヤーの力で歯を移動させる方法です。歯列全体のコントロールがしやすく、ガミースマイルの原因となる前歯の唇側傾斜(前方への傾き)や上顎前突を改善するのに有効な方法とされています。笑った際の歯肉の露出が軽減され、見た目のバランスが整うところがメリットです。
また、全体的な噛み合わせの改善にもつながるため、単なる審美面だけでなく咀嚼機能や口腔内環境の改善にも期待できます。ワイヤー矯正は適応範囲が広く、症状が中等度から重度のケースに対応可能です。一方で、装置が目立ちやすく、装着期間が長期化する傾向がある点は注意が必要です。
マウスピース型矯正
マウスピース型矯正は、透明なマウスピースを定期的に交換しながら歯を移動させる方法です。主に軽度から中等度の歯列不正に対して行われる方法で、ガミースマイルの改善にも一定の効果が認められています。特に、前歯の唇側傾斜をコントロールしながら歯の位置を微調整することで、歯肉の露出量が減少するケースがあります。
マウスピース型矯正は審美性が高く、日常生活においても目立ちにくいため社会人や人前に出る機会の多い方に好まれている方法です。ただし、患者さん自身が装着時間を守る必要があり、適切な使用がされなければ治療効果が得られにくいというデメリットもあります。
アンカースクリューを用いた歯列矯正
アンカースクリューは、歯列矯正治療において歯の移動方向を精密にコントロールするために使う固定源になる部分をいいます。この治療では、歯槽骨に直径1.2〜2.0mm程度の小さなネジを埋入し、これを支点にして前歯を垂直方向に引き下げる前歯部圧下が可能です。特に上顎の前方突出や過剰な歯肉の露出が原因のガミースマイルに有効で、外科的な処置を避けながらも大きな審美的改善が得られる点がメリットです。
さらに、従来の歯列矯正治療と比べて短い治療期間になることや、局所麻酔下で負担が少なく行える点も特徴として挙げられます。ただし、スクリューの脱落や感染リスクなどもあるため、術前の適切な診断と術後の管理が重要です。
歯列矯正によるガミースマイルの治療期間
歯列矯正によるガミースマイルの治療期間はどの程度か、気になる方も多いでしょう。ワイヤー矯正・マウスピース型矯正・アンカースクリューを用いた歯列矯正の3つの場合について解説します。
ワイヤー矯正の治療期間
ワイヤー矯正では、ブラケットとワイヤーを用いて少しずつ歯を動かしていくため、治療期間は長めになります。一般的な治療期間は1年半から2年半程度が目安とされており、ガミースマイルの改善においてもこの範囲で行われることが多いようです。
特に上顎前突や前歯の唇側傾斜の影響が大きい場合には、それを引き下げたり後方へ移動させたりする処置が必要になるため、全体の歯列矯正計画に時間がかかる傾向にあります。また治療精度が高い反面、歯列全体のバランスを整えながら進めるため計画的な通院と管理が必要です。
さらに、歯列矯正装置による物理的な力を定期的に調整しながら歯を動かす必要があるため、治療全体が終了するまでに数年単位でのスケジュール管理が求められます。
マウスピース型矯正の治療期間
マウスピース型矯正の場合、症例に応じて治療期間は異なりますが、1年半から2年半が目安です。前歯の位置をコントロールすることで歯肉の露出が改善される場合、短期間で審美的な変化が得られることがあります。ただし、マウスピースは長時間の装着が必要で、装着不足や交換遅延により治療が長引く場合もあります。
また、骨格による問題が関係するような重度のガミースマイルには適応できないケースもあるため、精密な診断が大切です。加えて、歯列矯正中にマウスピースの再設計が必要となる場合もあり、その調整が加わることで治療期間が延長される可能性もあります。
アンカースクリューを用いた歯列矯正の治療期間
アンカースクリューを併用した歯列矯正は、一般的に半年から1年程度が目安とされています。歯を圧下(押し下げる)させることで、外科手術を行わずに歯肉の露出を減らす方法で、短期間での効果が期待できるところがメリットです。
ただし、スクリューが不安定になる・脱落するなどのリスクもあり、状況によっては追加の処置が必要となることもあります。また、アンカースクリューの設置位置や骨の状態によって圧下の効果に差が出るため、治療計画には歯科医師の高度な判断と経験が必要不可欠です。
歯列矯正によるガミースマイルの治療費用
ガミースマイルの治療に歯列矯正を選択する場合、費用も気になる方もいるでしょう。
歯列矯正の方法によって価格に大きな差が出るため、それぞれの特徴や相場を理解して無理のないプランを選ぶことが大切です。ここでは、主な歯列矯正の種類ごとに費用の目安や注意点について解説します。
ワイヤー矯正の費用
ワイヤー矯正の費用は、全体矯正でおおよそ300,000円〜1,700,000円程度が相場です。部分矯正で済む軽度なケースでは300,000円前後に抑えられる場合もありますが、歯列全体の移動が必要な中〜重度の症例では、1,000,000円を超えることも考えられます。費用の内訳には、診断料・装置代・通院時の調整料・保定装置の費用などが含まれていることが多く、歯科医院によって料金体系は異なるのでしっかり確認しておきましょう。
マウスピース型矯正の費用
マウスピース型矯正の費用は200,000円~1,200,000円程度が目安とされており、使用するマウスピースの種類や歯の移動範囲によって価格に幅が出てきます。簡単な前歯の移動であれば300,000円前後から始められるプランもありますが、全体的な歯列調整が必要な場合は1,000,000円を超えることもあります。
ガミースマイルの改善を目的とした場合でも、骨格由来の問題には対応が難しくワイヤー矯正や外科治療との併用が必要になることもあるため、治療計画によって費用が大きく変動することが多いようです。また、マウスピースの交換が一定期間ごとに必要であるため、途中での追加作成や再設計が発生すると別途費用がかかる場合もあります。
アンカースクリュー併用矯正の費用
アンカースクリューを併用する矯正治療では、基本的な矯正費用に加えてスクリューの費用が発生します。一般的には1本あたり5,000円〜30,000円程度が相場で、1〜4本を使用するケースが多いため全体で50,000円~100,000円程度の追加費用になることが想定されます。
スクリューは矯正力を支える土台として骨に固定するので、設置するための処置が必要です。使用する本数や設置部位、治療中の管理内容によって価格が変わることがあるため、事前の説明をよく受けることが重要になります。また、スクリューが緩む・脱落するなどのトラブルには再設置や処置の追加が必要になる場合があり、これに伴う費用も確認しておくと安心感を持ちます。
歯列矯正以外のガミースマイルの治療方法
歯列矯正だけでは改善が難しい場合、外科的治療やセラミック治療などの方法があります。症状の原因や状態に応じた治療を選択するため、専門医の診断を受けることが重要です。
外科治療
原因が骨格や上唇の動きにある場合、歯列矯正だけで改善が難しいことがあります。そうした場合には外科的なアプローチが検討されることがあるため、どのような治療があるのかを知っておくと安心感を持つでしょう。代表的な外科治療には、以下のようなものがあります。
代表的な外科治療としては、上顎骨の移動術があります。上顎の一部を骨切りし、上方に移動させて再固定する手術です。歯列や噛み合わせだけでなく、お顔全体の調和を改善する効果があります。また、前歯部を複数に分割してより細かな調整を行う方法をとることもあります。
笑ったときに上唇が過剰に上がるケースでは、上唇の裏側の粘膜を一部切除し唇の挙上を抑える粘膜切除術が行われます。この手術はリップリポジショニング術とも呼ばれ、負担が少なく短時間で行える治療法です。
また、上唇を引き上げる筋肉(上唇挙筋など)を部分的に切除することで、笑った際の唇の動きを抑える筋切除術もあります。審美的な効果が高い一方で、術後の表情に影響する可能性もあるため慎重な判断が求められる方法です。
セラミック治療
セラミック治療は骨格や筋肉の動きそのものを変えるものではなく、あくまで見た目の調整にとどまる方法です。ガミースマイルの原因が骨格的要因や上唇の過活動である場合には、ほかの治療との併用が望ましいケースもあります。
外科的治療を避けたい場合や、歯の長さが短い・歯茎とのバランスが悪いといった審美的な問題が主な場合、セラミック治療も選択肢のひとつです。セラミッククラウンやラミネートベニアを使い、前歯の長さや角度を調整して歯茎の露出を目立ちにくくします。
この治療は骨格や筋肉には作用せず、見た目の調整ができる方法です。そのため、原因が骨格的な問題や筋肉の過活動である場合には、ほかの治療との併用が望ましくなります。
まとめ
ガミースマイルは見た目の印象に大きく関わる症状です。そのため日常生活や対人関係において悩みの種となることが影響を与えることもあります。
主な原因には骨格的な問題や歯列・唇の位置、筋肉の過活動などがあり、正確な診断によって適した治療法を選ぶことが大切です。
歯列矯正はガミースマイルの根本的な改善を目指せる治療のひとつであり、ワイヤー矯正やマウスピース型矯正、アンカースクリュー併用矯正など症状に応じた選択が可能です。
また、外科的処置による見た目を調整する方法もあり、歯列矯正単独では対応しきれないケースには組み合わせたアプローチが検討されます。
ガミースマイルは複数の要因が絡むことがあるため、矯正歯科や口腔外科など、専門医による総合的な診断と治療計画が大切です。
参考文献
- ガミースマイルを伴う矯正治療患者における口唇運動の三次元解析
- 歯科矯正用アンカースクリューガイドライン 第二版
- スマイル時の歯肉露出に対する歯科衛生学生の評価について
- ガミースマイルにアライナー矯正と歯冠長延長術を用いた1症例
- ガミースマイルへの臨床的アプローチ(2)
- 口唇移動術を用いてガミースマイルの改善が得られた症例の1年経過|J-STAGE
- 歯頸線の不揃いとガミースマイルに対し歯周外科処置と歯冠補綴による改善を行なった一症例
- ボツリヌス療法に必要な顔面筋の形態に関する一考察
- 多分割 Le Fort I 型骨切り術を併用した上下顎移動術−ガミースマイルと上顎歯列狭窄を伴った上顎前突および下顎後退症への応用−
- ガミースマイルコレクション−ガミースマイルの分類と分類別による治療法−