歯並びの理想のかたちとは
「歯並びを良くしたい」とは、多くの方が感じることでしょう。では、歯並びに理想形があることはご存知でしょうか。一般的に、歯並びの理想のかたちには、以下のような特徴があります。
・歯並びがきれいなアーチ型を描いている
永久歯は、上下それぞれ14本、合わせて28本生えます。親知らずを含めると、すべての歯の合計は32本です。これらの歯がでこぼこせず、口腔内できれいなアーチ型を描き、左右対称に生えているのが理想の歯並びです。
アーチ型にはU型・V型・方型の3種類が存在しますが、その中でもU型がもっとも理想的と言われています。
歯のでこぼことは、具体的には叢生(そうせい)や乱杭歯(らんぐいば)といった状態を指します。これらは、顎の幅が細かったり歯が大きかったりするために、口腔内のスペースが足りず、歯が重なって生える現象のことをいいます。また犬歯が飛び出した八重歯も、叢生の一例です。
・歯と顔の中心が合っている
口を「い」の字に開けた際に、歯の中心と顔の中心(正中線)が一致する状態が、理想的なバランスとされています。正中がずれていると、顔を正面から見た際にアンバランスな印象を与える可能性があります。
・歯と歯の間にすき間がない
歯の大きさや配置も、理想的な歯並びには欠かせない要素です。たとえば歯と歯の間に大きくすき間が開いている場合、これはすきっ歯とも呼ばれ、理想的な歯並びとはいえません。また、他の歯に比べて前歯だけが他と比べて大きいなどの状態も同様です。
・上下の歯が噛み合っている
上下の歯を噛み合わせたとき、上の歯が2〜3mmほど、下の歯に被さるのが正しい状態とされています。
上の前歯が過度に突き出ている状態を上顎前突(出っ歯)、下の歯が過度に突き出ている状態を下顎前突(受け口、反対咬合)といいます。これらはいずれも不正咬合に分類され、程度によっては治療をすすめられることもあります。
このように、理想の歯並びにはいくつかの条件があります。正面からだけでなく、横から見ても整った歯並びが必要です。また見た目だけが完璧であっても、必ずしも理想的な歯並びとは限りません。 上記を踏まえ、理想の歯並びのメリットと、逆に歯並びが悪いことで起こるデメリットを紹介します。
理想の歯並びのメリット
まず、理想的な歯並びから得られる見た目の面でのメリットを解説します。
・笑顔が増え、自信も増す
歯並びが整っていない方の中には、「自分の歯を他人に見られたくない」と感じ、口を開けることへの不安を抱いている方も少なくありません。笑うときに無意識に口元を手で隠す、歯を見せないように意識的に行動するなど、日常生活に影響が出ることもあるようです。
しかし、理想的な歯並びを手に入れることで、こうしたコンプレックスから解消されます。人前で笑ったり会話したりすることへの抵抗感が薄れ、気持ちが明るくなります。
こうした変化は、精神的にもプラスに作用します。自信がついたり、対人関係に良い影響を与えたりといったメリットも得られるでしょう。
・魅力がアップする
歯並びが整っている人は、周囲から魅力的に見える傾向があります。実際、歯並びを矯正することで顔全体の印象が大きく変わるとも言われています。
では、魅力的で理想的な歯並びとはどのようなものでしょうか。審美歯科では、「スマイルライン」と「Eライン」のバランスを整えることを目指すことが多いようです。
「スマイルライン」とは、笑ったときに見える上の前歯の先端を結んだラインのことを指します。このラインが下唇に沿って揃っていて、緩やかなカーブを描くと女性らしい、水平に近い形状は男性らしい印象を与えるとされています。
一方「Eライン」は、鼻先から顎までを結んだ線のことを指します。日本人の場合、顔を横から見たとき、唇がEライン上か、あるいはやや内側に位置すると、より美しい顔立ちとされます。
歯並びが悪いことで起こるデメリット
一方、歯並びが悪いと、さまざまなデメリットが生じます。
・ネガティブな印象を持たれる
理想的な歯並びの方は、周囲から魅力的に見られると解説しました。つまり歯並びが悪いということは、その逆になる可能性があります。
例えば、歯並びが気になってあまり笑わないようにしていると、「暗い」「とっつきにくい」といったネガティブなイメージを持たれやすくなるかもしれません。
とくに欧米では、「歯並びが悪いなら矯正すべき」という価値観が強いです。そのため、悪い歯並びを放置すること自体が、良くない印象につながる可能性があります。日本人は、欧米人ほど歯並びについてのこだわりは強くないかもしれませんが、そうした印象を持つ人がいることは意識しておいた方が良さそうです。
・口臭の原因となる
歯並びが悪いと歯磨きがしにくいことから、口臭が発生しやすくなります。それが原因で、相手に不快感を与えるリスクも増えます。
理想の歯並びには噛み合わせも重要
審美的な面で優れているだけでなく、機能面でもしっかりと役割を果たしていなければ、理想的な歯並びとはいえません。ここでは、歯本来の機能である咀嚼において重要な、噛み合わせにスポットをあてて解説します。
理想の噛み合わせのメリット
上下の歯が噛み合っていること、つまり理想的な噛み合わせがもたらすメリットについて解説します。
・むし歯、歯周病になりにくい
歯並びが整っていると、歯磨きで歯の汚れや歯垢を落としやすいため、むし歯や歯周病になりにくいと言えます。
・おいしく食事ができる
正しく噛み合っている歯は、十分な咀嚼力を持っています。高齢になると歯が弱くなり、硬いものが食べられなくなる、という話を聞いたことがあるかもしれません。しかし、自分の歯を20本残すことができれば、生涯を通じておいしい食事を楽しむことができると言われています。
自分の歯で食べ物をしっかりと噛み、栄養を摂取することは、健康維持に大きく寄与します。さらに、噛むことは認知症の予防にもつながると言われています。したがって、何歳になっても好きな食べ物を楽しく食べ、健康を維持するためには、理想的な歯並びは非常に重要といえます。
噛み合わせが悪いことで起こるデメリット
噛み合わせが悪いと、どのようなデメリットがあるのかを解説します。
・口腔内環境が悪くなる
歯磨きなどの口腔内ケアが行き届かなくなりやすいので、むし歯や歯周病にかかりやすくなります。また、口臭が発生する原因にもなります。これらの問題から、人との会話を避けがちになり、内にこもりやすくなる可能性もあるでしょう。
・発音が不明瞭になる
歯と歯の間にすき間があると息漏れが生じやすく、特定の音の発音が不明瞭になることがあります。また、下顎が前に出た受け口の場合、滑舌が悪くなるケースもあります。
・怪我の原因となる
出っ歯の場合、前に突き出た前歯で唇を傷つけたり、顔を強打した際に歯が折れるリスクが増えます。上の歯が下の歯を覆ってしまうほど深く被さっている状態(過蓋咬合)では、下の前歯が上あごの歯茎に食い込んで傷つけてしまうこともあります。
理想の歯並びを乱す悪習慣
歯並びを悪化させる悪習慣には、さまざまなものがあります。お子さんから大人まで、異なる年齢で見られる行動パターンをいくつか挙げてみましょう。
指しゃぶり
お子さんの場合の代表的な悪習慣は、指しゃぶりです。赤ちゃんの頃は問題ありませんが、4歳頃を過ぎても頻繁に指しゃぶりを続けると、歯並びに影響を与える可能性があります。
良くない姿勢や癖
大人になってからの悪習慣としては、頬杖をつくなどの悪い姿勢や、片側だけで物を食べるなどが挙げられます。
食いしばり
主に睡眠中に無意識に起こる「食いしばり」も問題となります。これによって歯が欠けたり、歯の根が割れたりといった悪影響が生じることがあります。自分ではコントロールできないこの問題に対しては、マウスピースを使用するなどの対策が有効です。歯にかかる負担を軽減できるので、食いしばりにお困りの方は一度歯科に相談してみることをおすすめします。
口呼吸
歯並びが悪い方の多くは、口呼吸になりやすいと言われています。口呼吸と歯並びは相互に関係し合っているのが特徴で、口呼吸が歯並びに悪影響を及ぼすこともあれば、歯並びの乱れが口呼吸を引き起こすこともあります。 口呼吸の原因は、鼻づまりなど歯並び以外の可能性もあります。ご自身の状況に応じて、歯科または耳鼻咽喉科などの受診を検討することをおすすめします。
歯並びを理想のかたちに近づける治療方法
歯並びを理想のかたちに近づけるには、どのような治療方法があるのかを紹介します。
表側矯正
金属製のブラケットとワイヤーを使った矯正方法で、もっとも認知度が高い矯正方法です。歯の表面にブラケットと呼ばれる装置をつけ、ワイヤーの力で歯を少しずつ動かして矯正します。適用可能な症例の範囲が広く、重度の歯並びの乱れにも対応できます。
デメリットとしては、歯の表面に装置があるため目立ちやすいことと、装置の取り外しができないため歯磨きがしにくいことなどが挙げられます。また、装置と歯の間に食べ物が挟まると痛みを感じることがあります。慣れるまでは違和感が大きく、食事中にも不便を感じるかもしれません。
裏側矯正
この矯正方法は、上記のワイヤー矯正を歯の裏側で行うものです。ブラケットとワイヤーを用いた矯正方法自体は同じで、仕上がりや治療方法に大きな違いはありません。
表側矯正のメリットを維持しつつ、「目立つ」というデメリットをクリアできます。 表側矯正との大きな違いは、費用にあります。裏側矯正では、個々人の歯の形に合わせた矯正装置をオーダーメイドで作成し、それを用いて治療を進めるのが一般的です。そのため、裏側矯正の方が費用が高くなる傾向にあります。
マウスピース矯正
マウスピース矯正は、ブラケットやワイヤーを使用せず、透明なマウスピースを歯に装着する新しい矯正方法です。ワイヤー矯正に比べて目立たない特性から、近年人気が高まっています。
ワイヤー矯正と違い、マウスピースは一度装着しても自由に取り外しが可能です。1日に20時間以上装着している必要がありますが、食事中や歯磨きをするときなどは外しても問題ありません。ワイヤーと異なり、マウスピースは定期的に新しいものと交換します。そのため口腔内を清潔に保てることも、この方法が人気を集める理由の一つです。
セラミック矯正
セラミック矯正は、自分の歯を削ってその上から人工の歯をかぶせる矯正方法です。人工歯の素材は自由に選べるので、歯をどれほど白くしたいかを自分自身で決めることができます。また、人工歯をかぶせるだけなので、短期間で歯並びの見た目を整えられることもメリットの一つです。
しかしこの方法は、ワイヤー矯正やマウスピース矯正とは違い、歯を動かす治療ではないことに注意が必要です。そのため、歯列全体の乱れや、噛み合わせの問題を治療することはできません。また、健康な歯を削る点にも留意しましょう。
まとめ
歯並びがきれいな人は笑顔が魅力的で、周囲に明るい印象を与えます。そういう意味で、見た目を左右する重要な要素の一つと言えるでしょう。
それだけでなく、歯並びの良し悪しは、健康面にも大きな影響を与えます。歯並びが悪いことでこうむるデメリットは決して小さなものではありません。今はそれほど影響を感じていなくても、今後影響が出てくる可能性もあります。そうしたリスクを軽減するためにも、歯並びが気になっている方は、一度歯科に相談してみることをおすすめします。
参考文献