ワイヤー矯正

アンカースクリューを活用した部分矯正とは?歯列矯正の新たな選択肢

アンカースクリューを活用した部分矯正とは?歯列矯正の新たな選択肢

アンカースクリューを用いた部分矯正は、患者さんのニーズに柔軟に応える新たな選択肢として注目されています。軽度から中度の歯並びの問題を持つ方に適しており、治療期間の短縮も期待できます。
本記事ではアンカースクリューを活用した部分矯正について、以下の点を中心にご紹介します。

  • アンカースクリューとは
  • アンカースクリューを用いた部分矯正の特徴
  • アンカースクリューを用いた部分矯正の注意点

アンカースクリューを活用した部分矯正について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。

アンカースクリューとは

アンカースクリューとは

アンカースクリューは、歯列矯正に使用される小さなチタン製ネジのことを指し、顎の骨に埋め込むことで歯を動かす支え(固定源)台として機能します。
このアンカースクリューは直径約1.2〜1.6mm、長さ4〜8mmと細く、歯ぐき茎や顎の骨への負担が少ないため、施術後の痛みや傷跡が残りにくいとされています。また、チタン製であるため金属アレルギーの心配も少ないです。
このようにアンカースクリューは、限られた時間内での治療をしたい方にとって理想的な選択肢とされています。

アンカースクリューを用いた部分矯正の特徴

アンカースクリューを用いた部分矯正の特徴

アンカースクリューを用いた部分矯正には、どのような特徴があるのでしょうか?以下で詳しく解説します。

治療期間の短縮

アンカースクリューを使用した部分矯正は、従来のワイヤー矯正と異なり、骨に固定されたスクリューを利用するため、反作用の心配が少なく、歯の移動が可能になります。前歯の矯正においては、複数の歯を同時に引っ張るため、治療工程が少なくなり、治療期間の短縮につながります。
これにより、歯列矯正中のむし歯リスクも低減されるため、患者さんにとって大きなメリットとなります。

複雑な矯正装置が不要

アンカースクリューを用いた部分矯正は、従来の矯正方法より患者さんの負担を大幅に軽減します。以前は、ヘッドギアやパラタルバーなどの追加装置が必要でしたが、アンカースクリューを使用すると、装置が不要になるため、治療をスムーズに進められます。
このようにアンカースクリューの採用は、患者さんの快適性を保ちながら効率的な治療を実現します。

抜歯せずに治療できる可能性がある

アンカースクリューを利用した部分矯正は、抜歯せずに治療できる可能性がある矯正方法です。スペースが不足している場合は抜歯が必要になりますが、アンカースクリューを使用することで、歯を後方に移動させることが可能になり、抜歯を避けられる可能性が高まります。
ただし移動の限界はあり、すべての症例が抜糸をせずに治療ができるわけではありません。
主に奥歯を効率的に動かせるため、負担を軽減することが期待されます。このように、アンカースクリューを活用した部分矯正は、抜歯をしない治療法を提供します。

歯の移動量の限界幅が広がる

アンカースクリューを使用する部分矯正治療は、奥歯を後方に移動させられるため、従来の矯正治療では難しかった広範囲での歯の移動が実現可能となります。
例えば、歯のズレや咬合の調整が必要な症例で、アンカースクリューを固定源として使用することで、目標の歯並びを得られるようになります。これにより、納得のいく治療を受けられるでしょう。

外科矯正を避けられる・手術の負担を軽減

アンカースクリューを用いた部分矯正は、外科矯正が必要な高難易度のケースでも、外科手術を行わない方法で改善を図る可能性があります。例えば、重度のガミースマイルに対しても、上顎の複雑な手術を避け、アンカースクリューを利用した矯正だけで改善が期待されます。
この技術により、治療期間の短縮および患者さんの快適性が向上し、結果として納得のいく治療を受けられるようになります。

アンカースクリューを用いた部分矯正の流れ

アンカースクリューを用いた部分矯正の流れ

アンカースクリューを用いた部分矯正はどのような流れで治療が行われるのでしょうか?具体的な流れについて、以下で解説します。

1.検査

アンカースクリューを用いた部分矯正の初期段階での正確な診断と計画は、成功への鍵となります。まず、患者さんの口腔内の状況と骨の構造を理解するために、詳細なレントゲン撮影と口腔内検査が行われます。この検査は、歯科医師が患者さんのニーズに合わせた治療計画を立てるために重要です。
具体的な手順は以下の通りです。

  1. 初診でのカウンセリング:患者さんの懸念事項や期待を確認し、全体的な健康状態と口腔衛生状態を確認します。
  2. 詳細なレントゲン撮影:顎の骨の質や厚さ、周囲の歯の配置を正確に把握します。
  3. 口腔内検査:実際の口腔内の状態を観察し、歯並びや歯肉の状態を確認します。
  4. 治療計画の立案:取得したデータを基に、どの位置にアンカースクリューを配置するかを決定し、歯を動かすための戦略を計画します。

これらの検査結果に基づき、歯科医師はアンカースクリューの埋入位置を特定し、患者さんに適切な治療法を提案します。

2.麻酔・アンカースクリューの埋入・消毒

アンカースクリューの埋入は、正確な手順に従い慎重に実施されます。
アンカースクリューの埋入方法は以下の通りです。

  1. 適切な消毒: 治療エリアの感染リスクを抑えるために、手術領域を丁寧に消毒します。
  2. 局部麻酔の実施:最初に表面麻酔薬を塗布し、その後浸潤麻酔を行います。これにより、患者さんが快適に手術を受けられるようにします。
  3. 麻酔の効果確認:麻酔が十分に効いていることを確認した後、手術を進めます。
  4. スクリューの埋入:選定した部位にドライバーを使用し、アンカースクリューを慎重に埋め込みます。抵抗が強い場合は、ドリルで誘導孔を開けることもあります。
  5. 麻酔後の対応:全身疾患やアレルギーがある方は事前に申告する必要があります。また、麻酔が効いている間は部位がしびれているため、食事は麻酔が完全に切れてから取るようにします。

この一連の処置は15分程度で完了し、治療の精度と患者さんの快適性を確保するための重要なステップとなります。

3.矯正力をかける

アンカースクリューを用いた部分矯正では、以下の手順に従って矯正力の適用を行います。

  1. スクリューの安定性確認:スクリューが骨内でしっかりと固定されているかを確認します。これは、矯正力を適用する前に必要な基本的なステップです。
  2. 消毒:スクリュー周辺の消毒を行い、感染リスクを下げます。
  3. 治癒期間の設定:スクリューの埋入直後に矯正力を適用することもありますが、多くの場合、適切な治癒期間を設けた後に矯正力を適用します。この期間は、骨とスクリューの結合を強化し、より安定した状態で矯正治療を行うために重要です。
  4. 矯正力の適用:アンカースクリューを固定源として利用し、ゴムやバネを使って目的の歯を理想的な位置に誘導します。矯正力は精密に調整され、患者さんのニーズに合わせて慎重に適用されます。
  5. 経過観察:矯正力が適用された後、定期的に患者さんの進捗をチェックし、必要に応じて調整を行います。これにより、最終的な目標である患者さんの歯並びや噛み合わせの改善ができます。

この一連の手順を通じて、アンカースクリューを用いた部分矯正治療は、患者さんの口内環境に適切な結果をもたらすよう計画され、実行されます。

4.アンカースクリューの除去

アンカースクリューの撤去は、以下の手順で行われます。

  1. 撤去前の確認:歯科医師がアンカースクリュー周囲の組織の健康状態を確認し、スクリューが取り除ける状態にあるかを評価します。
  2. 撤去プロセス:スクリューは専用の器具を使用して慎重に取り除かれます。このプロセスは1分程度で完了し、痛みや出血が少ないといわれているため、ほとんどの場合、麻酔は必要ありません。
  3. 直後の消毒: スクリュー撤去後、直ちに埋入部位を消毒して感染リスクを抑えます。
  4. アフターケア指導:特別なアフターケアは通常必要ありませんが、歯科医師から埋入部位の適切なケア方法についてアドバイスを受けます。例えば、数日間は部位を清潔に保ち、必要に応じて軽い洗口を行うことが推奨される場合があります。
  5. 経過観察:撤去後の1週間は、埋入部位が自然に回復するまでの過程を観察します。この間、患者さんは痛みや異常があればすぐに歯科医院に報告する必要があります。

これらの手順により、アンカースクリューの撤去は患者さんにとってストレスが少なく、部分矯正の完了に向けた大切なステップとなります。

アンカースクリューを用いた部分矯正の注意点

アンカースクリューを用いた部分矯正の注意点

アンカースクリューを用いた部分矯正には、いくつかの注意点があります。以下で、具体的な注意点について解説します。

口腔衛生の管理

アンカースクリューを用いた部分矯正では、口腔内の衛生管理が重要になります。スクリュー周辺が不衛生になると、歯茎の腫れや感染が生じるリスクがあります。このため、アンカースクリューの埋入後は、その部位を清潔に保つことが必要です。
また、タフトブラシや専用のうがい薬を使用して、アンカースクリュー周辺を清潔に保つことが推奨されます。この習慣を守ることで、歯茎の健康を維持し、アンカースクリューの安定性を高められます。

年齢

アンカースクリューを用いた部分矯正は、骨の成熟度によって適切な年齢が異なります。骨が十分に成熟し、安定している12歳以降が適していますが、個人差や性差もあります。
15歳以下の場合は、骨が成熟してないため、アンカースクリューの定着が困難とされているため、この年齢層での使用は避けられています。15歳以下の若年者では、スクリューを埋め込んだ後、約3ヶ月の安定期間を設けてから使用を開始します。
一方で、高齢者の場合は骨密度の低下が見られることがあり、これによりスクリューの安定性が損なわれるリスクがあります。そのため、骨質が良好な部位を再選定し、必要に応じて再埋入を行うことがあります。
このように、年齢に応じた注意点を考慮し、患者さんの状態に適した治療計画を立てることが重要です。

喫煙

喫煙は、歯列矯正治療におけるアンカースクリューの安定性に悪影響を及ぼすといわれています。タバコの煙に含まれる化学物質は傷の治癒を遅らせ、歯肉炎や歯周病のリスクを高めるため、スクリューの脱落率が増加する可能性があります。
したがって、歯列矯正治療を受ける際は、喫煙の習慣がある方は禁煙を検討することが重要です。禁煙することで、アンカースクリューの安定性を高め、治療の成功につながります。

全身的な病気がある場合は注意

全身的な健康状態は、アンカースクリューを用いた部分矯正に直接影響を及ぼします。出血傾向がある病気、口腔内が常に乾燥している状態、免疫系の機能不全、白血球の機能障害、骨の疾患、糖尿病、ステロイド薬の使用、高血圧、妊娠中の方は、アンカースクリュー治療において配慮が必要です。
このような病気は治療のリスクを増加させる可能性があるため、矯正治療を開始する前に医師との詳細な相談が求められます。

アンカースクリューの再埋入の可能性

アンカースクリューを用いた部分矯正では、骨の状態や感染などの要因により、スクリューが緩んだり外れることがまれにあります。
このような場合、スクリューの再埋入が必要になることがありますが、技術の進歩により、脱落のリスクは以前より減少しています。脱落した場合の再埋入は、追加の費用がかからない場合が少なくないとされています。
また、治療中により適した場所に再埋入する必要が出てくることもあります。脱落したスクリューの部分は小さな骨の穴が残りますが、数ヶ月で自然に回復します。これにより、治療の効果を高め、不快感を抑えられるでしょう。

審美目的の場合は保険適用外

保険適用疾患以外の不正咬合にアンカースクリューを用いた部分矯正は、公的保険の適用外となります。
公的保険は病気やケガの治療及び療養を対象としているため、「見た目を改善する」ための矯正治療は自由診療に分類されます。これにより、治療費は保険適用外となり、歯科医院によって費用が異なるため、事前に詳細を問い合わせることが重要です。

まとめ

まとめ

ここまでアンカースクリューを用いた部分矯正についてお伝えしてきました。アンカースクリューを用いた部分矯正要点をまとめると以下の通りです。

  • アンカースクリューは直径約1.2〜1.6mm、長さ4〜8mmの小さなチタン製ネジで、顎の骨に埋め込まれ歯を動かす固定源として機能し、金属アレルギーの心配が少なく、施術後の痛みも少ないとされているため、治療期間を短縮したい方に適している
  • アンカースクリューを用いた部分矯正は治療期間が短縮され、装置が不要で快適性が向上し、抜歯不要なため歯の移動範囲が広がり、外科手術の負担も軽減する効率的な矯正方法である
  • アンカースクリューを用いた部分矯正では、口腔衛生の徹底、適切な年齢での施術、禁煙、全身的健康状態の確認が重要で、スクリューの脱落や再埋入の可能性、審美目的の場合は保険適用外となることを理解しておく必要がある

アンカースクリューを活用した部分矯正について理解していただけましたでしょうか? アンカースクリューを活用した部分矯正には、メリットがある一方で注意点もあるため、不安なことがある方は、歯科医師に相談してみることをおすすめします。

この記事の監修歯科医師
坂本 輝雄医師(東京歯科大学 千葉歯科医療センター 矯正歯科 臨床准教授)

坂本 輝雄医師(東京歯科大学 千葉歯科医療センター 矯正歯科 臨床准教授)

東京歯科大学卒業 東京歯科大学大学院歯学研究科(歯科矯正学専攻)修了 東京歯科大学歯科矯正学講座助手 慶応義塾大学医学部形成外科学教室非常勤講師 米国オクラホマ大学歯科矯正学講座 Visiting Assistant Professor 東京歯科大学歯科矯正学講座講師 東京歯科大学退職 東京歯科大学千葉歯科医療センター矯正歯科 臨床准教授

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坂本 輝雄医師(東京歯科大学 千葉歯科医療センター 矯正歯科 臨床准教授)

東京歯科大学卒業 東京歯科大学大学院歯学研究科(歯科矯正学専攻)修了 東京歯科大学歯科矯正学講座助手 慶応義塾大学医学部形成外科学教室非常勤講師 米国オクラホマ大学歯科矯正学講座 Visiting Assistant Professor 東京歯科大学歯科矯正学講座講師 東京歯科大学退職 東京歯科大学千葉歯科医療センター矯正歯科 臨床准教授

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