小児矯正を検討している方のなかには、親知らずの影響について悩むことがあるかもしれません。親知らずは、矯正治療の進行に影響を与えることがあります。
本記事では小児矯正と親知らずの関係について以下の点を中心にご紹介します。
- 親知らずとは
- 親知らずを放置することのリスク
- 小児矯正と親知らず
小児矯正と親知らずの関係について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
親知らずとは
親知らずとは、前歯から数えて8番目に位置する「第三大臼歯」と呼ばれる奥歯のことです。親知らずは、10代後半〜20代前半にかけて生えてくる永久歯で、乳歯の時期には存在しません。
かつては固い食べ物をすりつぶすために必要とされていましたが、現代では顎の骨が小さくなったことで、生えるスペースが不足しやすくなっています。そのため、斜めに生えたり、歯茎に埋もれたままになることがあり、痛みや腫れ、歯並びへの悪影響を引き起こすこともあります。
こうした理由から、現代ではほとんどの方にとって親知らずは不要とされることがあり、必要に応じて抜歯が検討されます。
親知らずが形成される時期
親知らずは、歯の芽である「歯胚」ができ始めるのは5〜6歳頃とされ、この段階ではまだ石灰化が進んでおらず、レントゲンでもはっきり確認できないことが多いとされています。その後、8〜10歳頃から徐々に石灰化が進み、歯の形が整ってきます。
そして、およそ17歳頃には骨のなかで根の先端まで完成します。実際に歯茎から親知らずが顔を出すのは、10代後半〜20代前半が多い傾向にありますが、なかには30代以降に生えてくる方や、一生出てこないままの方もいます。
親知らずの状態や生え方は個人差が大きいため、歯列矯正治療や抜歯を検討する際にはレントゲンでの確認が重要になります。
親知らずを放置することのリスク
親知らずを放置することのリスクにはどのようなことがあるのでしょうか。以下で解説します。
むし歯や歯周病になりやすい
親知らずを放置すると、むし歯や歯周病のリスクが高まるため注意が必要です。親知らずはお口の奥にあるため、歯ブラシが届きにくく、磨き残しが生じやすい部位です。
特に隣の第二大臼歯との間はすき間が狭く、食べかすや汚れが溜まりやすいため、むし歯や歯茎の炎症を引き起こしやすくなります。
斜めに生えたり一部だけ見えている親知らずでは、歯茎のなかで細菌が繁殖し、炎症が慢性化するケースも少なくありません。さらに進行すると、周囲の健康な歯にも悪影響を及ぼすことがあります。
親知らずが気になっている場合は、セルフケアだけでなく歯科医院での定期的なチェックやクリーニングを受け、必要に応じて抜歯などの対処を検討することが重要です。
歯並びが乱れる
親知らずを放置すると、歯並びに悪影響を及ぼすことがあります。なかでも、顎のスペースが不足している場合、親知らずが斜めに生えてきたり、隣の歯を押し出すようにして生えてきたりすることがあります。
その結果、前歯が重なってしまったり、全体の歯列が乱れたりすることがあります。こうした歯の動きは、見た目だけでなく、噛み合わせや清掃性にも影響を及ぼします。一度歯並びが崩れると、もとに戻すには歯列矯正治療が必要となることもあるため、親知らずが原因で歯列に影響が出る前に、早めの対応が重要です。
智歯周囲炎(ちししゅういえん)
親知らずを放置していると、歯茎が腫れて強い痛みを伴う「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」を引き起こすことがあります。これは、親知らずの周囲に細菌が繁殖し、炎症が起こることによって発症します。
なかでも、親知らずが半分埋まった状態や斜めに生えている場合は、歯ブラシが届きにくく汚れがたまりやすいため、発症リスクが高くなります。炎症が進行すると、歯茎の腫れだけでなく、発熱や顎の痛み、お口が開けづらくなるといった全身的な症状が出ることもあります。
智歯周囲炎は繰り返し発症することが多い傾向にあり、放置することで周囲の組織へ感染が広がる可能性もあるため、違和感を覚えたら早めに歯科医院での診察を受けることが大切です。
嚢胞(のうほう)
親知らずを放置していると、嚢胞(のうほう)と呼ばれる袋状の病変ができることがあります。これは、親知らずが骨のなかに埋まったまま生えてこない「埋伏状態」のときに起こりやすく、歯の周囲にある組織が変化して嚢胞が形成されます。
初期は自覚症状がないため気付きにくいのですが、進行すると骨を圧迫し、隣の歯を押したり、顎の骨を溶かしたりすることがあります。大きくなると腫れや痛みを伴い、外科的な処置が必要になることもあります。
親知らずが生えてこないまま長期間経過している場合や、違和感を覚えるときは、歯科医院でレントゲン検査を受けて状態を確認することが大切です。
強い口臭
親知らずを放置していると、強い口臭の原因になることがあります。親知らずはお口の奥深くに位置しており、歯ブラシが届きにくいため、汚れや細菌が溜まりやすい環境にあります。
なかでも、斜めに生えたり、一部が歯茎に埋まっている場合は、周囲の清掃がさらに困難になり、食べかすやプラークが蓄積しやすくなります。こうした汚れは時間の経過とともに細菌の温床となり、悪臭を放つ原因となることもあります。
また、炎症を起こして膿がたまるようになると、さらに強い口臭が発生することもあります。本人は気付きにくく、周囲に不快感を与えてしまうケースもあるため注意が必要です。
小児矯正と親知らずの関係
小児矯正と親知らずにはどのような関係があるのでしょうか。以下で詳しく解説します。
小児矯正治療中に親知らずが生える可能性
小児矯正治療中でも、将来的に親知らずが生えてくる可能性は十分にあります。先述しましたが、親知らずは10代後半〜20代前半にかけて生えてきますが、生える時期や方向には個人差が大きく、予測が難しいこともあります。
小児矯正治療によって整えた歯列に対して、親知らずが横向きや斜めに生えて圧力を加えると、ほかの歯が押されて歯並びが再び乱れてしまう恐れがあります。その結果、小児矯正後に後戻りが起きたり、追加の治療が必要になることもあります。
そのため、矯正開始前には親知らずの状態をレントゲンで確認し、将来的なリスクも見据えて治療計画を立てることが重要です。
親知らずが歯列矯正治療に与える影響
親知らずは、歯列矯正治療にさまざまな影響を与える可能性があります。 なかでも、歯列矯正によってきれいに整えた歯並びに対し、親知らずが後から生えてくると、周囲の歯を押し出してしまい、再び歯並びが乱れる原因になることがあります。
さらに、横向きや斜めに生えてくる親知らずは、隣接する歯に強い圧力をかけるため、歯列矯正後の後戻りや噛み合わせのずれを引き起こすこともあります。
また、矯正治療中に親知らずが動き出すと、治療計画に影響を及ぼし、装置の調整や治療期間の延長が必要になる場合もあります。
こうしたリスクを避けるためには、治療前に親知らずの状態をしっかり把握し、事前の対策を講じることが重要です。
矯正治療前に親知らずを抜くべき?
矯正治療前に親知らずを抜くべきなのかについて以下で解説します。
親知らずを抜歯した方がいいケース
親知らずを抜歯するべきかどうかは、その生え方や位置によって決まります。以下のような場合には親知らずを抜歯することが推奨されます。
- 横向きや斜めに生えている場合
親知らずが横向きや斜めに生えていると、隣の歯を圧迫して歯並びに悪影響を与えることがあります。この場合、親知らずを残すことで歯並びが乱れ、矯正治療に支障をきたす可能性が高くなります。 - 歯茎に埋まっている場合
親知らずが半分だけ歯茎に埋まっている状態だと、歯磨きが難しく、むし歯や歯周病のリスクが増えます。また、炎症や腫れを繰り返すこともあり、早期に抜歯を考えた方がよいでしょう。 - 歯列矯正治療の進行を妨げる場合
矯正治療中に親知らずが隣の歯を押すと、歯並びが崩れたり、治療計画が狂う可能性があります。矯正治療が進まない原因となる場合は、親知らずを抜歯することが重要です。 - 歯に悪影響を及ぼすリスクがある場合
親知らずがほかの歯に悪影響を与えると判断された場合、早期に抜歯することが推奨されます。親知らずが埋まったまま、または横向きに生えている場合は、隣の歯に対する圧力が強く、放置すると歯並びが悪化する恐れがあります。 - むし歯や歯周病が進行している場合
親知らずにむし歯ができていたり、歯周病の兆候が見られたりする場合、早急に抜歯することがおすすめです。奥歯は治療が難しく、むし歯が広がる前に抜歯を検討することが大切です。 - 炎症や腫れを繰り返す場合
親知らず周囲で歯肉が腫れたり痛みが発生したりする場合、炎症を放置するとほかの歯にも悪影響を及ぼすことがあります。症状が繰り返される前に抜歯を検討することで、さらなる問題を防げます。
このようなケースでは早めに抜歯することが推奨されています。
親知らずを抜歯しなくてもいいケース
親知らずは抜歯が必要とは限らず、状態によっては残しておけるケースもあります。 以下のような条件に当てはまる場合は、経過観察で問題ないと判断されることがあります。
- 親知らずがまっすぐ正常に生えており、上下でしっかり噛み合っている場合
歯並びや噛み合わせに悪影響を与えていない状態であれば、抜歯の必要はありません。 - むし歯や歯周病がなく、清掃状態もよくトラブルがない場合
歯磨きがきちんとできており、周囲の歯にも悪影響を与えていなければ、様子を見ましょう。 - 骨のなかに埋まっていて、ほかの歯や組織に影響を及ぼしていない場合
将来的なリスクが低いと判断された場合、無理に抜歯する必要はありません。 - 将来的に移植(自家歯牙移植)やブリッジの支台歯として利用できる可能性がある場合
状態のよい親知らずは、ほかの歯を失った際に役立つこともあり、保存されることがあります。
これらの条件を満たす親知らずであれば、抜歯せずに定期的なチェックを行いながら経過観察することが望ましいでしょう。
子どもの親知らずを抜歯するのにおすすめな時期
子どもの親知らずを抜歯する場合、負担が少ないとされる時期は、親知らずがまだ「歯胚(しはい)」という歯の卵の状態にある7〜10歳頃です。この時期であれば、歯の根ができる前のやわらかい状態で抜歯できるため、処置が簡単で術後の痛みや腫れも少なく済みます。
この早期抜歯は「ジャームエクトミー(Germectomy)」と呼ばれ、小児矯正治療を行う際に併せて行われることもあります。
なかでも、下の親知らずは、手前の12歳臼歯が生える頃になると骨の奥へと入り込み、抜歯が難しくなる傾向があります。そのため、抜歯のタイミングは慎重に見極めることが重要です。
親知らずを抜歯するかどうか判断するのに必要な検査
親知らずを抜歯するかどうかを決める際、目視だけでは正確な判断は難しいため、複数の検査を行う必要があります。以下のような検査が実施されます。
- 視診・打診
親知らずにむし歯がないかどうかを直接確認したり、軽く叩いたりして調べます。歯と歯の間にフロスを通して、引っかかりがあったりフロスが切れたりすると、むし歯の兆候があるかもしれません。 - 印象採得(型取り)
口内の状態を模型で確認することで、親知らずがどのように生えてくるのか、またほかの歯並びへの影響を予測できます。 - レントゲン検査
パノラマレントゲンやセファロレントゲンで親知らずの角度やほかの歯との位置関係を確認します。ただし、親知らずが下顎の神経に近い場合、注意が必要です。
まとめ
ここまで小児矯正と親知らずの関係についてお伝えしてきました。小児矯正と親知らずの関係についての要点をまとめると以下のとおりです。
- 親知らずとは、正式に「第三大臼歯」と呼ばれる歯で、10代後半〜20代前半にかけて生えてくる
- 親知らずを放置することのリスクには、前歯が重なったり歯が押し出されたり、親知らず周辺の歯茎に炎症を引き起こし、智歯周囲炎を発症することがある
- 親知らずは歯列矯正治療にさまざまな影響を与える可能性があり、歯列矯正中に親知らずが生えてきたり、位置がよくなかったりすると、治療計画が進まなくなる場合がある
親知らずの抜歯は、治療の進行状況や今後の歯並びに与える影響を十分に考慮することが重要です。矯正治療を始める前に親知らずを抜歯することで、歯並びや噛み合わせが安定し、将来の問題を防げます。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。