悪い歯並びは、口元の印象を大きく左右するため、できれば治したい、改善したいと考えている方が多いです。とくにお金をかけずに治せる方法があればベストといえるでしょう。そこでよく耳にするのが割り箸を使って自力で矯正する方法です。いささか強引な方法に思えますが、実際に割り箸で矯正できるのか否か。実践した場合のデメリットやリスクについて解説します。
歯並びは自力で割り箸で矯正できる?
結論から言うと、歯並びの乱れを割り箸で自力で治すことはできません。私たちの歯というのは歯槽骨(しそうこつ)と呼ばれる硬い骨に埋まっているため、そう簡単に動かすことができないのです。確かに、とても強い力をかければ歯の移動も可能にはなりますが、割り箸を使って矯正を試みても、悪い結果しか得られないことでしょう。過去に割り箸を使って自力で歯並びを良くしようとした人はいるかもしれませんが、成功した人はゼロと言っても過言ではありません。割り箸を使って自力で歯並びを治すことは、それくらい突拍子のないことなのです。
歯並びを自力で割り箸で矯正する4つのリスク
上段でも述べたように、悪い歯並びを割り箸で矯正することは不可能です。それにもかかわらず無理して自力で治そうとすると、次に挙げるような4つのリスクを伴うため十分な注意が必要といえます。
歯並びが悪くなってしまう
矯正の専門家が行う歯並びの治療には、専門的な知識と技術、経験が必須です。同じ歯科医師でも矯正の経験がなければ、正しい治療結果を導くことは難しいです。それをまったくの素人が自力でやろうとするとどうなるでしょうか?専門家でさえ予期せぬ歯の動きに悩まされることがあるくらいなのに、素人が割り箸を使って自力で歯を動かせば、歯並びの悪化を招いてしまうこともありえます。出っ歯を割り箸で治そうとしたら、前歯の突出感がより強くなってしまった、なんてことも十分にあり得るのです。割り箸を使って歯並びを自力で治すことは、それくらい危険なことだということを知っておきましょう。
歯の寿命が短くなってしまう
私たちの歯はとても丈夫にできています。歯の表面を覆うエナメル質は人体で最も硬い組織ですし、虫歯治療で削る時にはダイヤモンドの粉末がまぶされたバーを使わなければなりません。一方で、割り箸で強い圧力をかけるような刺激に対して歯は意外に弱いのです。自力で矯正する過程で歯が欠けたり、ひびが入ったりすることもあれば、歯の神経や顎の骨に炎症が起こる場合もあります。その結果、歯の寿命が縮まるのです。歯並びの乱れを自力で治そうとして歯そのものの寿命が短くなってしまったら、元も子もありませんよね。
歯が抜けてしまうかもしれない
歯を抜くためにはものすごく強い力が必要です。これまでに親知らずを抜いた経験がある方ならよくわかるかと思いますが、ペンチのような器具を使って30分くらい処置を継続しながら抜歯をするのが一般的なのです。ただ、割り箸による刺激が長期に渡って蓄積すると、歯根や顎の骨が溶けてしまい、最終的には歯が自然に抜けてしまいます。そうした最悪のケースだけは絶対に避けるようにしましょう。
頭痛や肩こり、顎関節症の原因になってしまう
私たちの口はとてもデリケートです。砂粒がひとつ入っただけでも気になってしまうくらいなのに、歯列に対して割り箸で強い力をかけると、口の周辺にさまざまな異常が生じます。自力で矯正しようとして歯並びや噛み合わせが悪くなったら、顎の関節に過剰な負担がかかるようになる場合もあります。その結果として顎関節症を発症したり、頭痛や肩こりに悩まされたりするようになることもあるのです。
歯並びを割り箸で矯正する以外に自力で矯正できると言われている方法
割り箸を使って自力で矯正することは不可能であることはご理解いただけたかと思います。それでもやはり歯並びの治療にはあまりお金をかけたくない。もっと気軽に歯並びを治したい。そう考えている方は多いことでしょう。そこでこの章では、割り箸以外の自力で矯正する方法について、かんたんにご説明します。
格安のマウスピース矯正
標準的なワイヤー矯正は、費用が100万円前後かかるだけでなく、装置が目立つため敷居が高くなっています。ワイヤー矯正が嫌で歯並びを自力で治したいと考えている方は多いことでしょう。そこでお勧めできるのがマウスピース矯正です。マウスピース矯正なら透明な樹脂製のマウスピースを使うため見た目が気になりにくいです。食事や歯磨きを普段通りに行える点も魅力といえます。 ただ、マウスピース矯正も基本的には数十万円の費用がかかることから、なかなか一歩踏み出せないという方も多いです。すべての歯を治す全体矯正の場合は、マウスピース矯正でも80万円前後の費用がかかります。そこで最近、注目を集めているのが「格安のマウスピース矯正」です。安いメーカーでは2万円から歯並びを治せますと謳っている場合もあり、気軽に歯並びの治療を始められます。とはいえ格安のマウスピース矯正にもいろいろなリスクやデメリットがあり、結局は標準的な価格の治療を受けた方が良いことの方が多いです。
出っ歯を自分で後ろに押す
日本人で出っ歯の症状に悩まされている人は比較的多いです。専門的には「上顎前突(じょうがくぜんとつ)」と呼ばれる歯並び・噛み合わせの異常で、口元の突出感が気になります。そんな出っ歯こそ自力で治せそうなものですよね。前に傾いている、あるいは前方に出ている前歯を自分で後ろに押せば、出っ歯の症状も改善できるように思えます。実際、ワイヤー矯正やマウスピース矯正でも前歯を後ろに下げることで出っ歯の症状を治すため、自分で後ろに押しても同じ結果が得られるのではないか、と思う気持ちもよくわかります。
けれどもそれはとても危険なことなので、絶対にやめるようにしてください。自力で前歯を押し込むと、前段で解説したようなリスクが生じます。具体的には、かえって歯並びが悪くなる、歯の寿命が縮まる、歯が抜けるといったリスクです。仮に、歯の矯正の専門家が一切の装置を使わずに自力で前歯を押し込んだとしても、出っ歯を治すことはできません。それを素人がやろうとするのですから、どれほど危険なことかはおわかりいただけるかと思います。
すきっ歯に輪ゴムをかける
次に、すきっ歯を自力で治す方法についてです。すきっ歯は、歯列内に不自然なすき間がある歯並び・噛み合わせの異常で、食べ物が詰まりやすく、見た目もあまり良くありません。ただ、すき間が空いているだけなので、自力で治すことも難しくなさそうですよね。何らかの方法ですき間を閉じる、あるいは埋めれば良いのですから、ガタガタの並びよりも自力で治すのは簡単なのかもしれません。その考え方にも大きな間違いがあると言えるでしょう。例えば、すきっ歯を自力で治すために輪ゴムを引っ掛けたとしましょう。矯正治療で使用するような輪ゴムを適切な位置に引っ掛けると、歯の移動自体は起こるかもしれませんが、意図したような結果が得られるとは限りません。文房具屋で販売している一般的な輪ゴムを使った場合は、そもそも歯は動きません。つまり、輪ゴムを使ってすきっ歯を自力で治そうとすることは適切な方法ではないのです。
歯並びは自力で割り箸で矯正せず、歯科医師に相談しよう
ここまでの解説で、歯並びを自力で治すことは難しい点についてご理解いただけたかと思います。それは割り箸だけでなく、輪ゴムなどを使った場合も同様です。少なくとも次に挙げるような歯並び・噛み合わせの異常は、歯科医師に相談した腕、適切な矯正歯科治療を受けることをおすすめします。
上顎前突(出っ歯)
上顎前突(じょうがくぜんとつ)とは、上の前歯が前方に出ている歯並びです。上の顎が突出している場合もありますが、一般的には出っ歯と呼ばれています。口元の突出感が特徴で、コンプレックスとなりやすい歯並びのひとつといえるでしょう。
日本人に出っ歯の症状が多いのは、顎が比較的小さいからです。顎が小さいと28本ある永久歯をきれいに並べることが難しくなり、前歯が前方に出てしまいます。あるいは、下の顎があまり成長せず、相対的に上の顎が出てしまったというケースもよく見られます。出っ歯だと口呼吸になりやすい、歯磨きしにくい、発音が悪くなる、前歯のケガが多くなる、といったデメリットも伴います。
下顎前突(受け口)
下顎前突(かがくぜんとつ)とは、下の前歯が前方に出ている歯並びです。下の顎が突出している場合もありますが、一般的には受け口と呼ばれています。顎がしゃくれているように見えるため、何とかして受け口を治したいと考えている方は多いです。
受け口を放置していると、前歯で食べ物を噛み切れない、奥歯に過剰な負担がかかる、特定の言葉が発音しにくい、といったデメリットが生じます。小児期に見られる受け口は早期に治療を開始しなければ、後々治すのが難しくなるため要注意です。2~3歳で上の顎の成長の遅れを感じたら、まずは歯医者さんに相談しましょう。
叢生(乱杭歯)
叢生(そうせい)とは、歯並びがガタガタになっている状態です。一般的には乱杭歯(らんぐいば)と呼ばれていますね。ガタガタの歯並びは見た目があまり良くないため、人前で口を大きく開けられないという方も少なくありません。海外ではガタガタの歯並びを見ただけで、「育ちが悪い」「貧しい家庭で育ったのだろう」といった印象を持たれることもあります。
そんな乱杭歯の症状を放置していると、虫歯や歯周病のリスクが上がる、食べ物を咀嚼しにくい、口臭が強くなりやすい、特定の歯に大きな負担がかかる、といったデメリットを伴います。見た目からもわかるように乱杭歯こそ自力で治すことが不可能な歯並び・噛み合わせの異常なので、歯科医師に相談することが必須といえます。
開咬
開咬(かいこう)とは、噛んだ時に前歯にすき間が生じる噛み合わせの異常です。上下の前歯が噛み合わないため、食べ物を噛み切りにくいです。口呼吸になることも多く、口の中が乾燥しがちです。咀嚼の際に奥歯に偏って負担がかかることもあります。その結果、奥歯の寿命が縮まったり、顎関節症を発症したりするリスクが高まります。
開咬は見た目が悪くなるだけでなく、口に深刻な悪影響を及ぼす歯並び・噛み合わせの異常なので、できるだけ早期に矯正治療を受ける方が良いでしょう。当然ですが開咬を自力で治す方法は存在しておらず、専門家の力を借りない限り、その症状は改善されません。
空隙歯列(すきっ歯)
すき間のある歯並びを空隙歯列(くうげきしれつ)といいます。一般的にはすきっ歯と呼ばれる歯並びです。すきっ歯は日本人にそれほど多くはありませんが、見た目の問題で悩まれている方は少なくないです。とくに上の前歯の真ん中にすき間がある「正中離開(せいちゅうりかい)」は、口元の審美性を低下させる要因にもなるため、自力で治せないかいろいろと試す人は多いですね。
上でも述べたように、すきっ歯を輪ゴムで治すことはできませんので、その点はご注意ください。また、すきっ歯は食べ物が詰まりやすく、虫歯や歯周病のリスクが高くなる点も忘れてはいけません。息漏れによって発音が悪くなる方もいます。そんなすきっ歯を根本から改善するのであれば、やはり歯列矯正が一番といえるでしょう。
過蓋咬合(かがいこうごう)
過蓋咬合とは、噛み合わせが異常に深い歯並びを指します。上の歯列が下の歯列をすっぽりと覆い隠すくらい深い噛み合わせの場合は、過蓋咬合といえるでしょう。噛み合わせが深いと、奥歯に負担がかかります。食べ物が噛みにくいと訴える人も少なくありません。過蓋咬合の症状が見られる場合は、まず矯正歯科の治療が得意な歯医者さんに診てもらいましょう。
交叉咬合(こうさこうごう)
交叉咬合とは、噛み合わせが部分的に逆になっている歯並びです。例えば、奥歯は本来、上の歯が外側、下の歯が内側に位置しているものですが、それが逆になっている場合を交叉咬合といいます。前歯の交叉咬合も存在していますが、その場合は反対咬合と呼ばれることもあります。交叉咬合は、噛み合わせに大きな問題を抱えていることから、咀嚼機能に障害が現れます。上下の歯が不適切な位置で噛み合うため、歯の寿命が短くなりやすい点にも注意が必要です。
まとめ
今回は、割り箸を使って悪い歯並びを自力で治す方法やリスク、デメリットについて解説しました。本文でも述べたように、割り箸で歯並びを治すことは現実的に不可能です。それを試みること自体とても危険なので、実践すべきではないといえます。歯やお口の健康のためにも、自力で歯並びを治そうとすることはやめてください。歯並びの問題は、矯正の専門家に治してもらうのが一番です。矯正を専門とする歯科医師なら、ほとんどの歯並びを安全かつ確実な方法で改善することが可能です。
参考文献