歯並びは第一印象に影響を及ぼし、歯並びにコンプレックスを持っている人は、笑顔にも自信をなくすといいます。
歯の矯正方法にはさまざまな方法があります。現在、一般的な矯正方法はワイヤー矯正です。では、ワイヤー矯正はどのようにして歯を矯正していくのでしょう。
ここではワイヤー矯正の仕組み・種類・メリット・デメリットを紹介しましょう。歯の矯正を考えている人は、ぜひ参考にしてみてください。
ワイヤー矯正とは
ワイヤー矯正とは、歯科矯正の一般的な治療方法です。体に自然と備わっている「自己回復力反応」を利用した治療方法です。
少しずつ歯に力を加えていき、理想の歯並びに矯正していきます。そのため歯に「ブラケット」を装着し、そこに正しい歯列を作るためのワイヤーを通していきます。
このワイヤーは形状記憶合金で作られており、ワイヤーが元の形に戻ろうとする力やワイヤーがしなる力を利用するのです。
歯に装着されたブラケットがワイヤーに引き寄せられ、歯に一定の力が加わります。徐々に歯を移動させることで歯列の乱れを矯正していきます。
ワイヤー矯正の仕組み
ワイヤー矯正では、歯に対して適切な力を加えることで歯を移動させます。この矯正力は、強ければよいというものではありません。
矯正力が強すぎると矯正自体が失敗してしまう可能性があります。では、どのような仕組みでワイヤー矯正で歯を動かすことができるのでしょう。歯を動かす仕組みを解説します。
歯を動かすための力が歯根膜に伝わる
歯のまわりには、歯を支えるための骨がありますが、骨と歯根の間には「歯根膜(しこんまく)」という薄い膜があります。
歯根膜は弾力性があり、物を食べたときにクッションの役割をしており、歯根膜こそがワイヤー矯正では重要な役割を果たしているのです。
ワイヤー矯正で歯に一定の力が加わると、歯根膜に変化があらわれます。歯根膜は歯が動く方向に縮み、歯の反対側の歯根膜は伸びて引っ張られることになります。
一連の歯根膜への刺激が続くことにより、徐々に歯が移動していくという仕組みです。
歯が動く方向に骨を溶かす細胞ができる
では、なぜ歯根膜に力を加えていくと歯が移動するのでしょう。歯根膜は、一定の厚みをキープしようとする自己治癒力があります。
矯正ワイヤーによって歯根膜の厚みが変わってくると、歯根膜周辺の骨に変化があらわれるのです。
縮んだ方の歯根膜は、元の厚さに戻ろうとして「骨を溶かす細胞(破骨細胞)」の働きが活発になります。
歯が動く方向の反対側に骨を作る細胞ができる
歯根膜が伸びた側では元の厚さに縮もうとして「骨を作る細胞(骨芽細胞)」の働きが活発になります。
ワイヤー矯正では、「骨を作る」と「骨を溶かす」を繰り返すことにより、歯が少しずつ理想の位置に移動していきます。
歯根膜が一定の厚みをキープする
歯根膜には、一定の厚みを保とうとする自然治癒力があります。ワイヤー矯正は歯根膜の性質を利用して、人工的に歯根膜の厚みを変えて歯を動かすという仕組みです。
ワイヤー矯正の仕組みでは「骨の吸収」と「骨の再生」がポイントとなります。
このバランスを綿密にコントロールしながら矯正を進めるためには、月に1回は歯科医院に通院して、ワイヤーの力加減や引っ張る方向などを微調整する必要があるのです。
ワイヤー矯正は、歯根膜と骨の吸収・再生を利用した治療方法です。ワイヤー矯正で歯が動く仕組みを理解すれば、矯正には時間がかかることも納得できるのではないでしょうか。
ワイヤー矯正の種類
ワイヤー矯正には3種類の方法があります。それぞれメリットやデメリットもありますから、主治医とよく相談して納得できる種類を選びましょう。
唇側矯正
唇側矯正は、表側矯正とも呼ばれるワイヤー矯正の種類です。上顎と下顎の表面にブラケットとワイヤーを装着します。
一般的なワイヤー矯正の種類で、周りの人で矯正している人のほとんどが唇側矯正ではないでしょうか。
唇側矯正のメリットは、歯並びの状態に関わらず矯正できるという点です。歯と歯の間が大きく開いていても、ねじれていてもほとんどの歯並びの矯正に対応することができます。
また、歯の表面に装着するため発音への影響も最小限にとどめることができます。さらに、歯磨きも目で見ながら磨き残しなどをチェックすることが可能です。
費用も3種類のワイヤー矯正の中で一番安く治療することができます。相場としては、全体矯正で60~100万円(税込)ほどです。
一方でデメリットとしては装着した装置が目立つということがあります。接客業などの職業柄、見た目が悪いからと敬遠する人も多くいるのではないでしょうか。
最近では、金属製ではなく目立ちにくい白いブラケットやホワイトワイヤーを使う歯科医院もあります。目立つのは困るという人は、相談してみましょう。
舌側矯正(裏側矯正)
舌側矯正(裏側矯正)は、ワイヤー矯正の一種で上顎と下顎の裏側にブラケットとワイヤーを装着します。
舌側矯正(裏側矯正)のメリットは、目立たないということです。
歯の裏側に装着するので、周りからはほとんど気付かれずに済みます。また、何か物が唇にぶつかっても、唇側矯正に比べてケガをしにくいという点です。
デメリットとしては、唇側矯正に比べて症例が非常に少ないという点です。また、歯並びによっては採用できないこともあります。
そのほか、歯の裏側に装着することから発音がハッキリしない・矯正装置が外れやすい・矯正期間が唇側矯正よりも長いなどもあります。
さらに歯の裏側は目視できないので、歯磨きのときに磨き残しや汚れがたまりやすく、むし歯のリスクも高くなるのです。
舌側矯正(裏側矯正)は、歯科医師の高度なテクニックが必要なワイヤー矯正方法です。そのため唇側矯正に比べると、治療費が高額になります。
全体矯正の相場は100~150万円(税込)ほどです。
ハーフリンガル矯正
ハーフリンガル矯正とは、唇側矯正と舌側矯正のハーフ&ハーフといってよいでしょう。
唇側矯正は、目立ちやすいというデメリットはありますが、扱いやすいワイヤー矯正の種類です。
一方、舌側矯正(裏側矯正)は目立ちにくいというメリットはありますが、扱いにくいワイヤー矯正の種類といえます。
矯正装置を装着してみればわかりますが、目立つのは上顎側の歯です。下顎の歯は唇に隠れてあまり目立ちません。
ハーフリンガル矯正は、上顎側の歯の矯正に舌側矯正を採用し、下顎側の歯の矯正に唇側矯正を採用するものです。
ハーフリンガル矯正は完全に舌側矯正(裏側矯正)にするよりも、費用を抑えることができるのもメリットのひとつです。
全体矯正の相場は、80~130万円(税込)ほどとなっています。
ワイヤー矯正のメリット
一般的に普及しているワイヤー矯正ですが、他の矯正方法に比べてどのようなメリットがあるのでしょう。ワイヤー矯正のメリットをご紹介します。
矯正装置を外す必要がない
ワイヤー矯正のメリットとして、矯正装置を外す必要がないことがあげられます。1度装着したら、食事や歯磨きのときに矯正装置を外す必要はありません。
ワイヤー矯正は、装着時間を気にせず生活することができます。24時間、何もしていなくても矯正効果が働き続けるので安心です。
さまざまな歯並びの患者さんに適応できる
ワイヤー矯正では、どのような歯並びにも対応することが可能です。他の矯正方法の場合、症例によってはできない場合があります。
たとえばマウスピース型を使った矯正では、メリットとして取り外しができたり目立ちにくかったりします。しかしデメリットとして、抜歯を伴った場合の矯正はあまり効果を発揮しない場合があるのです。
その点、ワイヤー矯正では抜歯を伴う治療でも、十分効果を発揮することが可能です。
また、ワイヤー矯正は矯正方法の中では費用が抑えられます。マウスピース型矯正の
費用の相場は、30〜100万円(税込)ほどだそうです。参考にしてみてください。
ワイヤー矯正は、さまざまな歯並びの患者さんに適応するだけではなく、経済面でもハードルが低い矯正方法といってよいでしょう。
細かい調整ができる
矯正が終わりに近づくと、細かな調整が必要になってきます。患者さん自身もさまざまな点が気になってくるでしょう。
たとえば「少し前歯が曲がっているような気がする」「もう少し歯と歯の隙間を狭くして欲しい」などです。
ワイヤー矯正なら、こうした細かな微調整も可能になります。マウスピース型矯正では、最初にオーダーメイドでマウスピースを作ってしまうため、細かな調整をすることはできません。
マウスピース型矯正の最終的な微調整は、やはりブラケットとワイヤーで行うことが多いようです。
ワイヤー矯正のデメリット
さまざまな歯並びの矯正に対応できて、矯正期間も短く、費用も抑えられるワイヤー矯正ですがメリットばかりではありません。
デメリットも同時に知っておかなければ、装着したあとに後悔するかもしれません。デメリットもしっかり理解しておきましょう。
装置が目立つ
ワイヤー矯正の場合のデメリットは、装着している装置が目立つことです。そのため見た目が気になる、歯科矯正していることを知られたくないという人は、他の方法を選択するべきでしょう。
ワイヤー矯正は効果のある矯正方法ですが、装置が目立つことで二の足を踏んでしまっている人も多いようです。
そのため、舌側矯正やマウスピース型矯正が開発されたのですが、他の矯正方法は歯並びの状態によっては使用できないケースもあります。
その点、しばらく装置が目立つことを我慢すればワイヤー矯正は手軽で近道といえるでしょう。
食事がしにくい
マウスピース型矯正では、食事中はマウスピースを取り外すことができます。しかし、ワイヤー矯正では食事中でも装置を取り外すことはできません。
食事中に食べ物が装置に挟まったり、詰まったりして食事がしにくいというデメリットがあります。
ワイヤー矯正中に注意しなければならない食べ物もあります。たとえば、キャラメル・ガム・餅などです。
これらの粘着性の強い食べ物は、装置に付着すると装置が外れたり、破損したりする可能性があります。あまり硬い食べ物も避けた方がよいでしょう。
そのほかにも挟まりやすいニラ・えのき・ほうれん草、詰まりやすいビスケット・ポテトチップス、色が付着しやすいカレー・コーヒーなどにも注意が必要です。
歯が磨きにくい
ワイヤー矯正は、マウスピース型のように取り外しができないため、歯磨きがしにくいというデメリットがあります。
装置のまわりの細かい部分は凹凸もあり、歯ブラシでは毛先が当たらず汚れが残ってしまうことも多いものです。
矯正前はデンタフロスを使っていたという人も、ワイヤー矯正を始めると難易度が高くなるため、使わなくなってしまったという人もいます。
このままでは、むし歯や歯周病の原因となって、その治療のため矯正を一時的にストップしなければなりません。
ワイヤー矯正中におすすめなのが「タフトブラシ」です。毛先の部分が小さく、装置の細かな部分でもピンポイントで歯を磨くことができます。
ワイヤー矯正中の注意点
ワイヤー矯正中は、ブラケットやワイヤーが歯ブラシの邪魔になることがあります。そのため、装置の間に歯垢が溜まりやすくなり、むし歯や歯周病のリスクが高まります。
ワイヤー矯正中は、いつもよりむし歯になりやすい環境下にあることを常に忘れないことです。普段以上に念入りに歯磨きをしましょう。
ワイヤー矯正は、少しずつ歯を引っ張って動かす治療です。歯に力がかかるため、痛みを感じることがあります。
とくに装着したばかりのときや装置の調整を行ったときなど、1週間ほど痛みが続く可能性があります。あまりにも違和感や痛みがある場合には、歯科医師に相談してみましょう。
ワイヤー矯正中には、定期的なメンテナンスが非常に重要です。歯の移動をコントロールするためには、ワイヤーの強度を適切にしなければなりません。
そのためには1ヶ月に1度通院して、現在の歯の位置に問題はないか、ワイヤーの強度は適正かなどを歯科医師がチェックします。
そのうえで調整を行い、よりスムーズに矯正を行っていくため、とくに違和感がなくても定期的に通院する必要があります。
また、定期的なメンテナンスは装置の不具合の早期発見のためにも必要です。ワイヤー矯正の装置は、食事中などに一部が外れたり、破損したりすることがあります。
破損した装置は、口腔内を傷つける危険性もあり、矯正効果もなくなってしまいます。違和感を覚えたら、定期メンテナンスではなくても歯科医院で診てもらいましょう。
メンテナンスは、装置や矯正進行具合をチェックするだけではありません。ワイヤー矯正中は、自宅での歯のお手入れがしにくくなります。
そのため、1ヶ月に1度は、歯科医院で歯のクリーニングが必要になります。歯や歯茎の状態のチェック、歯垢・歯石のチェックなどの口腔ケアを行い、むし歯や歯周病を防ぎましょう。
まとめ
ワイヤー矯正の仕組みは、歯根膜が元の厚みに戻ろうとする働きを利用して、歯列を整えていきます。「骨の吸収」と「骨の再生」がポイントになります。
ワイヤー矯正のメリットは、さまざまな歯並びに対応でき、細かい調整が可能であるという点です。
一方でデメリットとしては、装置が目立つこと・食事がしにくいこと・歯が磨きにくいことなどがあげられます。
ワイヤー矯正中は、装置が邪魔をして歯磨きがしにくいため、磨き残しが多くなります。いつもよりも念入りに歯磨きをして、むし歯や歯周病から歯を守りましょう。
参考文献