出っ歯は、とても目立つ歯並びなので、何とかして治したいという人が多いです。矯正治療なら出っ歯を根本から治すことも可能ですが「費用が高い」「治療期間が長い」など、ネックとなる部分が多いことから、自分で治す方法を模索している人もいることでしょう。ここではそんな出っ歯について、症状や原因、自分で治す方法、矯正治療などを詳しく解説します。出っ歯の改善を今日からでも始めたいという人は、このコラムを参考にしてみてください。
出っ歯について
はじめに、出っ歯の基本事項を確認していきましょう。出っ歯は誰もが知っている歯並びではありますが、実際の症状や原因については誤解している部分もあるかもしれません。出っ歯について正しい理解がないと、改善する方法を誤ってしまう可能性があるため、十分にご注意ください。
出っ歯とは何か
「出っ歯」というのは俗称で、専門的には「上顎前突(じょうがくぜんとつ)」といい、上の前歯あるいは上の顎が前方に出ている歯並び・噛み合わせの異常です。日本人には比較的多く見られる症状で、特徴的な顔貌を呈します。
◎上顎前突の定義
上顎前突には明確な定義があります。それは「オーバージェット」と呼ばれる値が+4mm以上であることです。オーバージェットとは、上下の前歯の噛み合わせの、前後の位置関係を表す数値です。上の前歯が下の前歯より前に出ている場合は値がプラスになり、逆の場合はマイナスになります。+2~3mm以内であれば正常といわれており、前後の距離が離れるほど噛み合わせが悪いことを示す、噛み合わせの物差しになる数値です。オーバージェットは自己診断するのは難しいので、歯科医院で診察を受けるようにしましょう。
◎出っ歯の客観的な指標
次のような症状が見られる場合は、出っ歯である可能性が高いです。
- Eラインから口唇が出ている
- 口を閉じると顎に梅干しのようなシワがよる
- 前歯が邪魔で上唇が閉じにくい
Eラインとは、横顔の美しさの指標となるもので、鏡で簡単に確認できます。鼻の先と顎の先を結んだ線がEラインで、口唇がそれよりも外側に出ている場合は出っ歯となります。日本人の理想は、口唇がEラインのやや内側に入っている状態だといわれています。
出っ歯の原因
出っ歯になる原因は、大きく2つに分けられます。それは「骨格性」と「歯性(しせい)」です。
◎骨格性上顎前突
骨格性上顎前突とは、顎の骨の形や大きさ、上下顎のアンバランスによって出っ歯になっているケースです。最もわかりやすい例は、上の顎の骨が大きかったり、前方に長かったりする場合です。出っ歯はあくまで上下顎の相対的な位置関係で決まることから、上の顎の骨が正常でも、下の顎の骨が小さかったり、後ろに下がっていたりする場合も同様の症状が見られます。骨格性上顎前突は、遺伝的な要因だけでなく、生まれてからの習慣によって引き起こされることもあります。
◎歯性上顎前突とは
歯性上顎前突とは、前歯の傾きや生えている位置の異常によって出っ歯になっているケースです。骨格は正常であるため、矯正治療で治しやすい症状といえるでしょう。もちろん、歯性上顎前突にも重症例があり、標準的な歯列矯正では対応できないケースもありますので、その点はご注意ください。ちなみに、歯性上顎前突は、スペースの不足や指しゃぶりなどの口腔習癖、乳歯列期の虫歯の重症化などが原因として考えられます。
出っ歯のデメリット
出っ歯は、明らかな歯並び・噛み合わせの異常であり、上顎前突という診断名もつくことから、いくつかのデメリットを伴います。
デメリット1:口元のコンプレックスになる
一般の人が感じる出っ歯の最大のデメリットは、見た目の悪さです。上の前歯が出ている状態にマイナスな印象を受ける人は少なくありません。出っ歯を治したいと希望する人の大半も見た目の問題を改善することに重きを置いています。出っ歯が口元のコンプレックスになって「人前で自然に笑えなくなった」「しゃべる時は口を隠してしまう」という人もたくさんいます。
デメリット2:虫歯・歯周病のリスクが高い
出っ歯は、口呼吸を誘発するため、口内乾燥を招きやすいです。口の中が乾くと、唾液による自浄作用・抗菌作用・殺菌作用・緩衝作用・歯の再石灰化の促進が弱まることで口内細菌の活動が活発化します。その結果、虫歯や歯周病のリスクが高まるのです。
また、出っ歯は前歯の生え方に異常が見られることが多く、歯磨きしにくい歯並びであることも忘れてはいけません。歯ブラシによるブラッシングで隅々まで清掃することが難しく、磨き残しが多くなります。歯垢や歯石が堆積すれば、自ずと虫歯菌や歯周病菌も繁殖して、歯や歯茎に悪影響を与えます。 デメリット3:発音が悪くなる
出っ歯の人は、発音が悪くなる傾向にあります。それは出っ歯による息漏れや舌の運動への悪影響が原因となるからです。とりわけ「サ行」や「ラ行」に発音障害が現れやすいといえます。
デメリット4:食べ物が噛みにくい
出っ歯の症状によっては、そしゃく障害が現れることもあります。上下の前歯が正常に噛み合わないため、麺類などを上手く噛み切れないケースがよく見られます。その結果、奥歯で噛む頻度が高くなることから、出っ歯では大臼歯(だいきゅうし)の寿命が縮まりやすいというデメリットも伴います。大臼歯が欠けたり、摩耗したりするだけでなく、歯根が折れて抜歯を余儀なくされることもあるため、十分な注意が必要です。
デメリット5:消化器への負担が大きくなる
私たちは食べ物を前歯で噛み切り、奥歯ですりつぶした後に飲み込みます。その後は細かくそしゃくされた食塊が食道を経て、胃と腸で消化されるのですが、出っ歯の場合は、前歯で食べ物を噛み切ることが難しいため、そしゃくが不十分な状態で食塊が消化器へと送られていきます。それは自ずと胃や腸への負担を増やすことになるでしょう。消化に時間がかかるだけなら大きな問題にはならないのですが、胃や腸に不調が現れたり、栄養素の吸収が正常に進まないようなことがあったりすると、全身の健康にも大きな悪影響が及ぶため注意が必要といえます。
出っ歯を自分で治す方法
ここまでは、出っ歯のデメリットについて解説してきました。出っ歯は、放置すべきではない歯並び・噛み合わせの異常であることは理解できたかと思いますが、重要なのはそれを改善する方法です。おそらく多くの人はまず出っ歯を自力で治す方法を模索するかと思います。
自宅でできる予防など
出っ歯の原因によっては、自宅で予防する方法もあります。それは歯性上顎前突で、指しゃぶりや口呼吸、舌を前に突き出す癖などが原因となる場合です。そうした悪習慣は、本人と家族が意識することで改善が見込めます。その結果として出っ歯になるのを予防できるのです。乳歯の虫歯も自宅での口腔ケアを徹底することで予防しやすくなります。
自己治療の限界
次に、出っ歯を自力で治療する方法ですが、これは基本的におすすめできません。骨格性上顎前突にしろ、歯性上顎前突にしろ、もうすでに出っ歯になっている状態を素人が自己治療することはほぼ不可能といえるからです。ネットで調べた知識を使って前歯の位置や傾きを自分で治す試みは、非常に危険である行為といわざるを得ません。出っ歯が治らないどころか、かえって歯並びが悪くなったり、歯や顎の骨に深刻な症状が現れたりするため、自己治療は控えるようにしてください。
◎出っ歯を自己治療するリスク
- 歯茎が下がる
- 歯根が吸収する
- 顎の骨に炎症が起こる
- 歯根が折れる
- 歯並びが悪くなる
- 噛み合わせが悪くなる
いつ専門家に相談すべきか
出っ歯の症状を専門家に相談するベストなタイミングは、幼児期から学童期にかけてです。顎の骨の成長がピークを迎える前の段階で専門家に相談しておけば、骨格性上顎前突も自然な方法で治せることが多いからです。このタイミングでは、出っ歯を治すための抜歯も不要となりやすいです。それ以降であれば、何歳になってからでも遅いということはありません。実際、出っ歯を40代や50代で矯正する人はたくさんいます。
ただし、年齢が高くなるほど顎の骨の状態が悪くなったり、インプラントやブリッジなどの装置が増えたりすることから、矯正の難易度が高くなることも間違いではないため、出っ歯の治療を受けたいと思ったタイミングですぐに相談するのが良いでしょう。
出っ歯を治す方法
出っ歯を治す方法としては、矯正治療と外科手術の2つが挙げられます。
矯正治療
小児期の出っ歯の矯正治療では、上顎の骨の成長を抑えたり、下顎の骨の成長を促進したりすることで出っ歯を改善します。また、出っ歯の原因となっている口腔習癖も改善できる場合もあります。大人になってからの矯正治療では、マルチブラケット装置やマウスピース型矯正装置を使って前歯の位置・傾きを整えて、出っ歯を改善します。なお、大人になってから矯正治療を行う場合は、抜歯が必要になる可能性が高いです。
外科手術
比較的重症度の高い骨格性上顎前突の場合は、上顎の顎の骨を切除する外科手術が必要となることもあります。上下の顎のバランスを整えることで、出っ歯の症状も取り除けます。外科手術を行うケースでは、基本的にその前後で歯列矯正が必要となります。なぜなら外科矯正は、歯並びや噛み合わせを細かく調整できないからです。
矯正治療の流れや費用
出っ歯の矯正治療は、次のような流れで進行します。
初診から治療計画まで
まず、歯科や矯正歯科でカウンセリングを受け、その際に出っ歯に関する悩みや症状を歯科医師に伝えましょう。その上で様々な検査を実施し、その後歯科医師が診断を下し、治療計画を立案します。診断結果や治療計画に疑問や不安がある場合は、遠慮せずに質問をするようにしましょう。
治療中の経過観察
矯正装置を使った治療が開始されると、出っ歯の治療ではさまざまな矯正装置を使用することになります。種類が様々あるため、それぞれの矯正装置を正しく取り扱うようにすることが大切です。1〜2ヵ月に1回くらいの頻度で通院しながら、歯の移動や装置の使用状況などを観察していきます。
治療期間と治療中の注意点
出っ歯の矯正治療は、歯を動かすのに1〜3年程度を要します。矯正装置を長い期間、装着することになるため、虫歯や歯周病にならないよう口腔ケアには細心の注意を払ってください。出っ歯の矯正治療を途中でやめてしまうと、必ず後戻りが起こる点にも注意が必要です。
矯正治療の費用
出っ歯の矯正治療にかかる費用は、使用する装置や矯正の種類によって大きく異なります。一般的なワイヤー矯正で出っ歯の矯正をする場合は、80〜100万円程度、マウスピース型矯正を選択した場合は、70〜90万円程度の費用がかかります。外科矯正で出っ歯を治す場合は、手術だけで100万円を超えることも珍しくありません。小児矯正では、30〜60万円程度の費用がかかります。
出っ歯の治療後のケア
出っ歯の矯正治療が完了したら、適切なケアを行うことで正常な歯並びと健康な口内環境を維持することが可能となります。
口腔内の衛生管理
出っ歯の治療が終わり、矯正装置が外れた後も口腔内の衛生管理は徹底するようにしてください。矯正中とは違って歯磨きしやすい環境が確立されてはいるものの、口腔ケアの手を抜いてしまったら虫歯や歯周病を発症してしまいます。長い時間と高いお金をかけて手に入れた美しく、健康的な歯並び・噛み合わせを失わないためにも、セルフケアとプロフェッショナルケアを上手に両立させていきましょう。
定期的なフォローアップ
歯の移動後に行う保定(ほてい)はもちろんのこと、すべての処置が終わった後も定期的に歯科医院を受診することで歯並び・噛み合わせのトラブルを早期に発見、対処できるようになります。口腔は絶えず変化する器官でもあるため、プロフェッショナルによるチェックを定期的に受けておくのが望ましいです。
まとめ
このように、出っ歯は骨格性と歯性の2つに分けられ、治療法も大きく変わります。いずれの出っ歯も放置しているとたくさんのリスクを伴うことから、早期に専門家の意見を聞いておいた方が良いといえます。専門家に相談するタイミングは、幼児期から学童期にかけてがベストといえますが、それ以降でも手遅れということは決してありませんので、出っ歯を治療で改善したいと思い立ったその日に行動に移すことが大切です。
出っ歯の多くは、小児矯正や成人矯正(歯列矯正)で改善できます。重症度の高いケースでも外科手術を併用すれば、出っ歯の原因を根本から取り除くことも可能なのでまずは専門家に相談することをおすすめします。出っ歯を専門家による矯正治療で治すことは、口元のコンプレックスを解消するだけでなく、口腔や全身の健康維持・増進にも寄与することでしょう。
参考文献