歯がキーンとしみる知覚過敏は、健康な人でも生じることがある症状です。刺激としては強いため、不快に感じたり、不安を覚えたりする方もいるでしょう。特に、歯列矯正中や歯列矯正後に知覚過敏が見られるようになったら、その原因が何なのか知りたくなることかと思います。ここではそんな知覚過敏の症状やその原因、歯列矯正との関連性などを詳しく解説します。知覚過敏の対処法まで紹介しますので、冷たいもので歯がしみる症状に悩まされている方は参考にしてみてください。
知覚過敏について
はじめに、知覚過敏の基本事項を確認しておきましょう。
- 知覚過敏の症状を教えてください
- 冷たい飲み物や食べ物、冷たい風などが歯に接触した際にキーンとしみるのが知覚過敏の症状です。正式には象牙質知覚過敏症(ぞうげしつちかくかびんしょう)と呼ばれるもので、特定の条件下で歯がしみるようになります。歯がしみる症状の発生頻度には個人差があり、重症度も症例によって大きく異なるため、すべてのケースで治療が必要なわけではありません。
- 知覚過敏はどのようなときに起きますか?
- 知覚過敏の症状が現れるのは、基本的に冷たい刺激が歯に加わったときです。一般的には、冷やした飲み物や食べ物を口にしたときに歯がしみやすいとされています。また、歯ブラシで磨いたときにも知覚過敏の症状が現れる場合があります。冷たさによる刺激ではなく、歯ブラシによる機械的な刺激であることから、知覚過敏とは少し異なるように思われるかもしれませんが、痛みが生じるメカニズムは同じです。
- 知覚過敏になる原因はなんですか?
- 知覚過敏になる主な原因は、次の5つが挙げられます。
【原因1】歯を磨く力が強い
歯ブラシを使って強い圧で歯磨きをしていると、エナメル質が摩耗したり、歯茎が下がり歯根面が露出します。その結果、外部からの刺激を受けやすくなります。
【原因2】研磨剤入りの歯磨き粉を使っている
研磨剤入りの歯磨き粉は、歯の着色汚れを取る際に有用なのですが、取り扱いを間違えるとエナメル質まで削ってしまうことがあります。エナメル質が薄くなれば、その分だけ象牙質へと刺激が伝わりやすくなり、知覚過敏のリスクが高まります。
【原因3】歯茎が下がっている
歯茎が下がると歯根面が露出します。歯根面はエナメル質が分布しておらず、象牙質がむき出しとなるため、冷たい刺激や機械的な刺激によって痛みが生じやすくなるのです。
【原因4】酸蝕症になっている
酸蝕症(さんしょくしょう)とは、酸性の強い食べ物や飲み物を習慣的に摂取することで、歯質が徐々に溶けていく症状です。細菌感染症ではないため、むし歯のような進行性の病気ではないのですが、エナメル質や象牙質が溶ければ、歯の神経までの距離が近くなり、知覚過敏も起こりやすくなります。
【原因5】歯ぎしりをする習慣がある
成人男性が歯ぎしりをするときの力は、100kg以上に及ぶといわれています。その力が毎日、歯にかかることで歯質に亀裂が入ったり、割れたりしてしまいます。そうした亀裂や破折面から冷たい刺激が伝わると、歯がキーンとしみるようになります。
歯列矯正と知覚過敏の関係
続いて、歯列矯正と知覚過敏の関係について解説します。
- 歯列矯正中に知覚過敏になることはありますか?
- 患者さんの歯並びや治療法によっては、歯列矯正中に知覚過敏になることがあります。それは次の3つの理由からです。
【理由1】歯の露出部分が変化した
歯の傾きや位置を改善する歯列矯正では、治療前と治療後で口腔内に露出している歯の部分にも変化が見られます。治療前はほかの歯や歯茎によって隠れていた部分が、治療後に正しい歯並びになることで、表面に露出することになります。 歯列矯正によって露出した歯面は外からの刺激にも敏感になっているため症状を感じる方もおられます。一般的には、時間の経過とともに改善されるので、歯列矯正後にいつまでたっても知覚過敏の症状を感じる方は、歯科医院への相談が必要でしょう。
【理由2】歯の側面を削った
歯列矯正では、不足しているスペースを確保するために、歯の側面を少しだけ削るストリッピングという処置を施すことがあります。ストリッピングでは、ひとつの歯の側面で0.5mm程度しか削らないことから、切削範囲が象牙質まで達することはないのですが、それでも施術後は外からの刺激を受けやすくなることもあります。そのためストリッピングを検討する際には必ず知覚過敏などのリスクについても正しく理解しておく必要があります。
【理由3】歯に大きな負担がかかった
歯列矯正で歯を動かすときには、とても大きな力がかかります。特にワイヤー矯正では、治療中に歯が痛いと感じることもよくあるでしょう。その影響で、歯の神経が一時的に過敏になってしまい、冷たいものがしみやすくなることもあります。歯列矯正における副作用のようなもので、永続的に続くことは少ないです。
- 歯列矯正の種類によって知覚過敏のなりやすさに違いはありますか?
- ワイヤー矯正とマウスピース型矯正を比較した場合は、前者の方が知覚過敏になりやすいといえます。ワイヤー矯正では強い力で歯を3次元的に動かすため、歯にかかる力が強いだけでなく、歯並びの変化も大きく現れやすいからです。
ワイヤー矯正よりは知覚過敏になりにくいマウスピース型矯正においても、歯を大きく動かすケースはあるため、知覚過敏を完全に回避できるものと考えないほうがいいでしょう。
歯列矯正で知覚過敏になったときの対処法
歯列矯正が原因で知覚過敏になった場合の対処法を紹介します。
- 知覚過敏になった場合、クリニックで受けられる治療法を教えてください
- 歯列矯正の影響で歯根面が露出し、知覚過敏の症状が現れるようになったケースでは、専用の薬剤を塗布して象牙質を刺激から守る治療が行われます。
歯質が大きく損傷しているケースでは、コンポジットレジンを用いて修復することもあります。知覚過敏の重症例においては、歯の神経を抜く抜髄が必要となることもあるでしょう。抜髄は知覚過敏の症状が強く、長期間の場合に検討されます。症状の強さに合わせた治療が行われます。
- 自宅のセルフケアでできる対処法はありますか
- 歯列矯正で知覚過敏の症状が現れた場合は、まず知覚過敏用の歯磨き粉を使いましょう。具体的には、硝酸カリウムという成分が配合されている歯磨き粉で、薬局やドラッグで購入することができます。硝酸カリウムには、外からの刺激が象牙質に伝わりにくくなる作用が期待できます。
- 歯磨きをするときの注意点を教えてください
- 知覚過敏の症状がある歯は、硬い歯ブラシでゴシゴシと強圧で磨くのではなく、やわらかめの歯ブラシで優しく歯磨きをするとよいです。知覚過敏は、冷たい刺激だけではなく、歯磨きによる機械的な刺激によっても痛みが誘発されてしまいます。研磨剤入りの歯磨き粉は使用しないのもポイントです。
歯磨き粉は、知覚過敏用の製品や高濃度のフッ素が配合された製品を選ぶとよいでしょう。フッ素が歯面に作用すると、歯を強くすることになるため、知覚過敏の症状を抑えることにもつながります。
編集部まとめ
今回は、歯列矯正をすると知覚過敏になる原因と対処法について解説しました。知覚過敏は冷たい飲み物や食べ物を口にしたときに歯がキーンとしみる症状で、エナメル質の摩耗や亀裂が原因となりやすいです。歯列矯正では歯が動き、治療前は歯茎に覆われていた部分などが露出することで外からの刺激を受けやすくなることが知覚過敏の主な原因となっています。歯列矯正によって露出した象牙質は、歯科医院での治療で守る、あるいは強くすることができますので、まずは歯科医師に相談しましょう。軽度の知覚過敏であれば、適切なセルフケアを心がけることで、症状の改善が見込める場合もあります。
参考文献