大人が受ける歯列矯正は、基本的に何歳からでも始められます。適切なタイミングを逃すと治療効果が得られなくなるということはないため、思い立った時に始めても問題ありません。今回のテーマである床矯正は、適切なタイミングを逃すと十分な効果が得られなくなったり、場合によっては治療が失敗してしまったりするため十分な注意が必要です。ここではそんな床矯正で失敗するケースや失敗しないためのポイントについて詳しく解説をします。
床矯正について
- 床矯正を行う目的はなんですか?
- 床矯正を行う主な目的は、十分なスペースを確保することです。歯列の幅や長さ、大きさなどが標準よりも小さいと、全部で28本(親知らずを除く)生えてくる永久歯をきれいに並べることが難しくなります。そうしたスペースの不足は、床矯正装置を用いることで効率よく改善できます。
- 床矯正とはどんな治療法ですか?
- 床矯正とは、「床」部分が存在する矯正装置を用いる治療法です。歯科用プラスチックであるレジンで作られた床と金属製のワイヤーやネジなどが付随した装置を使い、歯列の幅や長さを拡大します。見た目は、歯列矯正で歯を動かした後に装着するリテーナーに近いです。ほとんどのケースでは、可撤式(はめ外し式)の装置を使います。・1日14時間以上の装着が望ましい
一般的なマウスピース型矯正装置は、1日20~22時間程度の装着が義務付けられていますが、床矯正の場合はもう少し負担が少なくなります。床矯正装置を1日14時間以上、装着していれば適切な治療効果が得られます。つまり、小さなお子さんの場合、学校に行っている間は装置を外しておけるのです。矯正中であっても普段通りの学校生活を送れるため、お子さんの心身にかかる負担は最小限に抑えられます。
- 床矯正を行う適切なタイミングは何歳からですか?
- 床矯正は、一般的に4歳~12歳の子どもが対象となる治療法です。4歳というと、まだ完全な乳歯列期であるため、矯正を始めるには早すぎるのでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、床矯正においても4歳から始めるケースはそれほど多くはなく、永久歯が生え始めてからスタートすることの方が一般的といえるでしょう。ただ、床矯正の主な目的は歯列や顎の拡大なので、必ずしも永久歯が生えている必要はありません。12歳以降になると永久歯列が完成し、顎の骨の発育も終わりに近づくことから、床矯正によって得られる効果も弱くなっていきます。それでも歯を傾けることで歯列の拡大を実現できるため、大人になってからでも床矯正を適応できるケースはあります。
ただし、床矯正だけでは緊密な噛み合わせを確立した正常咬合に改善することは難しいため、1期治療の小児矯正で床矯正を行った場合でも、矯正治療の目的である完全な正常咬合を確立するためには、2期治療としてマルチブラケット治療またはインビザライン治療が必要になります。1期治療で床矯正による治療を行っただけでは、正常咬合を確立することができない点には注意が必要です。
- 床矯正の適応症例について教えてください。
- 床矯正は、歯列が狭くなっていたり、奥行きが不足していたりする場合に適応されます。ひと言で床矯正といってもさまざまな種類があって、適応症もそれぞれ異なります。シンプルに表現すると、床矯正装置は列や顎を前方・側方・後方に広げることができます。ですから、それぞれのケースに合った装置を選択することが大切なのです。
- 床矯正が必要な理由はなんですか?
- 床矯正には、次に挙げるような効果が期待できます。いずれも放置することで深刻なリスクを伴う症状であるため、床矯正で改善した方が望ましいです。
- 前歯の出っ歯や受け口の改善
- 歯並びの改善
- 噛み合わせの改善
- 発音や咀嚼の改善
- 床矯正のメリットはなんですか?
- 床矯正を行うと、次に挙げるような3つのメリットが得られます。・歯並びが改善する事で自信につながる
床矯正で歯列や顎が拡大されると、歯並びがきれいになります。その結果、口元に自信が持てるようになり、コンプレックスからも解放されます。・咬合が改善され、噛み合わせや発音が改善される
床矯正は、歯並びを細かく整えるよりも、上下の噛み合わせである咬合(こうごう)の改善に大きく寄与します。悪い噛み合わせが正常化されると、そしゃく能率が上がり、硬い食べ物や弾力性の強い食べ物も不自由なく噛めるようになります。その結果、一部の歯や顎関節に大きな負担がかかることもなくなるでしょう。歯並び・噛み合わせの状態によっては、床矯正によって発音が改善される場合もあります。・むし歯や歯周病のリスクが減少する
床矯正によって歯並びが良くなると、歯磨きがしやすくなります。歯ブラシを歯列の隅々まで行き届かせやすくなるのです。そうすることで歯垢や歯石の堆積を予防でき、むし歯・歯周病リスクも減少していきます。
床矯正で失敗するケースとは
- 床矯正で失敗するケースについて教えてください。
- 面長で出っ歯のケースは、床矯正で失敗しやすいです。このケースに床矯正を適応させると、治療後に前歯で噛めなくなることが多いからです。仮に歯列を拡大できたとしても、前歯で噛めなくなってしまったら元も子もありません。ですから、面長で出っ歯のケースは、床矯正ではない方法で治療した方が良いといえます。もちろん、そうしたケースでも床矯正できれいに治せる場合もありますので、まずはいろいろな矯正法に対応している歯科医院に相談しましょう。
- 急速拡大装置とはどういうものですか?
- 急速拡大装置(きゅうそくかくだいそうち)とは、固定式の矯正装置です。その名の通り歯列と顎の骨を急速に拡大することが可能です。歯と顎に対して比較的強い力がかかることから、それなりの痛みも伴います。その反面、物理的に顎の骨の幅を広げることができるというメリットが得られます。何らかの理由で発育が遅れていて、短期間で顎の骨の幅を広げたい場合に有効な装置です。
床矯正を失敗しないための治療期間と費用について
- 床矯正の治療手順はなんですか
- 床矯正による治療は、以下のような流れで進行します。
- カウンセリング
- 検査、診断
- 治療計画の説明
- 装置の製作
- 装置の装着
装置は、患者さん自身で装着します。装置の種類によっては調整用のネジを定期的に回す必要があります。また、治療期間中は1~3ヵ月に1回くらいの頻度で通院することになります。
- 床矯正の治療期間はどれくらいですか?
- 床矯正の治療は、一般的に1~3年程度かかります。治療に要する期間はケースによって変わるため、具体的な年月は精密検査を行ってみなければわかりません。ですから、1~3年間というのはあくまで目安程度にお考えください。
- 床矯正の費用はどれくらいですか?
- 床矯正にかかる費用は、20万~40万円程度が全国的な相場です。歯並びの症状が軽ければ費用も安くなり、症状が重たければ費用は高くなります。また、床矯正の費用は歯科医院によっても異なります。
- 床矯正は保険適用されますか?
- 床矯正による治療には、原則として保険が適用されません。治療にかかった費用は全額自己負担となることから、一般的な歯科治療と比べると出費が多くなります。ですから、経済的に余裕がない場合は、床矯正にかかった費用を分割で支払うと良いでしょう。歯科治療に特化したデンタルローンなら低金利で分割払いが可能となります。・医療費控除も利用しましょう
床矯正にかかった費用は、医療費控除の対象となります。1年間に支払った医療費の総額が10万円を超えた場合に利用できる制度で、費用相場が20万~40万円の床矯正では、単独で条件を満たせることでしょう。医療費控除を利用すれば、総額で数万円の税金が還付されます。その他にもたくさんの医療費がかかった年であれば、数十万円の還付が受けられることもあります。ですから、床矯正を受けた場合は忘れずに医療費控除を申請するようにしましょう。ちなみに、床矯正で医療費控除の対象となるのは、装置の費用だけではありません。検査料、診療料、通院費、治療中に使用した薬の費用なども申請できます。通院にかかった費用に関しては、公共交通機関を利用した場合に限られます。自家用車で通院した場合のガソリン代は、医療費控除に申請できませんのでその点はご注意ください。
編集部まとめ
今回は、床矯正で失敗するケースや行うべきタイミング、失敗しないためのポイントについて解説しました。本文でも述べたように、面長で出っ歯のケースは、床矯正で失敗しやすいため十分な注意が必要です。また、床矯正の効果を最大限まで引き出すためには、4~12歳くらいまでに行うのが良いといえます。
その他、床矯正にかかる費用や治療期間、治療手順などを正しく理解しておくことで、後悔や失敗のリスクが低減できます。本文でご紹介した以外にも疑問や不安に感じる点がある場合は、歯科医院でのカウンセリングできちんと解消しておくことが大切です。
参考文献