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抜歯矯正とは?抜歯が必要な症例からメリット・デメリットまで解説

抜歯矯正とは?抜歯が必要な症例からメリット・デメリットまで解説

歯の矯正は歯科の中でも特殊な治療であるため、不安に感じる点も多いことでしょう。その中でも特に抜歯を伴う矯正治療となると、なおさらです。そもそもなぜ矯正で抜歯が必要なのか。抜歯をすることでどのようなメリットやデメリットを伴うのか。この記事ではそんな抜歯矯正について詳しく解説します。

抜歯矯正とは

抜歯矯正とは 歯並びの治療は、歯を抜くか否かという観点で「抜歯矯正」と「非抜歯矯正」の2つに分けることができます。非抜歯矯正は歯を抜かずに歯並びを整える治療なのでイメージもしやすいでしょう。しかし、歯を抜く抜歯矯正となると、実際にどんな治療手順となっていくのかなど、不明な点が出てくるものです。そこでまずは抜歯矯正の基本事項から説明していきます。

抜歯を必要とする矯正治療

抜歯矯正とは、文字通り歯を抜く必要がある矯正治療です。本来、抜歯というのは虫歯や歯周病などが重症化しない限り行わないものですが、歯並びをきれいに整える際にも必要となることがあります。専門的には便宜抜歯(べんぎばっし)と呼ばれるもので、病気だからではなく、歯並びをきれいに整える上で便宜上、抜かなければならなくなるケースに適応されます。

◎矯正治療の抜歯の費用について
矯正治療に伴う抜歯は、原則として自由診療となります。つまり、保険が適用されないことから、抜歯にかかった費用は全額自己負担となる点に注意しなければなりません。便宜抜歯にかかる費用は、対象となる歯の種類や状態によっても変わりますが、一般的には1本あたり5000~10000円程度かかります。全部で4本の歯を便宜抜歯した場合は、20000~40000円程度かかることから、経済的負担もそれなりに大きくなるといえるでしょう。

抜歯矯正で抜歯される歯は?

標準的な抜歯矯正では、2~4本の歯を抜くことが一般的です。抜歯の対象となるのは小臼歯(しょうきゅうし)という前から4・5番目の歯。前歯のスペースが不足している場合は4番目の第一小臼歯を抜いて、奥歯のスペースが不足している場合は5番目の第二小臼歯を抜くことが多いです。虫歯や歯周病にかかっていなくても、矯正のためにこういった健康な歯を抜歯することに、抵抗を感じる方も多いのでしょう。

◎親知らずは抜歯しないの?
歯列矯正では、親知らずを抜歯することも珍しくありません。親知らずは歯列の一番奥に生えている、あるいは埋まっている永久歯で、全体の歯並びを悪くする原因になっていることがあります。また、歯並びをきれいにする過程で、親知らずが邪魔となる場合もあるため、事前に抜いてしまうことも珍しくありません。親知らずは生え方、埋まり方が正常ではないことが多いため、一般の矯正歯科ではなく、大きな病院の口腔外科での抜歯が必要となるケースが多いです。

抜歯矯正が必要な症例とは

抜歯矯正が必要な症例とは 歯列矯正で抜歯が必要となる症例は、次のような状態が見られる場合です。

顎が小さく歯が並びきらない

矯正で便宜抜歯が必要となる主な理由は、スペース不足です。顎の骨が小さいことでスペースが不足し、歯が並びきらない症例では、多くのケースで抜歯矯正となります。子供の頃に受ける小児矯正なら、成長する力を利用して顎の骨を拡大することができるのですが、大人になってからの歯列矯正では、それが困難となります。そこで半ば強引ではありますが、複数本の歯を抜いて足りないぶんのスペースを人為的に作り出すのです。

上下の噛み合わせが悪い

上下の噛み合わせが悪い場合も抜歯矯正となりやすいです。例えば、上の顎よりも下の顎の方が後ろに位置していると、必然的に噛み合わせが悪くなります。こうした噛み合わせの異常も小児期であれば抜歯をせずに治せることもあるのですが、大人になってからの歯列矯正ではほぼ不可能です。そこで小臼歯などを抜いて上下の噛み合わせを調整します。ただし、噛み合わせのズレが極めて大きい症例では、抜歯矯正単独では改善できないため、外科矯正を併用することになります。外科矯正とは、顎の骨を外科的に削ったり、場合によっては延ばしたりする方法です。

上下の前歯が出ている

上下の前歯が出ている歯並びを上下顎前突(じょうげがくぜんとつ)といいます。最近では「口ゴボ」と表現される歯並びで、口元の突出感が特徴です。そんな上下顎前突も抜歯矯正でなければ改善できないことが多いです。ちなみに、上の前歯だけ出ているケースを上顎前突(じょうがくぜんとつ)、下の前歯だけ出ているケースを下顎前突(かがくぜんとつ)といいますが、これらも症状によっては抜歯が必要となりやすいケースといえます。いずれのケースも小臼歯などを抜いて、前歯を後方に下げなければなりません

抜歯矯正のメリット

抜歯矯正のメリット 悪い歯並びは治したいけれど、抜歯はしたくない。そう感じる人は少なくないでしょう。永久歯は一生涯使い続ける歯であるため、矯正のために失いたくないという気持ちもよく理解できます。ただ、抜歯矯正が適応されるのは、抜かずに矯正するよりもメリットが大きいからです。その点も踏まえると、抜歯矯正への抵抗も少なくなることでしょう。抜歯矯正には具体的に、以下のようなメリットを伴います。

さまざまな症例に対応できる

矯正治療で抜歯をするかしないかでは、適応できる症例の幅に大きな違いが出てきます。症例によっては、抜歯なしではそもそも歯並びの治療が行えないことさえあるのです。また、抜歯をすることで最終的な仕上がりに良い影響が及びやすくなることも間違いありません。もちろん、抜歯が不要な症例においては、非抜歯で矯正をした方が仕上がりも良くなります。つまり、歯列矯正において抜歯がメリットになるかデメリットになるかは、歯並び・噛み合わせの状態で変わってくるのです。

治療計画が立てやすい

顎の骨が小さくてスペースが不足していたり、上下の前歯が大きく出ていたりするケースでは、便宜抜歯という選択肢がある時点で治療計画を立てやすくなります。抜歯をしてスペースを作り出すことができるので、歯列全体を無理に移動する必要性も低下するからです。治療計画が立てやすいということは、矯正で失敗するリスクも大幅に減少することを意味します。

抜歯矯正のデメリット

抜歯矯正のデメリット とはいえ、抜歯矯正に伴うのはメリットだけではありません。小臼歯などを便宜的に抜くことで、以下のようなデメリットが生じます。

治療期間が長くなってしまう

矯正のために歯を抜くことは、一見すると治療のスピードを速めるように感じます。余計な処置がいらなくなるイメージが強いため、治療期間も短くなると考える方もいらっしゃることでしょう。けれども実際は、その逆です。非抜歯矯正よりも抜歯矯正の方が長くなる傾向にあるのです。例えば、抜歯をせずに歯並びを治す場合は、歯を動かせる距離が限られてきます。その分、仕上がりも悪くなるのですが、治療期間は短くて済みます。

一方、抜歯矯正はスペースが生じた分、歯を動かす距離が多くなることから、治療期間も長くなります。その結果、より良い仕上がりが期待できるとともに、後戻りも起こりにくくなるでしょう。ですから、抜歯矯正で治療期間が長くなること自体はデメリットなのですが、最終的な仕上がりには良い影響が及ぶため、患者さんによってはメリットと捉える方もいらっしゃいます。

抜歯の費用が掛かる

抜歯矯正の直接的なデメリットは、費用が余計にかかる点です。上でも述べたように、矯正治療に伴う抜歯には保険が適用されません。全額自己負担となるため、歯を抜く本数が多いとそれなりの出費を余儀なくされます。ちなみに、自費診療における抜歯の費用は、1本あたり5000~10000円です。小臼歯だけでなく親知らずも抜くとなると、かなりの金額になります。

◎健康な歯を失うデメリットは?
ここでは抜歯矯正のデメリットとして、治療期間が長くなる点と出費が多くなる点を挙げましたが、もうひとつ気になる点があるかと思います。それは便宜抜歯によって健康な歯を失うリスク・デメリットです。繰り返しになりますが、便宜抜歯の対象となるのは、至って健康な永久歯です。

厚生労働省と歯科医師会が推進している8020運動でもうたっているように、好きなものを自由に食べるには、永久歯は1本でも多く残すことが重要となります。それにもかかわらず矯正のために健康な永久歯を2本、場合によっては4本も失って大丈夫なのでしょうか。仮に20代で抜歯矯正を受けたら、その時点で残存歯数が24本まで減少してしまいます。それからの約60年は最悪でも4本までしか歯を失えなくなるのです。

けれども、抜歯矯正によって理想的な歯並び・噛み合わせを手に入れることで、歯を失うリスクが大きく減らせるのも事実です。上下の歯が正常な位置で噛み合うことで不必要な摩耗が減り、歯や顎の骨、顎関節にかかる負担も減少します。

しかも、便宜抜歯の対象となる小臼歯は、審美面と機能面において、あまり重要な役割を果たしていません。例えば、中切歯(ちゅうせっし)や側切歯(そくせっし)、犬歯(けんし)といった前歯を抜歯してしまうと、審美面に大きな悪影響が及ぶことから、便宜抜歯の対象となることはまずありません。前から6・7番目の大臼歯は、抜歯をしても審美面に影響を与えないものの、機能面に深刻な悪影響をもたらします。歯がもつ本来の機能であるそしゃくが障害されるため、こちらも便宜抜歯の対象とはならないのです。

そうした観点からも歯列矯正で健康な小臼歯を2~4本抜いたとしても、患者さんが被るデメリットを最小限に抑えられるといえます。実際、便宜抜歯で小臼歯を失ったことで、深刻なデメリットを被ったケースは皆無に等しいといえるでしょう。

抜歯以外の歯のスペースを空ける方法は?

抜歯以外の歯のスペースを空ける方法は? このように、歯の矯正における便宜抜歯にはメリットとデメリットの両方を伴います。その2つを天秤にかけて、メリットの方が大きいと判断した場合のみ抜歯が適応されるのです。それでもやはり健康な歯を抜きたくないという場合は、抜歯以外の方法で不足しているスペースを補う必要が出てきます。具体的には、次に挙げる方法で対処することになります。

歯を後ろに動かす

歯をきれいに並べるためのスペースが絶対的に不足していて、抜歯という選択肢がとれない場合は、歯列全体を後ろに動かすことで対処します。出っ歯や受け口の場合は、前歯だけ後ろに動かせば良さそうなものですが、スペースが絶対的に不足していることを忘れてはいけません。そうした歯並びで前歯を後ろに動かすということは、奥歯の後方移動も必須となるのです。そして、奥歯の後方移動は矯正治療において極めて難しい処置であることも理解しておく必要があります。

歯を少し削る

何らかの理由で歯を後ろに動かすことができない場合は、歯を少し削る「ディスキング」という方法を選択することもあります。ディスキングとは、ヤスリのような器具で複数の歯の側面を少しずつ削り、不足しているスペースを作り出す処置法です。IPR(アイピーアール)やストリッピングと呼ばれることもあります。

ディスキングで削る量は極わずかで、必ずエナメル質の範囲内にとどめることから、施術後に歯の寿命が短くなることはまずありません。ディスキングで削った歯が虫歯になりやすくなることもまずないでしょう。ただ、削る量が少ないということは、作り出せるスペースもそれほど多くないことを意味するため、スペースの不足が大きい症例で行ってもあまり意味がありません。

顎を拡大する

顎の骨や歯列の幅を拡大することでも、足りないスペースを補うことはできます。顎骨の拡大は主に小児矯正で行うもので、成長する力を利用しなければなりません。しかし、歯列の幅の拡大は、大人になってからでもある程度は可能です。特別な装置を使って、歯列の横幅を少しずつ拡大していきます。その結果、抜歯をせずに歯並びをきれいにすることも可能となります。ただ、顎や歯列を拡大できる幅にも限りがあるため、この方法も決して万能ではないのです。

不適切な非抜歯矯正はデメリットも

こうした方法を用いることで、矯正治療における抜歯を回避することが可能です。スペースの不足が軽度の場合は、上記の方法を適応した方が仕上がりも良くなることでしょう。一方、スペースの不足が中等度から重度の場合に非抜歯矯正を適応すると、Eラインが崩れて口ゴボになったり、後戻りしやすくなったりするなどのデメリットが生じるため、注意が必要です。

繰り返しになりますが、無理に抜歯を回避すると悪い影響の方が大きくなってしまうのです。この考え方は、子供が受ける小児矯正と大人が受ける成人矯正とでは少し異なる点があります。本文でご紹介した内容は、基本的に成人矯正を前提としている点にもご注意ください。

まとめ

まとめ 矯正治療は、歯並びや顎の骨の状態によって抜歯をするか否かが決まります。それは歯並びの治療を適切に行う上での判断となるため、患者さんの希望とは食い違うことも多々あるでしょう。しかし、無理して非抜歯矯正を選択すると、結果としてデメリットの方が大きくなる恐れがあることもしっかり理解しておくべきです。歯科医師が抜歯を伴う矯正治療を提案する時は、基本的に患者さんが得られるメリットが最大化される場合のみです。その点も踏まえた上で、抜歯矯正と非抜歯矯正について考え、選択しましょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
坂本 輝雄医師(東京歯科大学 千葉歯科医療センター 矯正歯科 臨床准教授)

坂本 輝雄医師(東京歯科大学 千葉歯科医療センター 矯正歯科 臨床准教授)

東京歯科大学卒業 東京歯科大学大学院歯学研究科(歯科矯正学専攻)修了 東京歯科大学歯科矯正学講座助手 慶応義塾大学医学部形成外科学教室非常勤講師 米国オクラホマ大学歯科矯正学講座 Visiting Assistant Professor 東京歯科大学歯科矯正学講座講師 東京歯科大学退職 東京歯科大学千葉歯科医療センター矯正歯科 臨床准教授

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坂本 輝雄医師(東京歯科大学 千葉歯科医療センター 矯正歯科 臨床准教授)

東京歯科大学卒業 東京歯科大学大学院歯学研究科(歯科矯正学専攻)修了 東京歯科大学歯科矯正学講座助手 慶応義塾大学医学部形成外科学教室非常勤講師 米国オクラホマ大学歯科矯正学講座 Visiting Assistant Professor 東京歯科大学歯科矯正学講座講師 東京歯科大学退職 東京歯科大学千葉歯科医療センター矯正歯科 臨床准教授

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