中学生で歯列矯正を行うのは遅いのかと、疑問に思う人はいませんか。早く歯列矯正を行うことに越したことはありませんが、個々で適切な時期は異なります。
また、永久歯が生え揃っていることもあり、中学生でのタイミングがよい場合もあります。
中学生もまだ成長過程なので、中学生で歯列矯正をスタートしても問題はありません。
本記事では、中学生で歯列矯正を行うメリット、気になる治療費用や期間などを解説しますので、参考にしてみてください。
中学生で歯列矯正を行うメリット
中学生で歯列矯正を行うメリットは、下記のとおりです。
- 歯を移動させやすい
- 早い段階からきれいな歯並びになる
- 抜歯する可能性が低い
- むし歯のリスクを軽減できる
遅いかなと思う人もいるかもしれませんが、中学生も歯列矯正に適した時期です。ここらは、それぞれのメリットを詳しく解説します。
歯を移動させやすい
中学生は成長過程なので、小学生同様に歯を移動させやすいです。
矯正装置を使って弱い力を歯にかけることで、歯の周りにある歯根膜が伸び縮みします。歯根膜は一定の厚さを保とうとしようとするため、伸びた方は元の厚さになろうと骨を作る細胞が活発し、縮んだ方は元の厚さに戻そうと骨を溶かす細胞が活性化します。
この性質を利用して、歯を移動させ歯をきれいに並べていくのが歯列矯正の仕組みです。
中学生は古いものから新しいものへと入れ替わる新陳代謝も活発なので、歯の歯周組織も活発に働き、スムーズに歯を移動させられます。
早い段階からきれいな歯並びになる
成長過程の中学生であるため、早い段階からきれいな歯並びになりやすいです。
同じ歯列矯正の方法で行う大人と比べると、中学生は歯が移動するスピードが速いです。そのため、早い段階できれいに歯が並びやすいでしょう。
抜歯する可能性が低い
中学生で歯列矯正を行う場合、小学生時に歯列矯正を行う場合同様に抜歯をする可能性は低いといえるでしょう。
中学生は成長過程であり、新陳代謝も活発です。顎の骨も成長途中ですので、歯を移動させればその分のスペースも確保しやすいです。
抜歯をせず、歯列矯正を行うことができればと思う人も少なくないでしょう。
歯並びが悪い原因はさまざまですが、多くの場合は歯がきれいに並べられるためのスペースが不足していることです。中学生の歯は永久歯ではあるものの、大人のように顎の骨の成長は止まってはいないため、歯列矯正を行うことで抜歯や後戻りなどのリスクを減らせるでしょう。
抜歯の可能性があるかどうかは、頭部のX線写真などの詳細な検査にて決定されます。
むし歯のリスクを軽減できる
歯列矯正を必要とする歯並びの多くは、むし歯のリスクを高めやすいです。歯がねじれたり重なったりする部分は歯ブラシが届きにくく、汚れが溜まりむし歯菌の温床になりやすいでしょう。
むし歯になれば治療も必要なうえ、同時に歯周病のリスクも上げてしまいやすいです。
歯列矯正を行うことで歯がきれいに並べば、歯ブラシが当たりやすい状態となり、むし歯のリスクを軽減できます。
また、汚れが溜まると口臭の原因にもなります。中学生は思春期でもあるため、容姿を気にするお子さんも少なくありません。歯列矯正できれいに歯が並べば、汚れも溜まりにくく口臭も予防できるでしょう。
中学生の歯列矯正の種類
中学生で行う歯列矯正のは下記のとおりです。
- 表側矯正
- 裏側矯正(舌側矯正)
- ハーフリンガル矯正
- マウスピース型矯正
装置によっては歯列矯正が目立つものもあります。ここからは、装置の特徴やメリット・デメリットなどを解説します。
表側矯正
表側矯正とは、歯の表側にブラケットと呼ばれる装置をつけ、ワイヤーを通して少しずつ歯を動かしてきれいに並べる歯列矯正のひとつです。
歯列矯正のなかではメジャーな方法であり、幅広い不正咬合に対し治療を行えます。ただし、骨代謝異常が認められる疾患の場合は歯列矯正自体行えません。
このほかに、表側矯正は歯列矯正の歴史が長く、歯科医師の経験も豊富である点・装置が固定されているので取り外しがなく管理がしやすいといえます。
一方、装置を表側につけるので素材によって目立ちやすいです。また、金属アレルギーがある人は治療が難しいこともあります。装置をつけっぱなしにするため、磨き残しがでやすくむし歯のリスクが上がることもあるでしょう。
今まではメタル素材など金属が主流でしたが、最近は目立ちにくく、アレルギーが出にくい素材のものも増えてきました。カウンセリング時にどのような素材があるのか、歯科医院に相談してみてはいかがでしょうか。
裏側矯正(舌側矯正)
裏側矯正(舌側矯正)は、歯の裏側(舌側)にブラケット装置をつけ、ワイヤーを通して少しずつ歯を動かす歯列矯正です。
目立ちにくいので、見た目を気にし始める中学生にはぴったりの歯列矯正のひとつといえます。
歯の裏側(舌側)につけるので、装置が舌に当たり違和感や発音に影響を与えてしまうのではと考える人もいるでしょう。装置も改善され、小さくなっています。そのため、違和感も少なく発音への影響も少なくなるでしょう。
また、裏側矯正(舌側矯正)はエナメル質を削ってブラケットをつけないので、むし歯のリスクが軽減されます。
しかし、装置を歯の裏側(舌側)につけるため、表側矯正と比べると経験や専門的な知識などが必要となる高度な歯列矯正です。そのため、費用も高額になりやすい傾向にあります。
ハーフリンガル矯正
ハーフリンガル矯正とは、表側矯正と裏側矯正(舌側矯正)を組み合わせた歯列矯正です。上の歯は裏側矯正(舌側矯正)で行い、下の歯は表側矯正で行います。
ハーフリンガル矯正も、裏側矯正(舌側矯正)同様に目立ちにくいです。会話をしているときや笑ったときなど、下の歯と比べると上の歯は他人の目に入りやすいです。
上の歯のみ裏側矯正(舌側矯正)することで、装置が他人の目に入りにくくなるでしょう。
費用面でもメリットがあります。目立ちにくい裏側矯正(舌側矯正)を上下ともにする場合と比べたら、費用は多少抑えられるでしょう。
しかし、噛み合わせや歯の状態などによってはハーフリンガル矯正を行えない場合もあります。
マウスピース型矯正
透明の素材でできたマウスピース型装置を、歯にはめて歯を少しずつ動かす歯列矯正です。目立ちにくく、金属アレルギーの人でも歯列矯正が行えます。
マウスピース型矯正は段階ごとにマウスピースを交換するため、取り外しが可能です。口腔内の衛生管理もしやすく、むし歯のリスクも軽減できます。
ただし、ブラケット装置による歯列矯正と比べると歯を移動させる力は弱いため、1日20時間以上と長時間装着しなければなりません。効果を得るためにも装着時間を徹底する必要があるでしょう。
根気のいる歯列矯正ではありますが、違和感や痛みは少ないでしょう。
マウスピース型装置にもさまざまありますが、マウスピース型矯正自体まだ安全性や有効性が明らかになってはいません。そのため、予期せぬ経過をたどる可能性もあります。
また、歯列矯正の経験が不足している歯科医師による治療も増えていることから、トラブルが発生しているケースもあります。
マウスピース型矯正を行う場合は、ブラケット装置による歯列矯正の経験のある歯科医師で治療を行いましょう。
なお、マウスピース型矯正のなかで、唯一インビザライン(※)はブラケット装置による歯列矯正同等の治療のゴールを求められます。
(※)未承認医薬品等であるため医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。
中学生の歯列矯正の治療費用
歯列矯正の治療費用は種類に関係なくどれも高額です。ただし、治療を行う歯科医院や治療を行う装置の種類などで若干費用は異なります。下記にて、各歯列矯正の相場を挙げていますので、参考にしてみてください。
- 表側矯正:60万〜150万円(税込)
- 裏側矯正(舌側矯正):110万〜180万円(税込)
- ハーフリンガル矯正:100万〜130万円(税込)
- マウスピース型矯正:80万〜110万円(税込)
歯の状態によっては別途治療を行うケースもあります。その場合、費用がかさんでしまう場合もあるでしょう。
中学生の歯列矯正の治療期間
中学生は大人と比べると治療期間は短い傾向にあり、2年程かかります。
歯を動かす治療が終わると、移動させた歯がもとに戻らないために保定期間が設けられ、1年程は歯科医院に通う必要があります。
歯がきれいに並べば終わりではありません。歯を保定しなければ後戻りし、再治療を行う必要があるでしょう。その分、治療期間も伸びます。
歯列矯正を中学生のときに行う場合の注意点
見た目だけなく、全身の健康をもよくしてくれる歯列矯正ですが、行ううえで把握しておきたいことや注意点もあります。
痛みで勉強や部活動に影響を与えないのか、装置をつけることで起こる弊害はないのかなど、不安に思う部分もあるでしょう。
ここからは、中学生が歯列矯正を行うときの注意点を解説します。
矯正装置に慣れるまで痛み・違和感が生じるリスク
歯に力を加えて移動させるので、痛みや違和感が生じます。痛みの度合いは個人によって異なりますが、上下の歯が噛み合わさったときに鈍痛を覚える程度です。
なかには、痛みに弱い人もいるでしょう。無理をしてもよいことはないので、その場合は痛み止めを服用してください。痛み止めは病院で処方された薬や市販薬、どちらでも構いません。
歯列矯正中の痛みは飛び上がる程ではないものの、食事をしたときに痛みが強く出る場合があります。慣れるまではやわらかい食べ物を中心に摂るようにするとよいでしょう。
常に歯に力を加え続けているので、歯が浮いたような感覚が続くため違和感を覚えます。特に、矯正装置をつけたりはめたりした直後は強い違和感を覚えるでしょう。
しかし、痛みも違和感も治療中ずっと続くわけではありません。徐々に慣れていきますので、そこまで心配する必要はありません。
部活動に影響を与えるおそれ
歯列矯正中に部活動を行うことは何ら問題はありません。しかし部活動によっては、歯列矯正を行う装置が影響を与えるおそれもあります。
- 人と接触することが多いスポーツ
- 口元にボールなどが当たる可能性のあるスポーツ
- 楽器を演奏する部活動
上記で挙げた運動系の部活動は、表側矯正では口の中を怪我するおそれがあるでしょう。同じブラケット装置を使った裏側矯正(舌側矯正)やマウスピース型矯正であれば、口の中を怪我するリスクも減らせます。
文化系の部活動の場合は、楽器を演奏する吹奏楽やマーチングバンドなどは歯列矯正の影響を受けやすいでしょう。
口を使って演奏するため、装置が当たりうまく音が出なかったり吹けなかったりすることがあります。
どのようにしたらよいのかは、歯列矯正をお願いする歯科医師とよく相談しましょう。
引っ越しで転医が必要になる可能性
保定期間までしっかり治療を行えることが望ましいですが、進学や転勤などで治療途中で引っ越しする可能性もあるでしょう。
歯科医院によって治療方針は異なります。たとえ、同じ矯正装置を使っての歯列矯正であったとしても、転医先でも継続して治療を行ってもらうことは難しいでしょう。
転勤が確実である、もしくは進学で引っ越すことが決まっている場合は、引っ越し後に治療を行うのもひとつです。
特に転勤が多い家庭の人は、転勤の可能性があるのか・もし転勤になった場合の家族の動き方などを事前に確認し合っておくとよいでしょう。
中学生の歯列矯正には保険が適用される?
歯列矯正=高額であると認識されていることがほとんどですが、歯並びの状態や症状によっては保険適用や医療費控除となるケースもあります。
原則年齢に関係なく保険適用外
歯列矯正は年齢に関係なく保険適用外です。そのため、中学生だから保険適用になるわけではありません。
また、中学生だからという理由で、同じ治療を行う大人の歯列矯正より費用を抑えられるわけでもありません。残念ながら、中学生で歯列矯正を行っても大人になって歯列矯正を行っても費用は同じです。
保険適用・医療費控除になるケース
歯列矯正が保険適用になるケースは、下記の条件のいずれかに該当した場合です。
- 厚生労働大臣が定める疾患(61種類)に該当する
- 前歯の永久歯が3本以上生えてこない
- 顎離断などの手術を必要とする顎関節症
これらは見た目の改善ではなく、疾患に対する治療となるため保険が適用されます。
中学生の歯列矯正が医療費控除になるケースは、歯科医師が歯列矯正を必要と認めた場合のみです。
中学生の不正咬合は成長において、さまざまな悪影響を及ぼす可能性があります。
- しっかり物を噛めない
- むし歯になりやすい
- 口臭の原因
- 顎に負担がかかり口が開けにくい
- うまく発音ができないなど
これらは放っておいても改善しないうえ、より状態が悪化してしまうでしょう。歯列矯正を行うことで、上記の症状の改善が期待できます。
また、中学生の歯列矯正は審美目的ではなく、発育段階における成長の妨げとならないよう不正咬合の改善を目的としているため医療費控除の対象となりやすいです。
まとめ
新陳代謝がよく、まだ成長過程であり容姿を気にする年頃である中学生の時期に歯列矯正を行うのはよいタイミングです。決して遅くはありません。
大人と同じ治療法ではあるものの、中学生の段階で歯列矯正を行えば、抜歯をせずに治療が行え将来的なむし歯や歯周病になるリスクの軽減もできます。
しかし、メリットばかりではなく注意点もあるため、よくお子さんと話し合って決めましょう。
大切な時期だからこそ、納得のいく治療法で歯をきれいに並べ、すてきな学生生活が送れることを願っています。
参考文献
- 矯正治療について|明海大学歯学部付属 明海大学病院 矯正歯科
- 不正咬合の種類と実態|厚生労働省
- 矯正歯科治療における標準治療の指針
- 矯正歯科|日本歯科医師会
- 矯正歯科|東北大学病院
- 日本歯科理工学会における 矯正用材料に関する研究と今後への期待
- 舌側矯正とは?|日本舌側矯正歯科学会
- カスタムメイドのアライナー型矯正装置(マウスピース型矯正装置)に対する本会の見解|公益社団法人 日本臨床矯正歯科医会
- 治療費用について|神奈川歯科大学附属病院
- 転勤の可能性があるのですが矯正歯科治療を始めることはできますか?|公益社団法人 日本臨床矯正歯科医会
- 矯正歯科治療が保険診療の適用になる場合とは | 公益社団法人 日本矯正歯科学会
- No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例|国税庁