歯並びのガタガタや出っ歯、すきっ歯などを矯正で治したいが、長い治療期間を乗り切る自信がないという方も多いのではないでしょうか。また、高い治療費が払えないのではないかと悩む方もいるでしょう。そんな方に有用なのが部分矯正です。いわゆる全体矯正よりも治療範囲が狭く、費用も安くなるため、気軽に始めることができます。本記事では部分矯正の治療期間やメリットとデメリット、治療期間を短くするオプションなどを詳しく解説します。部分矯正で歯並びの治療を検討中の人は参考にしてみてください。
部分矯正とは
部分矯正とは、その名の通り歯列を部分的に矯正する方法です。一般的には、前歯部の歯並びを矯正する際に適用されるため、審美面の改善を目的としているケースが多いといえます。
適応症例
部分矯正は、歯並びの問題が軽度の場合に適しています。出っ歯や乱ぐい歯、すきっ歯、1〜2本の歯の傾斜や捻転、前歯部の開咬などは、部分矯正で効果的に治療できる可能性があります。 出っ歯や乱ぐい歯は、症状が軽度であれば部分矯正できれいに治せます。一方、すきっ歯は一見簡単に治せそうに見えても、実は歯列全体を動かす必要があることもあります。
また、1〜2本の歯の傾斜や捻転は、部分矯正に適しています。特に前歯の場合、審美面で大きな改善が期待でき、患者満足度も高くなる傾向にあります。前歯部の開咬も、軽度であれば部分矯正で改善できます。 ほかにも、過去に歯列矯正を受けた後、保定装置の装着を怠ったり、悪い口腔習癖があったりして後戻りが生じた場合に部分矯正が広く活用されています。
メリット
部分矯正の最大のメリットは、歯列全体ではなく、気になる数本の歯だけを矯正できる点です。前歯1~2本の捻じれや傾きだけが気になっている場合に、上下の歯列全体に装置を装着する全体矯正を受ける気にはならないでしょう。部分矯正なら、最小限の装置で気になる部分だけをきれいに整えられます。 治療期間が短い点もメリットです。一般的な全体矯正では、歯を動かすだけでも1〜3年程度の期間を要します。
後戻りを防止する保定処置まで含めると、2〜6年程度かかるのが一般的です。気になる部分だけを治す部分矯正なら、3〜12ヶ月程度で歯の移動が完了することから、治療で辛い思いや嫌な思いをする期間も短く済むことでしょう。もちろん、部分矯正でも保定処置は必要となりますが、ほとんどのケースで数ヶ月程度にとどまります。 また、部分矯正は全体矯正よりも治療期間が短く、使用する装置も少ないです。そのため矯正にかかる費用も全体矯正より安くなるのが一般的です。
例えば、全体矯正では70万〜100万円程度の費用がかかりますが、部分矯正なら30万〜60万円程度まで抑えられます。 部分矯正は、軽度の歯並びに適応されます。それは歯を動かす距離が短いことを意味し、強い矯正力をかける必要もなくなるため、矯正に伴う痛みも全体矯正と比較して少ないのが一般的です。矯正治療に伴う痛みが心配という人にとっては、この点が大きなメリットに感じられることでしょう。 総じて、部分矯正は全体矯正と比較して気軽に矯正を始められる矯正方法であるといえるでしょう。歯列矯正には、数年に及ぶ治療期間、高額な費用、装置による痛みや不快症状など、さまざまなデメリットを伴うため、なかなか一歩踏み出せないという人が多いようです。そうした歯列矯正に伴うデメリットの多くを軽減できる部分矯正は、気軽に始められる歯並びの治療といっても間違いではないでしょう。
デメリット
一方で、部分矯正には複数のデメリットも存在します。まず、部分矯正は、全体矯正よりも適応できる範囲が狭いです。基本的には前歯のちょっとした歯並びの異常を改善する場合に適応されます。出っ歯や八重歯といった前歯の歯並びの問題でも、中等度から重度の症例は部分矯正が適応外となるため、その場合は全体矯正を検討しなければなりません。 部分矯正では噛み合わせは改善できない点も注意しておきましょう。
歯並びと噛み合わせというのは、別のものであることを知っておきましょう。部分矯正では、前歯の歯並びをきれいに整えることは可能ですが、奥歯を動かすことはないため、上下の噛み合わせは改善されません。場合によっては、部分矯正によって全体の噛み合わせが悪くなることもあります。噛み合わせは見た目の問題ではなく、上下の歯が適切な位置で噛み合う機能の問題なのです。
後戻りがおこりやすいというデメリットも存在します。全体矯正では、上下の歯すべてが治療の対象となります。ケースによっては抜歯をして、十分なスペースを確保した上で歯列全体の歯並びを再構築するのです。その結果、後戻りしにくい審美的かつ機能的な歯並び・噛み合わせが手に入ります。繰り返しになりますが、部分矯正は歯列内の一部の歯だけを動かして歯並びをきれいにする方法なので、歯列不正の根本的な原因となっているスペース不足や奥歯の歯並びの異常などは取り除けないのです。そのため治療後に後戻りするリスクが全体矯正より高くなっているのです。
部分矯正の種類と治療期間
部分矯正で使用できる矯正装置の種類は、ワイヤー矯正の表側矯正と裏側矯正(舌側矯正)、それからマウスピース型矯正の3つが挙げられます。ここでは、それぞれの特徴と治療にかかる期間について解説していきます。
ワイヤー矯正(表側矯正)
ワイヤー矯正は歯列の表側に四角いブラケットと金属製のワイヤーを固定する治療法で、表側矯正と呼ばれることもあります。最も標準的な矯正法で、歴史も古く、ほとんどの症例に適応できます。ただし、装置が目立ちやすく、部分矯正であっても歯並びの治療中であることに気づかれやすいという難点があります。表側矯正では、食事や歯磨きもしにくいです。 治療期間についてですが、ワイヤー矯正(表側矯正)は、歯を動かすのに3〜12ヶ月程度かかります。保定処置を含めると、6〜24カ月程度の期間を要します。
裏側矯正(舌側矯正)
裏側矯正(舌側矯正)はワイヤー矯正の一種ですが、歯列の裏側にブラケットとワイヤーを固定する点で表側矯正とは異なります。舌がある方に装置をつけるため、舌側矯正(ぜっそくきょうせい)と呼ばれることもあります。裏側矯正(舌側矯正)は、装置がまったく見えないといっても過言ではないほど、目立ちにくい矯正法です。また、舌側は唾液による自浄作用が働きやすいことから、表側矯正よりもむし歯・歯周病リスクが低くなっています。その反面、歯磨きがしにくい、発音障害が現れやすい、装置による異物感・違和感が大きい、費用が高いなどのデメリットも伴います。 裏側矯正(舌側矯正)(舌側矯正)にかかる期間は、表側矯正と同じか、少し長くなるのが一般的です。なぜなら裏側矯正では、特別な装置と技術を必要とするからです。とはいえ、標準的な症例では、3~12ヶ月程度で歯を動かせます。
マウスピース型矯正
マウスピース型矯正は透明な樹脂製のマウスピースを使って、歯並びを矯正する方法です。部分矯正に対応しているシステムも増えており、近年はワイヤー矯正よりも注目が集まっています。マウスピース型矯正は、装置が目立ちにくい、食事や歯磨きを普段通りにできる、歯の移動に伴う痛みが少ないなどのメリットがあります。適応症は、ワイヤー矯正よりもやや少ないです。 マウスピース型矯正で部分矯正する場合の治療期間も、ワイヤー矯正による治療期間と大きな差はありません。一般的には3~12ヶ月程度で歯の移動が完了します。
部分矯正の治療期間を左右する要因
部分矯正は、全体矯正よりも短い期間で歯並びをきれいにできますが、次に挙げる要因によって治療期間が左右される点に注意が必要です。
歯の状態
むし歯や歯周病など、歯の状態が悪い場合は矯正期間が長引く傾向にあります。部分矯正する歯にむし歯や歯周病が認められる場合は、それらの治療を優先して行わなければなりません。部分矯正を始めた後にむし歯や歯周病を発症した場合も同じです。そのため部分矯正を検討中の人は、治療前だけでなく、治療中もむし歯や歯周病にかからないよう口腔ケアを徹底する必要があります。
年齢
口腔内の状態は、年齢を重ねるごとに悪くなってきます。まず、歯が埋まっている歯槽骨(しそうこつ)は、加齢とともに代謝が悪くなり、硬くなります。それは歯の移動速度が遅くなることを意味します。過去に歯周病にかかったことがあって、歯槽骨の吸収が起こっている場合も矯正をスムーズに進めることが難しくなるでしょう。
医師の技術
部分矯正は、全体矯正と比べて一見シンプルに感じられるかもしれません。しかし、実際には部分矯正は高度な技術が必要とされる治療法なのです。全体矯正では、歯列全体を動かすことができるため、歯の移動に関して自由度が高いといえます。一方、部分矯正では限られた歯しか動かすことができません。この制限の中で、前歯の歯並びを美しく整えるためには、歯科医師に高い技術力と豊富な知識、経験が求められます。 部分矯正で理想的な結果を得るには、歯の移動をミリ単位で正確に計画し、実行に移す必要があります。歯科医師は、歯の移動のメカニズムを深く理解し、個々の歯の特性を考慮しながら、綿密な治療計画を立てなければなりません。
装置の種類
部分矯正の装置としては、表側矯正・裏側矯正(舌側矯正)・マウスピース型矯正の3つが選択肢として用意されており、それぞれに異なるメリットとデメリットがあります。いずれかの装置が絶対的に優れているということはなく、患者さんの歯並びの状態や、目指す治療結果に合わせて、適切な装置を選ぶ必要があります。この選択を誤ると、治療期間が長引いたり、満足のいく結果が得られなかったりするリスクがあります。
治療期間を短くするための治療オプション
部分矯正の治療期間は、次のような治療オプションを選択することで短縮できる場合があります。
治療期間短縮のための装置を併用
歯科矯正用アンカースクリューというチタン製のネジを使った矯正は、部分矯正の治療期間を短縮する上で有用です。決して動くことがない強力な固定源が得られるため、動かしたい歯だけを短期間で移動できます。
外科的施術の実施
歯が埋まっている歯槽骨に傷をつけて、代謝を促進させるコルチコトミー法は、歯の移動速度も速められる可能性があるといわれています。コルチコトミー法を行うことで、本来は2年かかる治療期間を1年程度まで短縮できるケースもあるそうです。短縮効果はケースによって異なるため、必ず歯科医師と相談しましょう。部分矯正の場合でも、治療期間を短縮する効果が見込めるでしょう。そのほかにも部分矯正の治療期間を短縮させる方法として、ヘミオステオトミー・コルチコトミー法や歯槽骨切術(オステオトミー法)などが挙げられます。
歯を削る
前歯を削ることで、見た目を良くできる場合もあるようです。その場合は、歯を移動する距離も少なくなることから、部分矯正にかかる期間も自ずと短くなります。また、全体矯正でも行われるIPR(アイピーアール)という方法でも、ケースによっては治療期間が短縮されます。歯の側面を少しだけ削ってスペースを作る方法で、歯を効率良く動かせるようになるからです。ただし、どちらの場合もかけがえのない歯質を失うというデメリットがあることに注意しましょう。メリットとデメリットの両方を検討した上で施術を受けるかどうかを決めるのがおすすめです。
治療期間を短くするために自分でできる方法
部分矯正にかかる期間をできるだけ短くしたいと考えている方は、ぜひ次の方法を実践してみてください。これらの方法は、すべて自分自身で取り組むことができるので、日常生活にも取り入れやすいでしょう。
定期的な通院
部分矯正を計画通りに進めるためには、歯科医師が指示した通りの頻度で通院を続けることが不可欠です。一般的に、部分矯正の場合、1〜2ヶ月に1回のペースで通院することが多いようです。通院間隔を守ることで、歯の移動状況を適切に確認し、必要に応じて装置の調整を行うことができます。 しかし、何らかの理由で通院の頻度が低くなってしまうと、歯の移動が計画通りに進まなくなり、結果的に治療期間が延びてしまう可能性があります。仕事や私生活で忙しい場合もあるでしょうが、できる限り予定通りに通院するよう心がけましょう。定期的な通院は、部分矯正を成功させるための基本中の基本です。
口腔ケアの徹底
部分矯正中は、むし歯や歯周病のリスクが高くなります。これらの口腔内トラブルは、治療の中断や期間の延長につながる恐れがあるため、予防が大切です。特に、ワイヤー矯正の場合は、装置に食べかすが詰まりやすく、歯ブラシでの清掃が難しくなることがあります。 そこで、部分矯正中は、普段以上に口腔ケアを徹底することが重要です。歯磨きは1日3回を目安に、丁寧に行いましょう。歯間ブラシやデンタルフロスを使って、歯と歯の間や装置の隙間もきれいにします。さらに、定期的に歯科医院でクリーニングを受けることで、自分では取り除けない歯垢や着色汚れを除去してもらえます。 口腔ケアを怠ると、むし歯や歯周病が進行し、部分矯正の治療期間が長引く原因となります。逆に、口腔ケアを徹底することで、健康的な口腔環境を維持し、スムーズに矯正治療を進められるでしょう。自分の歯と矯正治療のために、口腔ケアに力を入れてみてください。
装着時間を守る
マウスピース型矯正は、自分で装置の着脱ができる点が大きな特徴です。しかし、この利点を生かすためには、歯科医師が指示した装着時間を厳守する必要があります。マウスピース型矯正の多くは、1日20〜22時間の装着が求められます。 装着時間が短くなると、歯の移動が計画通りに進まなくなり、矯正期間が長引いてしまいます。例えば、1日の装着時間が18時間になると、歯の移動速度が30%ほど低下すると言われています。つまり、装着時間を2時間怠るだけで、治療期間が1.3倍に延びる計算になるのです。
編集部まとめ
部分矯正は歯列の一部分だけを矯正する方法で、上下の歯列全体が治療対象となる全体矯正よりも治療にかかる期間を短くできる可能性があります。部分矯正に使える装置としては、表側矯正・裏側矯正(舌側矯正)・マウスピース型矯正の3つが挙げられ、それぞれに異なる特徴とメリットとデメリットを伴いますが、治療にかかる期間に大きな差は見られません。また、部分矯正の治療期間を短くする方法として治療期間短縮のための装置を併用したり、歯を削ったりする選択肢も存在しています。短期間で歯並びの治療を終えたいという人は、本記事の内容を参考にしてみてください。部分矯正の治療期間についてさらに詳しく知りたい人は、矯正歯科でカウンセリングを受けてみることがおすすめです。
参考文献