反対咬合(受け口)は、下の歯が上の歯より前に出る噛み合わせの異常で、顔のバランスや発音、食べる機能にも影響を及ぼします。原因は骨格の成長不全や習慣的な癖などさまざまです。
本記事では、反対咬合(受け口)と噛み合わせの問題について以下の点を中心にご紹介します。
- 反対咬合の原因
- 反対咬合の治療方法
- 反対咬合の予防方法
反対咬合(受け口)と噛み合わせの問題について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
反対咬合(受け口)とは
反対咬合(受け口)の症状や原因について詳しくみていきましょう。
反対咬合の症状
反対咬合(受け口)とは、下の前歯や顎が上の前歯より前に出ている状態を指し、歯並びや噛み合わせに大きな影響を及ぼします。
主な症状としては、見た目の違和感だけでなく、食べ物が噛みにくい、発音が不明瞭になるなどの機能的な問題が現れます。なかでもサ行やタ行の発音が聞き取りにくくなることがあり、会話に支障をきたすこともあります。
また、下顎が過度に成長すると、顔の輪郭に左右差や突出感が出ることもあり、審美面での心理的な負担となることもあります。
反対咬合は成長とともに進行することがあるため、専門的な診断と継続的な観察が重要です。
反対咬合の原因
反対咬合の原因は、大きく「遺伝的要素」「成長期の癖」「骨格のアンバランス」の3つに分類されます。
例えば、下顎が大きく上顎が小さいといった骨格的な特徴は、家族からの遺伝によることが多く見られます。
一方、口呼吸や頬杖、舌の位置が低いなどの癖は、顎の成長に影響を及ぼしやすく、反対咬合の一因となります。
さらに、幼少期の噛み方の習慣によって、噛む際に下顎が前にズレることがあり、それが成長とともに固定される場合もあります。なお、乳歯の時期に一時的に現れる反対咬合は自然に治ることもありますが、骨格的な問題がある場合には、早期の診察と対応が重要です。
反対咬合(受け口)のデメリット
反対咬合のデメリットにはさまざまなものがあります。以下で詳しく解説します。
咀嚼がしにくい
反対咬合(受け口)では、噛み合わせが逆になっているため、前歯で食べ物をしっかり噛み切ることが難しくなります。その結果、食べこぼしが増えたり、十分に咀嚼できないまま丸のみしてしまうこともあります。
よく噛めないと唾液の分泌が減り、満腹感を得にくくなるうえ、消化不良を引き起こすリスクも高まります。
消化器官への負担が続けば、健康面にも影響が及ぶ可能性があります。
こうした問題を避けるためにも、見た目だけでなく、食事や身体への影響を考慮した対応が重要です。
発音に支障が生じる
反対咬合では、舌の位置が前方にずれやすくなり、正しい発音が難しくなります。なかでも、サ行、タ行、ダ行などの音が不明瞭になりやすく、滑舌の悪さにつながることがあります。そのため、会話中に言葉が聞き取りにくくなり、周囲とのコミュニケーションに支障をきたすケースも見受けられます。
発音の影響は日本語だけでなく、英語などのほかの言語にも及ぶため、学習や日常生活に自信を持てなくなることもあります。
見た目以上に深刻な問題となることもあるため、早めの対処が大切です。
顎や首、腰などの骨に負担がかかる(顎関節症・身体の歪み)
反対咬合によって噛み合わせがずれると、顎関節に過度な負担がかかり、お口の開閉時に音が鳴ったり痛みを感じたりする顎関節症につながることがあります。
また、嚙み合わせの不均衡は顎だけでなく、頭、首、背中、腰など、全身のバランスにも影響を及ぼします。その結果、頭痛、肩こり、腰痛といった慢性的な不調を引き起こすこともあります。
さらに、身体の歪みが血行不良や自律神経の乱れを招き、全身の体調不良につながることもあるため、注意が必要です
見た目のコンプレックスになりやすい
反対咬合は、下顎が前に突き出たような見た目になることが多く、外見に対する不安やコンプレックスを抱きやすい特徴といえます。
顎そのものが前方に突き出している見た目や噛み合わせの違和感が気になり、人前で笑うことや会話に消極的になるケースもあります。その結果、コミュニケーションを避けがちになったり、自己評価の低下を招いたりすることがあり、精神面や社会生活に悪影響を及ぼすことがあります。
こうした見た目の悩みは心の健康にも関わるため、早めに相談することが大切です。
反対咬合(受け口)を歯列矯正するメリット
ここからは、反対咬合(受け口)を歯列矯正するとどのようなメリットがあるのか、詳しくみていきましょう。
咀嚼力向上と消化不良の改善が期待できる
歯列矯正によって顎の位置を正しく整えると、食べ物をしっかり噛み砕く力が向上します。
前歯でスムーズに噛み切れるようになることで、奥歯への負担が減り、食物を効率よく細かくできるようになります。その結果、胃や腸といった消化器官の負担が軽減され、消化不良の改善も期待できます。
さらに、正しい咀嚼は栄養の吸収を助け、体調の向上や全身の健康維持にもつながります。
反対咬合の矯正は、見た目の改善だけでなく、身体機能の向上という点でも大きなメリットがあるといえるでしょう。
正しい発音が可能になる
受け口の矯正治療によって突出していた下顎の位置が整うと、舌の動きがスムーズになり、発音がしやすくなります。なかでも、サ行、タ行、ダ行など、舌を使う発音が明瞭になり、滑舌の改善が期待できます。
発音がしやすくなることで、会話への不安やコンプレックスが軽減され、自信を持って話せるようになる方も多く見られます。
発音の改善は、対人関係や日常生活の質にもよい影響をもたらすといえるでしょう。
見た目への自信が持てる
受け口の矯正治療によって顎の位置が整うと、顎の突出が改善され、横顔のラインがすっきりと美しくなります。その結果、顔の輪郭や口元にコンプレックスを抱えていた方も、自信を持って笑顔を見せやすくなるようです。口元を隠す必要がなくなり、人前での会話や笑顔に抵抗を感じにくくなるため、積極的なコミュニケーションも期待できます。
見た目の変化は心理的な自信にもつながり、明るく前向きな印象を与えます。
顎や身体のバランス改善が期待できる
受け口の矯正によって噛み合わせが正常化すると、正しい咀嚼が可能になり、顎関節や首、肩などへの負担が軽減されます。
これまで噛み合わせの乱れによって生じていた痛みやコリが緩和され、全身のバランスも整いやすくなります。
歯並びの改善は姿勢の歪みを正す効果も期待でき、頭痛や肩こり、腰痛など慢性的な不調の軽減が期待されます。
身体の調和が取れることで血行や自律神経の働きも安定し、日常生活の快適さや健康の維持、精神的な安定にもつながります。
反対咬合の治療方法
反対咬合には、どのような治療方法が用いられるのでしょうか。詳しく解説します。
ワイヤー矯正
反対咬合の治療方法として、ワイヤー矯正はおすすめな選択肢の一つです。歯の表面にブラケットを装着し、ワイヤーの力を利用して歯を理想的な位置へと移動させます。
特に、歯の傾きが原因で起こる歯槽性反対咬合では、ワイヤー矯正のみで改善できることがあります。
歯列のデコボコや高さを整えたうえで、ゴムを使って上下の噛み合わせを調整する治療も行われます。
また、必要に応じて抜歯でスペースを確保し、前方に出た下顎の歯を後方へ移動させる方法もあります。
マウスピース型矯正
反対咬合の治療方法として、透明なマウスピースを用いるマウスピース型矯正も効果が期待できます。
マウスピース型矯正は、装置が目立ちにくく、取り外しが可能なため、食事や歯磨きがしやすいとされています。
ただし、適応できる症例には限りがあり、マウスピースを1日20時間以上装着するなど、自己管理が求められます。
また、マウスピース型矯正は矯正治療後の後戻り防止にも活用されることがあり、ワイヤー矯正に抵抗のある方にもおすすめです。
歯科医師の指導のもと、継続的に治療を進めることが大切です。
外科矯正
反対咬合の原因が骨格にある場合には、外科矯正による治療が選択されることがあります。
外科矯正は、下顎の骨を一部切除し、後方に移動させて固定します。顎変形症と診断された場合には、保険適用で手術を受けられます。
外科矯正は、術前と術後の歯列矯正と一定期間の入院が必要で、手術は大学病院や基幹病院の口腔外科で行われます。
身体への負担やリスクもあるため不安を感じる方も少なくありませんが、反対咬合による日常生活への影響を考慮すると、外科矯正が有効な場合もあります。
なお、上下の前歯が噛み合うケースでは、外科矯正を回避できる可能性もあるため、まずは専門的な検査が重要です。
小児矯正
反対咬合の治療では、ほかの不正咬合よりも早期の歯科受診が重要とされています。
なかでも、お子さんの場合、成長を利用したさまざまな治療法が選択できるため、早期対応によって効果が期待されます。
3〜4歳頃の乳歯列期には、ムーシールドと呼ばれるマウスピース型の装置を使用する治療が行われます。
その他、歯の傾斜を整えるリンガルアーチ、顎の前方成長を抑制するチンキャップなどの装置も用いられます。
また、マウスピースと習慣改善を組み合わせたマイオブレース矯正も推奨されています。
これらの治療で十分な効果が得られない場合には、ワイヤー矯正やインビザラインなどへの移行が検討されます。
反対咬合の予防方法
反対咬合を予防するにはどのようなことに気を付けるとよいのでしょうか。
以下で解説します。
乳幼児期の癖に注意する
反対咬合の予防には、乳幼児期からの生活習慣や癖に気をつけることが大切です。
まず、口呼吸の習慣は上顎の発育を妨げ、下顎が前方に出やすくなる原因になります。
舌の位置が下がることで気道が狭まり、下顎の突出が進行しやすくなります。
また、頬杖やうつ伏せ、横向き寝なども、顎の変形や顔の左右非対称を引き起こす可能性があるため注意が必要です。
爪噛みの癖も前歯に余計な力が加わり、下顎が発達して受け口につながることがあります。
加えて、乳歯のむし歯による早期喪失は永久歯の歯並びに悪影響を与えるため、乳歯の健康管理も重要です。
舌は上顎の裏側に自然に触れているのが正しい位置なので、癖の有無をチェックし、早めの改善を心がけましょう。
正しい呼吸・嚥下を身につける
反対咬合の予防には、乳幼児期から正しい呼吸と嚥下(飲み込み)の習慣を身につけることが大切です。
母乳育児は、赤ちゃんがしっかりと吸う動作を通じて、舌や顎、お口まわりの筋肉をバランスよく発達させる助けになります。ミルクを使用する場合も、赤ちゃんが適度な吸引力を使うような哺乳瓶を選ぶことが重要です。
また、ポカン口と呼ばれる開口状態は、下顎の前方移動を助長し受け口の原因となることがあります。
おしゃぶりを活用してお口を閉じる習慣を助けると、一定の予防効果が期待できます。
なお、おしゃぶりは3歳頃までに卒業するのが望ましいとされています。
まとめ
ここまで反対咬合(受け口)と噛み合わせの問題についてお伝えしてきました。
反対咬合(受け口)と噛み合わせの問題の要点をまとめると以下のとおりです。
- 反対咬合は遺伝的骨格の特徴や口呼吸などの癖、成長期の咀嚼習慣が原因となる
- 反対咬合の治療方法は、ワイヤー矯正やマウスピース型矯正、外科矯正、小児矯正などさまざまで、原因や年齢に応じて選択される
- 反対咬合の予防には、乳幼児期の癖改善や正しい呼吸・嚥下習慣の定着が重要で、口呼吸や頬杖を避けることで効果が期待できる
反対咬合(受け口)は、見た目の悩みに加えて、噛む、話す、飲み込むといった日常の機能にも影響を与える不正咬合の一種です。
原因は遺伝や生活習慣、骨格の成長バランスなどさまざまで、放置すると身体全体や精神面にも悪影響が及ぶことがあります。
治療法は症状や年齢によって異なり、ワイヤー矯正やマウスピース型矯正、小児矯正、外科矯正などが選択されます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。