私たちは鼻呼吸が基本ですが、風邪をひいて鼻がつまったときや運動中などの一度に多くの酸素を吸いたいときは、一時的に口呼吸をします。
何らかの原因で普段から口呼吸をしていると、口臭や歯周病、風邪などの感染症、いびき、睡眠時無呼吸症候群のリスクが高くなります。
また、表情筋の筋力低下により、頬のたるみやほうれい線の原因にもなります。ここでは、口呼吸の原因や治療法を紹介します。
口呼吸は歯列矯正で改善できる?
口呼吸は原因によって鼻性口呼吸・歯性口呼吸・習慣性口呼吸の3つに分類されます。特に歯性口呼吸の場合、歯列矯正が有効です。ご自身が口呼吸か鼻呼吸かを判断するために、次の3つの症状を確認しましょう。
- 唇の乾燥:口呼吸では唇が乾燥しやすく、ひどい場合は亀裂や出血を伴います
- 口呼吸線:前歯の唇側歯茎に炎症や線が見られる場合があります
- 堤状隆起:上顎の裏の前歯部分が隆起している場合、口呼吸の可能性があります
これらの症状があれば、普段から口呼吸をしている可能性が高いため注意が必要です。続いて、口呼吸の主な原因について説明します。
口呼吸の主な原因
口呼吸は、鼻呼吸が妨げられることで起こる生理的な反応です。原因は多岐にわたり、鼻の疾患や生活習慣、周囲の環境などが影響しています。
特に鼻づまりは口呼吸の主な要因の一つであり、これが続くと睡眠時無呼吸や口腔乾燥などの健康問題を引き起こすことがあります。
鼻に疾患を抱えている
人の生理的な呼吸は鼻呼吸ですが、鼻づまりがあると口呼吸に頼らざるを得ません。慢性的な鼻づまりの原因には、アレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎、鼻中隔湾曲症、アデノイド増殖症などが挙げられます。
これらの疾患により鼻呼吸が難しくなると、無意識のうちに口呼吸をしていることがあります。特に睡眠中の口呼吸は気付きにくく、気道が狭くなることで睡眠呼吸障害や睡眠時無呼吸のリスクが高まります。
睡眠呼吸障害は寝ている間の呼吸が弱まることで、身体に悪影響を及ぼす可能性があります。
口腔周りの筋肉が弱い
お口の周りの筋肉の衰えは口呼吸の原因のひとつです。お口の周りには口輪筋・オトガイ筋・舌筋などの筋肉が存在します。それらの筋力が弱いために口唇を閉じた状態を維持することが難しく、無意識にお口が開いてしまうことがあります。
筋肉が弱い原因としては年齢に伴う衰えや子どもの頃からの口呼吸などがあげられます。お口が開いているというだけで口呼吸をしていると断定することはできず、鼻呼吸ができている方もいます。
しかしなかには口呼吸になっている方、口呼吸と鼻呼吸を併用している方もいるため、口周りの筋力低下も口呼吸の要因の一つといえるでしょう。
口周りの筋力が弱いと頬の筋肉とのバランスが崩れて前歯が前方に突出しやすくなります。つまり口周りの筋力が弱いことが、出っ歯など歯並びにも影響を与えます。
出っ歯など歯並びに問題がある
口呼吸の方のなかには、普段から口唇が閉じないという症状を自覚する方がいます。
一般的に出っ歯といわれる上顎前突や開咬などの顎顔面形態異常があると、物理的に口唇が閉じにくいです。閉じようとするとオトガイ筋など口周りの筋肉を使う必要があるため、お口を閉じた状態を維持することが難しく、自然とお口が開いてしまいます。
歯並びは遺伝的な要素が大きいとされる一方で、長年の口呼吸などの環境的要因との関連もあるといわれています。つまり長期間鼻づまりの影響で口呼吸を行っていることが原因で、歯並びや噛み合わせに問題が生じている可能性があるということです。
歯並びが悪いためにお口が閉じずに口呼吸になっている、鼻の疾患などが原因で子どもの頃から口呼吸を行っていたために歯並びに影響を与えた、というどちらもが考えられます。
口呼吸のデメリット
口呼吸は身体にさまざまな影響を及ぼします。鼻呼吸に比べて空気中の異物や細菌が直接喉に入りやすく、感染症のリスクが高まります。また、口腔内が乾燥しやすくなり、むし歯や歯周病の原因にもなります。
さらに、睡眠中の口呼吸はいびきや睡眠時無呼吸症候群を引き起こし、質の低い睡眠につながることもあります。長期的には顔や歯並びの成長にも悪影響を及ぼす可能性があるため、早めの対策が重要です。
口腔内が乾燥しむし歯のリスクが高まる
口呼吸によって口腔内が乾燥すると、唾液による防御作用が低下して口腔内の細菌叢の変化が生じます。
また歯の表面に付着しているプラークの水分が蒸発して強固に歯の表面にくっつき、歯磨きを行っても除去しにくくなります。
するとその上からさらにプラークが蓄積するという悪循環が生じます。加えて歯茎が乾燥すると炎症を起こして抵抗力が低下するため、むし歯を含む歯周疾患になりやすいです。
これらの影響で口臭が強くなるというデメリットもあります。
細菌感染のリスクが高まる
鼻腔には鼻毛や粘膜の繊毛、粘液などがあり、空気中のほこりやウイルスが体内に入ることを防ぐフィルターの機能があります。また、気管と肺を守るための加湿・加温する機能もあります。
口呼吸ではこのようなフィルター機能や加湿・加温機能がが利用できず、乾燥した空気やウイルスをそのまま体内に取り込んでしまいます。
これにより風邪などの感染症や、気管支炎、気管支喘息に罹患しやすくなるというデメリットがあります。
睡眠の質が低下する
睡眠中は口呼吸よりも鼻呼吸の方が抵抗が低いため、通常は鼻呼吸になります。しかし何らかの原因で口呼吸をする場合は、呼吸抵抗が高くなり睡眠呼吸障害や睡眠時無呼吸につながるといわれています。
これらにより睡眠の質が低下するというデメリットがあります。睡眠の質の低下は記憶力・集中力・判断力の低下、免疫力の低下、頭痛などの症状をきたします。また、生活習慣病や循環器疾患、うつ病のリスクも高くなります。
顎の発育が遅れる
口呼吸をしていると顎顔面の成長発育に影響を与え、上顎前突出や顎変形症などの咬合異常を引き起こします。
特に小児期に慢性的な口呼吸を行っている場合、歯並びや顎の発達に影響を与えることがわかっています。また顎の発育は食べ物の咀嚼や嚥下、構音にも影響を与える可能性があります。それだけでなく、美容・整容面への影響も懸念されます。
口呼吸の改善には歯列矯正が効果的
口呼吸の原因が歯並びにある場合は、歯列矯正で口呼吸の改善が期待できます。一般的に「出っ歯」といわれる上顎前突や開咬、「受け口」といわれる下顎前突や反対咬合などがその例です。
歯並びの影響で口唇が閉じにくくお口が開いてしまう場合は、歯列矯正が有効な可能性があります。歯列矯正は高額というイメージをお持ちの方もいます。
一般的な歯列矯正治療は自費診療で10割負担ですが、特殊な歯並びでは保健適応で3割負担となるものもありますので、ぜひ一度歯科医院にて相談してみましょう。
歯列矯正の種類
歯列矯正には、歯並びや咬み合わせを整えるためのさまざまな方法があります。それぞれの治療法には特徴やメリット・デメリットがあり、患者さんの症状やライフスタイルに合ったものを選ぶことが重要です。
矯正治療の選択肢として一般的なワイヤー矯正から、目立ちにくい裏側矯正やマウスピース型矯正など、さまざまな方法が提供されています。以下に主な矯正方法を詳しくご紹介します。
ワイヤー矯正
ワイヤー矯正とは歯の表面にブラケットとよばれる器具を装着し、その間にワイヤーを通して歯を動かす治療法です。
歯列矯正と聞くとワイヤー矯正をイメージする方も多いのではないでしょうか。
一般的な矯正方法であり、治療経験が多数あります。また、治療できる歯科医院も多数存在しています。ワイヤーを用いてしっかりと圧をかけながら歯を動かすことができるため、マウスピース型矯正と比較して矯正期間が短い傾向にあります。
表側矯正
ブラケットとワイヤーを歯の表側に装着して歯を動かす治療法です。表側矯正は多くの歯並びに適応可能で、発音への影響が少ないのが特徴です。
一方で装置が目立ちやすい、食べ物が詰まりやすい、硬いものが食べにくいなどのデメリットがあります。透明や白色の装置を使えば、目立ちにくくすることも可能です。
裏側矯正(舌側矯正)
ブラケットとワイヤーを歯の表面ではなく裏側に装着して歯を動かす治療法です。表側矯正と比べて装具が目立ちにくいメリットがあります。
一方で見た目以外の点では表側矯正と同様のデメリットはあります。表側矯正よりも歯が磨きにくい可能性もあります。また、費用が高額であること、活舌に影響が出やすいこともデメリットです。
マウスピース型矯正
透明のマウスピースを歯に装着して歯を動かす治療法です。歯の動きに合わせて新しいマウスピースに交換していきます。
透明で目立ちにくい、取り外しできるため食事や歯磨きがしやすい、痛みや違和感が少ないなどのメリットがあります。
一方で治療できる歯並びには限りがあります。またつけたり外したりと自己管理が必要、装着中は飲食できない、ワイヤー矯正よりも時間がかかる傾向にあるなどのデメリットもあります。
口呼吸改善のための歯列矯正以外の方法
口呼吸を改善するには、歯列矯正だけでなく、原因に応じたほかのアプローチも重要です。
特に鼻づまりや慢性的な鼻の疾患が関与している場合、適切な治療を受けることで、より効果的に口呼吸を改善できる可能性があります。
まずは問題の根本を見極め、専門医に相談することが大切です。
耳鼻科への受診を検討する
口呼吸の原因には、鼻づまりを引き起こす耳鼻科疾患や歯並び、顎の形態などが挙げられます。
耳鼻科疾患と歯科疾患が関連する場合、歯列矯正だけでは効果が持続しにくく、耳鼻科治療を併用することが大切です。
鼻閉の治療法には抗アレルギー薬や鼻洗浄、レーザー治療、外科的処置などがあります。必要に応じて耳鼻科の診察を受けることをおすすめします。
医療機関での歯列矯正トレーニングを検討する
口腔筋機能療法(Oral Myofunctional Therapy)は口周りの筋力のバランスをとることで歯並びや噛み合わせを正常に維持することを目的に行われる治療法です。
トレーニングにより舌や口輪筋の筋肉を鍛えます。
これにより咀嚼・嚥下・構音異常の改善、口唇閉鎖などの効果も期待できます。口腔筋機能療法のみでも効果が認められますが、矯正治療の一貫として取り入れられることもあります。
このトレーニングを併用することで、歯列矯正後の後戻りの防止につながるといわれています。
また、矯正後にトレーニングを開始するよりも矯正中から開始した方が効果があるとの報告もあります。長期間継続して行うことで効果が出る治療法ですが、習慣化することが困難という点が懸念されます。
口腔筋機能療法のイメージがつかない方もいるかと思うので、具体的な例を紹介します。興味のある方はぜひ歯科医師に相談してみましょう。
- スポット:正しい舌の位置を意識するためのトレーニング
- ティップ:舌をとがらせる力をつけ、その感覚を養うトレーニング
- サッキング:舌の横側の力をつけるトレーニング
- ポッピング:舌全体を口蓋につける力をつけ、その感覚を養うトレーニング
口周りの筋力低下に対し、自宅で簡単に取り入れやすい運動として、あいうべ体操やリップトレーニングがあります。
あいうべ体操とは、「あー」とお口を大きく開き、「いー」とお口を大きく横に広げる体操です。
リップトレーニングは、まず舌の先を下唇の裏側に入れ、下唇の下部が広がるようにします。舌先を先ほど紹介したスポットにつけた状態で頬を膨らませるように空気を含み、下唇から顎にかけてを5秒程度膨らませましょう。
このとき、できるだけ下の方に力を入れるよう意識してみてください。ここまでを1セットとし、1日5回以上行うのがおすすめです。
どちらも簡単に感じるかもしれませんが、実際に行ってみると筋力トレーニングになっていることを実感できます。
まとめ
ここまで口呼吸の原因や治療法について紹介してきました。
口呼吸することで口臭や歯周病・風邪などの感染症・いびき・睡眠時無呼吸症候群などのリスクが高まります。
そのため生理的な呼吸法である鼻呼吸に戻すことが望ましいです。耳鼻科での治療や歯科治療により口呼吸を改善することが可能です。
口呼吸でお悩みの方で鼻づまりの自覚がある方は耳鼻咽喉科へ、鼻呼吸もできるが口が閉じにくく自然に開いてしまう方や歯並びが気になる方は歯科へ受診を検討してみてはいかがでしょうか。
耳鼻科疾患と歯科疾患が複雑に関連していることもあるため、医師に相談のうえどちらも受診するのもよいでしょう。
参考文献