透明な樹脂製のマウスピースを使うマウスピース型矯正。従来のワイヤー矯正と比較すると、目立ちにくい矯正法なのですが、装置の管理は患者さんに委ねられており、取り扱いを誤るとさまざまなトラブルを招きかねないため、十分な注意が必要です。そのなかでも特に厄介なのは、マウスピースが割れるというトラブルです。ここではそんなマウスピース型矯正のマウスピースが割れる原因やその対処法について詳しく解説します。マウスピースが割れて対処法に困っている方は、このコラムを参考にしてみてください。
マウスピース型矯正の概要とマウスピースが割れる原因
はじめに、マウスピース型矯正の基本事項と割れる原因を確認しておきましょう。
- マウスピース型矯正について教えてください
- マウスピース型矯正は、ポリウレタンなどのプラスチックで作られたマウスピース(アライナー)を装着し、定期的に交換することで歯を少しずつ動かしていく歯列矯正の方法です。マウスピースは透明で薄く、歯にフィットするよう設計されているため、歯列矯正中であることに周囲から気付かれにくいです。食事や歯磨きの際に装置を取り外せるという点もマウスピース型矯正の魅力でしょう。
金属製のブラケットとワイヤーで固定する歯列矯正では、装置が目立ったり、食事や歯磨き、会話がしにくい、ワイヤーが粘膜を刺激して痛いなどのデメリットが伴います。しかし、マウスピース型矯正では、これらのデメリットを少なくすることができます。ただし、マウスピース型矯正の装置は、快適性や利便性が高い反面、壊れやすいため注意が必要です。
- マウスピースが割れてしまうのはなぜですか?
- マウスピースが割れる主な原因としては、以下の4つが挙げられます。
【原因1】マウスピースをつけたまま食事をした
マウスピース型矯正の装置は、食事のときに“外してもよい”のではなく、“外さなければならない”ことを正しく理解しておく必要があります。お口にするものがあまり噛まずに飲み込める軟らかい食べ物であっても、飲食の際には必ずマウスピースを外さなければなりません。そのまま噛むとプラスチック製のマウスピースにダメージが蓄積し、変形や破折を招くことがあります。
【原因2】着脱方法が誤っている
マウスピースの着脱方法に誤りがあると、その都度、装置に不必要な力がかかって割れることがあります。特にアタッチメントのようなパーツが固定されている場合は、マウスピースの着脱にコツが必要となるため、必ず歯科医師から正しい着脱方法のレクチャーを受けるようにしてください。
【原因3】適切に保管していない
お口から取り外したマウスピースは、洗浄したうえで専用のケースに保管する必要があります。手入れと保管を面倒に感じてしまい、取り外したマウスピースを机やソファなどに放置していると、床に落としたり、その上から荷物を置いたりして破損させてしまうことがあります。
【原因4】習慣的に歯ぎしりをしている
歯ぎしりや食いしばりなどは、マウスピースに極めて大きな力がかかるため、十分な注意が必要です。マウスピースは、強く噛んだときの力に耐えられるようには設計されていないことから、歯ぎしりや食いしばりも破損につながる行為のひとつとして挙げられます。そのため歯ぎしり・食いしばりの症状が強い場合は、ナイトガードによる歯ぎしりの治療も検討しなければなりません。
マウスピースが割れたときの対処法
次に、マウスピースが割れたときの対処法を解説します。
- マウスピースが割れたときの対処法を教えてください
- 何らかの理由でマウスピースが割れた場合は、速やかに通院している歯科医院に連絡してください。割れたマウスピースは、基本的には作り直すことになります。作り直しのかかる工程は、選択したマウスピースの種類によって異なります。
例えば、インビザラインであれば、保存されているデータをもとに、マウスピースの複製が行われることから、短期間で新しいマウスピースを受け取ることができます。そのほかのマウスピース型矯正では、あらためて歯型取りを行ったり、再スキャンが必要になったりするため、時間がかかることもあります。破損したときの工程についても、あらかじめその流れについては確認しておいた方がよいでしょう。
- マウスピースが割れてしまったときにやってはいけないことはありますか?
- マウスピースが割れた場合、以下の行為は避けましょう。
◎割れたマウスピースをそのまま装着する
マウスピースは、割れたり、変形したりした時点で適切に矯正する力を失っています。そのままの状態で装着すると、歯や歯茎に悪影響が及ぶため、絶対に使用しないでください。
◎割れたマウスピースを自分で直す
割れたマウスピースを市販の接着剤でつなげることはしてはいけません。マウスピースはとても精密に作られた装置で、一般の人が修理できるものではありません。
◎何もせずに放置する
マウスピースが割れたときに歯科医院へ連絡せず、放置しておくと歯並びは徐々に戻っていきます。それは治療の遅れを招くだけでなく、治療計画そのものを作り直す必要性も出てくるため、何もせずに放置するということは避けてください。
- クリニック通院前にできる対処法はありますか?
- 歯の後戻りを防止するために、ひとつ前のマウスピースを装着しましょう。歯列矯正の進行状況によっては、ひとつ後のマウスピースの方が装着しやすいこともあるため、その点も含めて歯科医院に相談するとよいです。ちなみに、ひとつ後のマウスピースの方が装着しやすい場合は、割れたマウスピースの複製が不要となる場合もあります。
マウスピースが割れないように気をつけること
マウスピースが割れるトラブルを防ぐ方法について解説します。
- マウスピースの保管で気をつけることはありますか?
- お口からマウスピースを取り外した際には、必ず専用のケースに保管するようにしてください。保管ケースは歯科医院から配布されます。マウスピースを外したら洗浄して保管ケースに入れる。これをしっかり守ることで、マウスピースの破損や紛失を回避しやすくなります。
- マウスピースの正しい取り扱い方法を教えてください
- マウスピースは、歯を動かすための装置なので、装着したまま噛むことがないよう配慮しなければなりません。つまり、マウスピースをつけたままの食事は絶対にしてはいけません。歯ぎしり・食いしばりの習慣がある場合は、マウスピースへのダメージを避けるためにも、ナイトガードを用いた歯科治療を検討しましょう。そのほか、日常生活においてもマウスピースに大きな圧力がかからないよう取り扱うことが大切です。
- マウスピースの付け方で気をつけることはありますか?
- マウスピースは、力任せに装着すると変形や破損を招いてしまうため、優しく丁寧につけるようにしてください。弱い力でも不適切な部分に力が集中するとマウスピースが割れることがあるため、正しい方法を必ず歯科医師から学ぶようにしましょう。歯並びの状態やアタッチメントの存在によってマウスピースの取り外しが難しくなる場合もありますので、その際はアライナーリムーバーなどの器具を使うとよいでしょう。いずれにしても自己流でマウスピースを着脱するのは良くありません。
編集部まとめ
今回は、マウスピースが割れる原因とその対処法について解説しました。マウスピースは、つけたまま食事をする、着脱の方法が間違っている、適切に保管していない、歯ぎしり・食いしばりの習慣があるなどが原因で割れることがあります。マウスピースが割れた場合は、できるだけ早く主治医に連絡してください。割れてしまったマウスピースは、基本的に作り直すことになります。新しいマウスピースができるまでは、後戻りを防止するためにひとつ前のマウスピースを装着するとよいでしょう。気になることがあれば、早めに歯科医院への相談がおすすめです。
参考文献