歯列矯正は、乱れた歯並びをきれいに整えるための治療ですが、ケースによっては健康な歯を抜かなければならないことがあります。歯周病やむし歯になっていない歯を抜くことには抵抗があるだけでなく、抜歯後の痛みや腫れが不安だという方も少なくないかと思います。ここではそんな歯列矯正における抜歯が必要になる理由や抜歯後の痛み、症状を緩和するための対処法などを詳しく解説します。歯列矯正で抜歯を控えている方や抜歯をして痛みに悩まされている方は参考にしてみてください。
歯列矯正で抜歯が必要な理由
はじめに、歯列矯正で抜歯が必要となる理由を確認しておきましょう。
- 歯列矯正で抜歯が必要になる原因を教えてください
- 歯列矯正で抜歯が必要となる主な原因としては、スペースの不足と親知らずによる悪影響の2つが挙げられます。
【原因1】歯を並べるためのスペースが足りない
永久歯は、親知らずを除くと全部で28本生えてきます。それらを並べるためのスペースは、歯槽骨と呼ばれる顎の骨で、人によって大きさが異なります。もともと歯並びがよい人は、顎の骨が十分に大きく、28本の永久歯が自ずときれいに並びます。顎の骨が小さいと、スペースの不足によって歯列の外側に逸脱する歯が出てくるため、出っ歯や受け口、乱ぐい歯などの歯列不正を招いてしまうのです。こうしたスペースの絶対的な不足は、抜歯でなければ解決できないケースがほとんどです。
【原因2】親知らずが歯並びを悪くしている
第三大臼歯である親知らずは、歯列の一番奥に生えてくる永久歯で、全体の歯並び・噛み合わせを悪くすることがあります。今現在、悪影響がなかったとしても、これから歯列矯正で歯並びを改善していく過程で、親知らずの存在が邪魔となることは珍しくありません。こうしたケースでは、歯列矯正を始める前に、親知らずを抜歯することになります。
【原因3】口元が出ている・口が閉じられない
上下の前歯が前に出ていることが原因で口元が出ている、あるいは唇に力を入れないと口を閉じることができない場合も抜歯が必要となりやすいです。
- 歯列矯正で抜歯するメリットはありますか?
- 歯列矯正で便宜抜歯を行うと、以下に挙げるメリットが得られます。
【メリット1】不足しているスペースを作り出せる
便宜抜歯を行うと、不足しているスペースを人為的に作り出すことができます。抜歯の対象が小臼歯であれば、1本あたり7〜8mmのスペースが得られるため、症状の強い歯並びでも治しやすくなります。
【メリット2】仕上がりがよくなる
スペース不足があるにも関わらず、無理に非抜歯で歯列矯正を行うと、適切な治療効果が得られにくくなります。そこで便宜抜歯を行えば、歯をきれいに並べやすくなるため、仕上がりがよくなることもあります。ただし、抜歯によって口元が後退しすぎる症例もあるため、最終的な仕上がりの良し悪しは、セファロも含めた精密検査・診断をしてみなければわかりません。
【メリット3】外科矯正を回避しやすくなる
骨格的な異常に由来する歯列不正・不正咬合では、顎の骨を削る外科矯正が必要となる場合があります。その際、便宜抜歯を行うことができれば、標準的な歯列矯正でも治せる範囲が広くなるため、外科手術を回避しやすくなるというメリットも得られます。
- 歯列矯正の抜歯にはどのようなデメリットがありますか?
- 歯列矯正で便宜抜歯を行うと、次に挙げるデメリットを伴います。
【デメリット1】治療期間が長くなる
歯列矯正で抜歯した場合は、歯を抜いたスペースを埋めるだけでも数ヵ月を要します。そのため治療期間は、非抜歯の症例よりも長くなる傾向にあります。
【デメリット2】抜歯に費用がかかる
歯列矯正の便宜抜歯には保険が適用されず、1本あたり数千円の費用がかかります。親知らずも症状が現れていないケースでは自費診療となることから、総額でそれなりの費用がかかる点に注意が必要です。
【デメリット3】抜歯によって顔貌に変化が見られることがある
これは一部の症例に限られますが、抜歯をする本数や部位によっては、治療後に口元が下がったり、頬がこけたりするなどの変化が見られる場合があります。
【デメリット4】抜歯をした後に痛みや腫れが生じる
抜歯後は、どのケースでも少なからず痛みや腫れが生じる点に注意が必要です。抜歯後のセルフケアや過ごし方が悪いと患部で細菌感染が起こる可能性もあります。
抜歯の痛みと対処法
続いては、歯列矯正の抜歯に伴う痛みと対処法について解説します。
- 抜歯の痛みや出血はどのくらい続きますか?
- 歯を抜くときには、局所麻酔が効いているため、痛みを感じることはありません。術中のある程度の出血は避けられないでしょう。抜歯後の痛みには個人差があり、日常生活に支障をきたさない場合もあれば、睡眠を妨げる程、強い症状が現れる場合もありますが、手術から2〜3日でピークを迎えて、その後は徐々に軽くなっていきます。出血に関しては、抜歯から30分程度で止まります。ちなみに、前から4・5番目の小臼歯を抜いた場合は、抜歯後の痛みや出血がほとんど見られないケースも珍しくありません。
- 痛みが強い場合の対処法を教えてください。
- 抜歯後の痛みが強い場合は、歯科医院から処方された鎮痛剤を飲みましょう。用法・用量を守ったうえで服用すれば、抜歯による痛みを軽減できます。鎮痛剤と併せて抗菌薬が処方された場合は、それも正しい方法で服用してください。その他、患部を口腔外から間接的に冷やす、口腔内を清潔に保つ、安静に過ごすことでも抜歯による痛みを抑制しやすくなります。
- 歯科医院を受診すべきタイミングを教えてください
- 抜歯から3〜4日経過しても痛みが治まらない、もしくは痛みが強くなっている場合は、歯科医院に連絡して受診の要否を確認しましょう。強い痛みが現れる親知らずの抜歯でも、術後3〜4日してから痛みが強くなることは珍しいです。患部で細菌感染が起こっていたり、ドライソケットという病気を併発していたりする可能性も否定できないため、速やかに主治医へ報告しましょう。実際に受診すべきかどうかは、主治医の判断を仰ぐようにしてください。また、抜歯してからまだ数時間、あるいは1~2日しか経過していなくても、出血が止まらない、顎が異常に腫れていて食事や呼吸がしにくい、痛みで日常生活を送ることができない場合は、遠慮せずに歯科医院へ連絡しましょう。
抜歯後の過ごし方のポイント
ここでは、抜歯後の過ごし方のポイントについて解説します。
- 抜歯後の過ごし方で避けた方がよいことを教えてください
- 抜歯後は、傷口が開いたり、再び出血したりするのを防ぐために、全身の血流がよくなる行為を避けてください。具体的には、激しい運動、熱い湯船に浸かる、アルコールを飲むのはNGです。タバコも傷の治りを遅らせることから、抜歯後しばらくは禁煙するようにしてください。
- 抜歯後のうがいで気を付けることはありますか?
- 抜歯後のうがいは、軽めにするように心がけましょう。お口全体を洗浄するようなブクブクうがいや繰り返しのうがいは、傷口にできたかさぶたを剥がす原因となります。専門的には血餅(けっぺい)と呼ばれるもので、これが剥がれてしまうと傷口の治癒が進まないだけでなく、骨が露出して激しい痛みを引き起こすドライソケットという病気を引き起こしかねないため、十分な注意が必要です。抜歯から数日経過して、傷口の状態が落ち着いたら、普段のうがいの仕方に戻しても問題はなくなります。
- 抜歯後の食事で気を付けることはありますか?
- 抜歯をした部分で食べ物を噛んではいけません。抜歯によって生じた穴は、傷口そのものであることから、刺激を与えると痛みや出血を招き、感染のリスクも高まります。そのため抜歯の傷口が癒えるまでは、あまり噛まずに飲み込める食事を心がけた方がよいといえます。
編集部まとめ
今回は、歯列矯正における抜歯の痛みと対処法、抜歯後の過ごし方のポイントについて解説しました。歯列矯正では、顎のスペースが不足していたり、歯並びに悪影響を与える親知らずが存在していたりする場合に抜歯が必要となります。そうした便宜抜歯による痛みは通常2〜3日で和らいでいきますが、日に日に症状が強くなっていく場合は、何らかの異常が疑われるため、歯科医院を受診した方がよいといえます。抜歯後の痛みは、安静に過ごす、口腔内を清潔にする、うがいはできる限り抑えることで、抑制しやすくなります。
参考文献