ワイヤー矯正

歯列矯正後の後戻りの確率は?再矯正が必要な判断基準も解説

歯列矯正後の後戻りの確率は?再矯正が必要な判断基準も解説

歯列矯正は、出っ歯や乱ぐい歯といった悪い歯並びを根本から改善できる歯科治療ですが、歯列矯正後に後戻りするリスクがあることを忘れてはいけません。数年かけて歯列矯正したものが、数週間から数ヵ月でもとに戻ってしまうこともあるため、十分な注意が必要です。ここではそんな歯列矯正後の後戻りが生じる確率、後戻りを防ぐ方法、再矯正が必要となる症状などを詳しく解説します。歯列矯正後の後戻りに悩んでいたり、そのリスクを知りたい方は参考にしてみてください。

歯列矯正後に後戻りする確率

歯列矯正後に後戻りする確率 はじめに、歯列矯正後に後戻りする確率や理由について解説します。

後戻りする確率はほぼ100%

歯列矯正後に後戻りするリスクは、一般的な歯科治療や外科手術に伴うリスクと同じように、ごくわずかであると考えている方もおられるようですが、実際はそうではありません。歯列矯正後の処置や生活習慣が不適切だと、ほぼ100%後戻りするといわれています。標準的なワイヤー矯正だけではなく、マウスピース型矯正でも同様です。

後戻りをする理由

歯列矯正後に後戻りする主な理由は、歯周靭帯によるものです。歯は、顎の骨と歯周靭帯によって固定されているのですが、歯周靭帯が矯正後の位置に馴染むまでには、一定の期間が必要になります。その間は元の位置へと戻そうとする力が働くため、歯の後戻りが生じてしまうのです。 歯列矯正後の後戻りで、もうひとつの理由として口腔周囲筋の働きがあります。歯列矯正前の歯並びというのは、舌や頬の筋肉の運動に即して形作られているため、歯列矯正後も基本的には元の状態に戻す力が働きます。ニュートラルゾーン(筋圧中立帯)と呼ばれるもので、歯槽骨や歯周靭帯の状態が安定するまでは、この力の影響が大きくなることから、後戻りしやすくなるのです。

後戻りを防ぐ期間

歯列矯正後の後戻りを防ぐことを保定(ほてい)といいます。歯列矯正によってきれいに並べた歯をその位置で固定するための処置で、保定装置(リテーナー)を装着することになります。なお、リテーナーの装着期間は下記のようになります。

  • 保定開始から1年間は1日20時間
  • 保定1年以降は毎日12時間程度
  • 保定2年は毎日夜間8時間程度
  • 保定3年以降は2日ごとに夜間8時間程度
  • 保定4年以降は週2回夜間8時間程度
  • 保定5年目以降は週1回夜間8時間程度を生涯使用する必要があります。

歯列矯正後に後戻りする原因

歯列矯正後に後戻りする原因 次に、歯列矯正後の後戻りが生じる原因について解説します。

リテーナーの装着時間が短い

歯列矯正後の後戻りの原因としては、リテーナーの装着時間の不足です。リテーナーの種類は、固定式と着脱式の2つに大きく分けられており、着脱式のリテーナーは患者さん自身が装着時間を管理しなければなりません。一般的にリテーナーは、1日20時間以上装着しなければならず、そのルールを守れていないと後戻りが生じてしまいます。 食事や歯磨き以外の時間はほぼ装着することになるため、自己管理能力が乏しい方にとっては、ややハードルの高い条件となります。食後にリテーナーをつけ忘れたり、着脱が面倒になって途中から使用するのをやめたりして、後戻りが生じるケースは珍しくありません。

リテーナーの変形や破損

リテーナーは複雑な構造をしているため、何かの拍子に変形したり、破損したりすることがあります。前歯部と接触しているワイヤーが曲がったり、プレート部分が割れたりしてしまうと、適切な保定力を発揮できないため、そのまま使い続けても十分な保定ができません。装着時間を守っていても、リテーナーそのものに問題があったら、かえって歯並びを悪くすることもあります。

日常的な習慣

口呼吸、頬杖をつく、うつ伏せ寝、舌を前に突き出す癖、唇や爪を噛む癖、片側だけで噛む癖などが習慣化していると、歯の後戻りが生じやすくなります。これらは歯並びを悪くする原因でもあり、後戻りするメカニズムも基本的には同じです。個々の歯や歯列に対して、不要な圧力がかかって歯並びが悪くなります。

歯列矯正後の後戻りを防ぐ方法

歯列矯正後の後戻りを防ぐ方法 続いては、歯列矯正後の後戻りを防ぐ方法について解説します。次の3つの方法を正しく実践することで、歯列矯正後の後戻りの多くは防止できます。

リテーナーを正しく使う

リテーナーを正しく取り扱うことは、後戻りを防ぐことの基本です。

◎装着時間を厳守する
リテーナーは、1日20時間以上装着しましょう。保定ができてくると装着時間は徐々に短くなってきますが、原則、1日20時間以上の装着を守ってください。歯を動かす動的治療が終わった直後では、後戻りが起こりやすくなっているため、できるだけ長い時間リテーナーを装着することが推奨されています。

◎正しい方法で着脱する
リテーナーは、入れ歯に似た装置で着脱にはコツがいります。リテーナーの構造や歯並びの状態によっては、装着の際に力を入れる部分と、力をあまり入れてはいけない部分があるため、強引に着脱をしていると変形や破損につながってしまいます。歯科医師から習った正しい方法でリテーナーの着脱をするようにしましょう。

◎適切な方法でケアする
リテーナーは汚れがつきやすく、細菌も繁殖しやすい装置です。そのため、毎日適切な方法でケアしていないと歯石が形成されたり、細菌や真菌が繁殖して口腔粘膜にトラブルを引き起こすことがあります。リテーナーは、お口から外すたびにやわらかい歯ブラシで丁寧に磨き、常温あるいはぬるま湯で洗浄するようにしましょう。加えて、リテーナー専用の洗浄剤で1日1回化学的な清掃を行うことで、清潔な状態を維持しやすくなります。

継続的にリテーナーを装着する

正しい方法でリテーナーを取り扱えていたとしても、装着を途中でやめてしまったら後戻りにつながります。歯科医師からの指導された期間はリテーナーの装着を継続しましょう。 歯科医師から指導された装着期間は保定に必要な期間であり、それ以降もリテーナーを装着することも可能です。保定の効果は、リテーナーの装着期間が長くなる程高まります。

自分のクセを改善する

口呼吸やうつ伏せ寝、頬杖をつく癖など、歯並びを悪くする癖がある場合は、意識して改善するよう努めましょう。後戻りにつながる癖が残っていると、リテーナーを適切に装着していても後戻りをしてしまうリスクが生じます。

再矯正が必要な判断基準と費用

再矯正が必要な判断基準と費用 保定を適切に行うことができず、後戻りが生じてしまった場合は、状態に応じて再矯正が必要となることもあります。再矯正が必要になる大まかな判断基準と再矯正にかかる費用相場について解説します。

再矯正の判断基準

再矯正の判断は、以下の3つのポイントに着目するとよいでしょう。

【ポイント1】リテーナーを装着できない
自己判断がしやすい再矯正の判断基準は、リテーナーが装着できるかどうかです。リテーナーを装着できなくなった場合は、基本的に再矯正が必要となってしまいます。これは、すでに歯の後戻りが生じて、治療直後の歯並びとは状態が変化してしまっているためです。 リテーナーを装着できないと、保定が不可能となるため後戻りはさらに進行していきます。患者さん自身が再矯正の必要性を感じなかったり、リテーナーを調整することで対応できたりする場合は、あらためて矯正する必要はありません。

【ポイント2】噛み合わせが悪くなっている
保定期間に入った直後よりも、食べ物が噛みにくくなったと感じる場合は、後戻りが進んでいる可能性があります。悪い噛み合わせを放置すると、歯並びをさらに悪化させるため、早期にリテーナーを再製作するか、再矯正を検討する方がよいでしょう。咀嚼機能に関係する噛み合わせの状態は、見た目だけでなく、全身の健康状態にとっても重要であるため、異常を感じたらできるだけ早く主治医に相談しましょう。

【ポイント3】見た目が悪くなった
歯列矯正できれいに整えたはずの歯並びが目に見える形で乱れてきたら、後戻りが生じているものと考えられます。前歯部の歯並びは、口元の審美性を大きく左右することから、ちょっとした後戻りでも気になる方も少なくありません。審美面における歯並びの変化は、患者さん自身が再矯正の必要性を感じやすいことでしょう。軽度の後戻りであれば、歯列矯正以外の方法でも改善することが可能です。再矯正の方法の詳細については後段で詳しく解説します。

再矯正に必要な費用相場

後戻りした歯並びを再矯正する場合の費用は、選択した方法によって大きく変わります。費用が高いのはワイヤー矯正で、部分矯正を行った場合は、30〜40万円程度かかります。マウスピース型矯正の場合は、5年間の治療期限が過ぎてから再治療する場合には、10〜30万円程度の場合もありますが、後戻りの程度次第では高額な金額がかかることがあります。そのほか、修復治療や補綴治療の場合は、1歯あたり3〜15万円程度で行えます。これらは再矯正にかかる費用の相場であり、後戻りの状態によってもそれぞれ料金が大きく変わってくる点に注意が必要です。

再矯正の方法について

再矯正の方法について 後戻りした歯を再矯正する方法について解説します。歯列矯正だけではなく、修復治療や補綴治療も選択肢として挙げられます。

ワイヤー矯正

金属製のワイヤーとブラケットを使った矯正法です。スタンダードな歯並びの治療法で、大きく後戻りしたケースでもしっかり再矯正できます。あらためてブラケットを付け直したり、費用がやや高かったりするなどのデメリットも伴います。

マウスピース型矯正

透明な樹脂製のマウスピースを使った歯列矯正法です。装置が目立ちにくい、食事や歯磨きを普段どおりに行える、歯の移動に伴う痛みが少ない、通院頻度が少ないなどのメリットはありますが、ワイヤー矯正より適応範囲が狭く、装着は自分で管理しなければなりません。歯列矯正後の後戻りであれば、マウスピース型矯正で対応できる症例がほとんどです。

まとめ

今回は、歯列矯正後の後戻りの確率や再矯正が必要となるケース、方法について解説しました。歯列矯正後に保定処置を怠ると、ほぼ100%の確率で後戻りが生じるため、十分な注意が必要といえます。実際に後戻りが起こった場合は、ワイヤー矯正やマウスピース型矯正以外の選択肢も用意されていることから、歯並びの状態や予算に合った方法を選ぶとよいでしょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
宮島 悠旗歯科医師(宮島悠旗ブライトオーソドンティクス)

宮島 悠旗歯科医師(宮島悠旗ブライトオーソドンティクス)

愛知学院大学歯学部卒業 / 東京歯科大学千葉病院にて臨床研修医終了 / 東北大学大学院歯学研究科口腔発育学口座顎口腔矯正学分野 助教 / 宮島悠旗ブライトオーソドンティクス起業 / 著書「国際人になりたければ英語力より歯を“磨け”-世界で活躍する人の『デンタルケア』-」(幻冬舎)出版 / 合同会社T&Y Connection設立 / ASIA GOLDEN STARAWARD(企業家賞)受賞 / 著書「歯並び美人で充実人生-幸せを呼ぶゴールデンスマイル-」(合同フォレスト)出版 / 株式会社オーティカインターナショナル認定講師 / 現在は宮島悠旗ブライトオーソドンティクス代表としてフリーランス矯正歯科医を行っている / 専門は矯正歯科(Invisalign®︎、小児矯正、Myobrace®︎、マルチブラケット、アンカースクリュー、PBMオルソ(光加速矯正装置))

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