歯の矯正を検討中の方は、何よりも保険が適用されるのかどうかが気になるかと思います。歯の矯正は歯科治療の中で最も費用が高いもののひとつであり、標準的なケースでは80万円~100万円くらいかかるため、保険が適用されるかどうかは非常に重要なポイントとなるでしょう。ここではそんな歯の矯正の保険適用の有無や費用、治療にかかる期間について詳しく解説します。
歯列矯正で使える保険を探す前に費用や期間を確認
結論からいうと、歯列矯正には保険が適用されません。これはこれからも大きく変わることはないでしょう。後段でも説明しますが一部のケースでは、保険が適用される場合があります。そうした例外的なケースについて考える前に、まずは歯並びを治す方法の種類、治療にかかる期間、費用感について確認していきましょう。
歯列矯正の種類
歯列矯正は、歯並びの乱れを細かく整えていく治療です。顎の発育を正常化させる小児矯正とは根本的に異なる点にご注意ください。つまり、歯列矯正は大人が受ける歯並びの治療であり、ワイヤー矯正とマウスピースの2つに大きく分けられるのです。
・ワイヤー矯正
ワイヤー矯正は、文字通り金属製のワイヤーを使って歯を三次元的に動かしていく治療法です。1歯1歯にブラケットと呼ばれる四角い留め具を接着してワイヤーを通します。日本だけでなく、世界でもスタンダードとなっている矯正法なので、皆さんもよくご存知のことでしょう。ほとんどの種類の歯並びに適応することができ、比較的重症度が高い症例でも治せることが多いです。
ワイヤー矯正は、表側矯正と裏側(舌側)矯正の2つに分けられます。ブラケットとワイヤーを使う点は共通していますが、装置を装着する位置が逆になっています。すなわち表側矯正は歯の表面に装置を設置するのに対し、裏側矯正は文字通り歯の裏側にブラケットとワイヤーを装着します。費用面においては裏側矯正の方が高額になります。
・マウスピース矯正
マウスピース矯正は、ここ10年くらいで急激に普及し始めた治療法です。従来のブラケットやワイヤーといったパーツは一切使用しません。透明な樹脂製のマウスピースを装着するだけで、出っ歯や受け口などの悪い歯並びを治すことができるのです。歯の表面にアタッチメントというレジン製の突起を付ける場合がありますが、歯と同じような色をしているので目立ちません。食事や歯磨きの時に装置を取り外すことができ、お手入れもしやすい。マウスピース矯正にはそうしたメリットを伴います。矯正にかかる費用もワイヤー矯正より安い場合が多いです。ただし、マウスピース矯正は、ワイヤー矯正ほど適応範囲が広くないため、治療できない歯並びも少なくはありません。
歯列矯正にかかる期間
歯列矯正にかかる期間は、装置の種類で大きく変わるようなことはほとんどありません。どちらかというと歯並びや噛み合わせ、顎の骨の状態によって治療に要する期間が変化します。標準的な全体矯正を想定した場合は、歯を動かすのに1~3年程度かかります。歯を動かした後は保定(ほてい)と呼ばれる後戻りを防止するための処置が必要となります。保定は歯を動かすのに要した期間と同程度、行わなければなりません。つまり、一般的なケースでは1~3年程度は保定装置を装着します。歯を動かす動的治療(どうてきちりょう)と後戻りを防止する保定治療を合わせると2~6年程度かかるのが歯列矯正なのです。
歯列矯正の種類ごとの費用感
歯列矯正の費用は、装置の種類によって少しずつ変わります。最も標準的なワイヤー矯正(表側矯正)は、80万~100万円程度の費用がかかります。同じワイヤー矯正でも裏側矯正の場合は、費用相場が140万円程度とかなり高くなります。これは裏側矯正が特殊な治療法だからです。裏側矯正で使用する装置は表側矯正のものと異なりますし、歯科医師には高い技術力が求められます。そうした理由もあり、裏側矯正は歯列矯正の中でも費用が最も高くなっているのです。マウスピース矯正はメーカーによって費用が異なりますが、80万円前後が全国的な費用相場となっています。いずれも歯科医院によって料金設定が大きく異なることから、あくまで目安い程度に捉えてください。
歯列矯正で保険が適用されるケース
上でも述べたように、歯列矯正は原則として保険が適用されません。ただし、以下の症状が当てはまる場合は、例外的に歯列矯正でも保険が適用されることがあります。心当たりのある方は、セルフチェックした上で専門の医療機関に問い合わせましょう。
日本矯正歯科学会のホームページで、保険適用疾患を検索することができます。しかし、保険が適用になるのは特別な施設認定を受けた歯科医院に限られます。 (矯正歯科治療が保険診療の適用になる場合とは) https://www.jos.gr.jp/facility
先天性の異常
先天性の異常や病気が原因で、お口の中に深刻な問題を抱えている場合は、歯列矯正を保険で受けられるケースもあります。具体的には、ダウン症候群、唇顎口蓋裂、トリーチャーコリンズ症候群、ターナー症候群など、厚生労働省が指定している61の先天異常があって、歯並びに深刻な異常を抱えている場合です。いずれも医科での治療が不可欠であり、歯列矯正に関しても必要性が話し合われるケースが多い病気ばかりといえます。ですから、該当する方はまず主治医と相談することをおすすめします。これらの病気を担当している医師であれば、保険内で歯列矯正を受ける方法についても詳しく知っていることでしょう。
顎変形症
顎変形症(がくへんけいしょう)とは、その名の通り顎の形に異常が見られる病気です。顎の形や大きさ、前後的な位置などが正常ではないため、そしゃく機能などに支障をきたします。そうした顎変形症の診断を医科で受けた上で、歯列矯正も必要であると判断された場合は、保険内でワイヤー矯正などを受けることも可能となります。ひとことで顎変形症といっても重症度に大きな違いが見られることから、すべてのケースで保険内での歯列矯正が可能となるわけではありません。その点は十分にご注意ください。また、額変形症の場合は、歯列矯正だけでその症状を改善するわけではありません。基本的には顎の骨を切るなどの外科手術を併用します。
噛み合わせの異常
歯並びだけではなく、噛み合わせに深刻な異常がある場合も歯列矯正に保険が適用されることがあります。これは生え方の悪い前歯の永久歯が3本以上あること(埋伏歯:歯が歯槽骨の中に埋まっている状態)で、噛み合わせが悪くなっているケースに限定されます。それだけではなく、埋伏歯開窓(まいふくしかいそう)という手術が必要でなければならず、該当する人は極めて稀といえるでしょう。
歯列矯正で保険が適用されなくても費用を抑える方法はある
このように、歯列矯正には原則として保険が適用されません。例外的に保険が適用されるケースもありますが極めて限定的といえます。ですから歯列矯正を検討中の方は、保険適用の道を模索するのではなく、費用を抑える方法について考えた方が建設的です。以下に挙げる4つの方法を実践することで、歯列矯正にかかる費用は抑制できます。
医療費控除を活用する
歯列矯正は医療費控除の対象となります。保険適用とならない時点で、医療費控除も対象外となると思い込んでいる方も少なくありませんので、この点は強調しておきます。
医療費控除とは、多くの人々にとって経済的なメリットがある公的な制度です。一定の条件下で医療費を所得税から差し引くことができる税制上の優遇措置です。健康のために必要な支出が多くなることは誰にでも起こりうるもの。そのような負担を少しでも軽減するために、この制度は非常に有用となります。
この控除は、病気や怪我による治療費、予防接種、健康診断など、自分や扶養している家族の医療費に適用されることが一般的です。控除額は所得と支出に応じて異なりますが、適切に申告することで節税効果を享受できるのです。医療費控除を利用するためには、医療費の領収書や支払い証明など、適切な書類の準備が必要です。そのため、医療機関での支払い時には必ず領収書を受け取り、安全に保管するよう心がけましょう。
ちなみに、歯列矯正で医療費控除の対象となるのは、いわゆる基本料だけではありません。カウンセリングや精密検査、毎回の調整、保定にかかる費用、通院の際にかかった交通費なども医療費控除の際に申請することができます。これらをすべて合わせると、かなりの節税効果が期待できることでしょう。ですから、歯列矯正を受けた場合は必ず医療費控除を活用するようにしましょう。
装置の種類を安価なものにする
歯列矯正の費用を抑える最も直接的な方法は、安価な装置を選択することです。繰り返しになりますが、矯正の費用は装置の種類によって大きく変わります。比較的安いのはマウスピース矯正で、80万円前後で治療を受けられるのが一般的です。それに対して特別な装置を使う裏側矯正は、140万円前後の費用が相場となっており、マウスピース矯正の倍近い値段となっていることも珍しくないのです。
最も標準的な表側矯正でも、装置が目立ちにくいクリアブラケットや表面が白くコーティングされたホワイトワイヤーを選択することで、費用が高くなりますので、その点はご注意ください。歯列矯正にかかる費用をできるだけ抑えたいという方は、必要以上にオプションをつけるようなことは控えましょう。そうしたことも踏まえると、費用が比較的安いだけでなく、装置が目立たないマウスピース矯正は非常に優れた矯正装置といえます。
部分矯正で治せるか検討する
歯列矯正にかかる費用を大幅に抑えたいのであれば、部分矯正を選択するという方法も挙げられます。部分矯正とは、歯並びの気になる部分だけを矯正する方法で、治療にかかる費用も全体矯正より安くなっています。どのくらいの範囲を矯正するのかによっても費用は変動しますが、安ければ20万円~30万円、高くても50万円~60万円で治療できます。全体矯正と比べると費用が半分以下となるため、経済面を重視する方には強くおすすめできます。
・部分矯正は治療期間も短い
部分矯正の場合は、治療にかかる期間も大幅に短縮できます。例えば、前歯1~2本の位置や傾きを改善する程度の部分矯正なら、3~4ヵ月で歯の移動が完了します。上下の前歯12本全部となると6~12ヵ月程度の治療期間が必要となりますが、それでも全体矯正よりかなり短いです。これも部分矯正を選択する大きなメリットといえるでしょう。
・部分矯正にデメリットはないの?
費用が安くて、治療も早く終わるのなら、誰もが部分矯正を選ぶように思えますよね。けれども、実際はそうなっていません。それは部分矯正が万能ではないからです。そもそも部分矯正で歯並びをしっかり治せるケースは一部に限られるため、事前にきちんとしたカウンセリングを受けておくことが大切です。また、部分矯正では上下の噛み合わせまで治すことはほぼ不可能です。場合によっては、矯正後の方が矯正前よりも噛み合わせが悪くなることもありますので、その点も含めて正しい知識を頭に入れておく必要があります。
治療期間を長引かせないようにする
矯正治療にかかる期間を長引かせないことも治療の抑制につながります。一般的な歯列矯正では、1ヵ月に1回の通院が必要となります。これはワイヤーを曲げるなどの調整を行わなければならないからです。そうした調整料は1回当たり4000~6000円程度かかります。ですから、治療期間が半年延びるだけでも、24000~36000円程度の費用が余計にかかってしまうのです。矯正の結果が適切に得られず、再治療となった場合はさらに高額な費用がかかる点にご注意ください。
治療期間を長引かせる主な要因は、虫歯や歯周病です。虫歯や歯周病にかかると、歯を計画通りに動かせなくなります。場合によっては、治療計画を立て直さなければならず、治療期間が大幅に延長します。マウスピース矯正の場合は、マウスピースをルール通りに装着しないことで治療期間が長引いていきます。そのため、1日に20時間程度というマウスピースの装着時間を守れそうにない方は、始めから固定式のワイヤー矯正を選択した方が賢明といえるでしょう。その他、装置を頻繁に故障させてしまうようなことがあれば、治療期間も自ずと長くなります。
まとめ
このように歯の矯正は原則として保険が適用されません。治療にかかる費用は全額自己負担となる点に注意しましょう。本文でもご紹介した通り、先天性の異常や顎変形症、噛み合わせの異常などがある場合では一部、保険内で歯列矯正を受けられることがあります。また、医療費控除の活用、安価な矯正装置を選ぶ、部分矯正を検討する、矯正治療を長引かせないことでも費用を抑えることは可能となっています。ですから、矯正治療は高いから無理とは諦めず、ご自身の予算内で受けられる方法はないか探すと良いでしょう。一括での支払いが難しい場合は、デンタルローンで分割払いするという方法も選べます。
参考文献