歯並びや嚙み合わせがよくなり、様々なメリットがある歯列矯正ですが、老後に与える影響を気にしている方が多く見られます。
特に歯列矯正のために抜歯を行うことに関して、不安を感じるケースが多いです。
そこで今回は、歯列矯正が老後に与える影響について、詳しく解説していきます。
併せて抜歯に関する情報や歯列矯正をする際に注意しておきたい人などについても紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
歯列矯正は老後に影響を与える?
歯列矯正は歯並びが改善し噛み合わせがよくなることから、老後にはよい影響を与えます。
歯に無関心でいると、年齢を重ねるにつれて、歯茎が下がったり歯が抜けていったりして歯並びや噛み合わせがどんどん悪くなっていく可能性が高いです。
そのため歯科医に相談しながら自分の歯の状況を把握し、必要に応じて歯列矯正をすることをおすすめします。
老後の健康を維持するためには、歯並びや噛み合わせがキーポイントといっても過言ではありません。
現在、厚生労働省と日本歯科医会は「8020運動」を推奨して歯の意識向上を呼びかけています。
8020運動とは、80歳で歯を20本以上残せることを目標としている運動です。
近年では歯列矯正への関心が幅広い年代で高まっており、60歳以降でも歯列矯正を始める方が増えてきています。
歯列矯正が老後に与える影響
歯列矯正によって、歯並びや噛み合わせに関する不具合の多くは改善が期待できます。それでは、老後に与える影響はどのようなことが考えられるでしょうか。
主な影響としては、下記の4点があげられます。
- よく噛めるようになり消化吸収が良くなる
- 歯の健康を保ちやすくなる
- 歯並びが美しくなり自信が持てる
- 発音がしやすくなる
それぞれ詳しくみていきましょう。
よく噛めるようになり消化吸収が良くなる
噛み合わせがよくなるため、普段の食事もよく噛めるようになります。食べ物を意識してたくさん噛むことは、非常に重要です。
噛む回数が少ないと、消化器官に負担がかかりやすく、消化不良を起こしてしまうケースもあります。
一方たくさん噛むと消化酵素のアミラーゼを含んだ唾液の分泌が促され、胃腸での食べ物の消化吸収がよくなるのです。
そのため消化器官に負担がかかりにくいだけでなく、効率よく体内で消化することで太りにくいという効果も期待できます。
歯の健康を保ちやすくなる
歯並びがよくなることで歯ブラシの毛先が歯の隅々まで届くようになったり、フロスが使いやすくなったりと、口内をしっかりケアできます。
そのため、むし歯や歯周病の予防に繋がり、歯の健康を長く保ちやすいでしょう。
また噛み合わせがよくなることで、噛む力が複数の歯で均一に分散されやすく、歯や顎への負担が軽減されるメリットもあります。
結果的に歯の健康維持や顎関節症の予防になるだけでなく、場合によっては肩こりや頭痛も改善するケースがあるのです。
歯の健康を保ちやすくなるということは、全身の健康を保ちやすくなるともいえます。
歯並びが美しくなり自信が持てる
歯並びが美しいと、笑ったときの見た目がよくなります。そのため自分の笑顔に自信を持てるようになる方が多いです。
歯列矯正をする前は下の歯が突き出る出っ歯や歯がでこぼこに生える叢生(そうせい)など、様々な症状によって見た目に自信がなく、笑顔になるのを躊躇う方もいます。
その悩みが解消されることで、気持ちが晴れやかになれるでしょう。心の健康を保ち、老後を明るく楽しく過ごすことが期待できます。
発音がしやすくなる
歯並びを整えることで、歯と歯の間に隙間がある場合も歯列矯正で改善が期待でき、発音がしやすくなる可能性が高いです。
歯と歯の間に隙間がある状態だと、発音する際に空気が漏れてしまい、一部聞こえにくいことがあります。
空気が漏れなければしっかり発音できるようになるため、自分の話し方にコンプレックスがある方も、今までより前向きな気持ちになれるでしょう。
また、歯並びが整うと、しっかり歯を食いしばることができます。そのため運動能力の向上や、身体バランスが改善される効果も期待できます。
歯列矯正の方法は?
歯列矯正の方法は歯科医院によって違いがあるものの、大きく下記のように分類されます。
- ワイヤー矯正
- 舌側矯正(裏側矯正)
- 部分矯正
- マウスピース型矯正
それぞれの治療内容とメリット・デメリットについて紹介していきます。
ワイヤー矯正
ワイヤー矯正とは、歯の表側にブラケットと呼ばれる矯正装置を取り付け、そこにワイヤーを通して適度に力をかけながら希望する方向へと歯を動かしていく方法です。
歯の表側に装置を付けるため、表側矯正ともいわれています。
取り外し不要で手間がかからない反面、ブラケットは一般的に金属製(メタル)で目立ちやすく、見た目が気になる方にとってはデメリットになるでしょう。
このデメリットを軽減するために、耐久性はやや劣るものの、目立ちにくい透明や白色のブラケットもあります。
素材はセラミックやプラスチックを使用しており、審美ブラケットと呼ばれています。
また、ワイヤー矯正はブラケットが外れるのを防ぐために、硬いものや粘り気があるものなど食べ物が制限されるケースもあるのが特徴です。
中には金属で口腔内を傷つけることがあったり、装着の影響で強い痛みがあったりといったケースも見られます。
ワイヤー矯正のメリットは、適応範囲が広いことです。歯並びの悪さには様々な症例があるため、他の歯列矯正では対応できないケースにも対応できる可能性があります。
舌側矯正(裏側矯正)
舌側矯正(裏側矯正)は、歯の裏側にブラケットを取り付ける方法です。歯の表側に付けるワイヤー矯正と取り付ける箇所が異なるものの、その他の面では同様です。
舌のある側にブラケットを付けることから、舌側矯正といわれることもあります。
サービス業や接客業などワイヤー矯正が見た目の問題でできなかった方にとっては、大きなメリットといえます。
ただし矯正治療の難易度が高くなるため、歯科医のたしかな技術が必要になるでしょう。
また、歯の裏側にブラケットがある状態では舌を置くスペースが狭くなるため違和感を感じやすく、慣れるまでに時間がかかる傾向です。
部分矯正
部分矯正は、名前のとおり全ての歯ではなく部分的に歯列矯正を行う方法です。一般的にはワイヤー矯正を選択している歯科医院が多いです。
気になる部分が前歯だけだったり特定の歯だけだったりする場合に、費用を抑えて効率よく治療できます。矯正期間を短くできるのもメリットです。
ただし歯並びの状態によっては対応できないケースもあるため、歯科医に相談しながら治療方法を選択しましょう。
マウスピース型矯正
マウスピース型矯正は、透明のマウスピースを装着して徐々に歯を動かしていく方法です。
1つのマウスピースで歯を動かせる範囲は限られるため、数種類のマウスピースを段階的に使用していきます。
1日20時間以上装着する必要があり、都度自分で装置を取り外せることが特徴です。歯磨きの際は取り外して普段通り口内ケアができるため、清潔さと歯の健康を維持できます。
また、マウスピースを装着した際、見た目が目立ちにくいのもメリットといえるでしょう。
ただし1日20時間以上装着するのを怠った場合、期待していた治療結果が得られない可能性が高まります。
なお、マウスピース型矯正の場合、歯並びの状態によっては対応できないケースもあります。
歯列矯正で抜歯をすると老後に後悔する?
歯列矯正では抜歯を伴うケースも珍しくないのですが、健康な歯を今から抜いてしまうことに不安を感じる方もいます。
その不安の大多数は、老後歯が減ってきたときに後悔するのでは、というものです。
結論からいうと、老後に健康な歯をより多く残すためにも、抜歯は必要となるケースがあります。
例えば元々顔が小さく、顎のスペースが少ないケースです。
この場合は歯と歯が押し合って窮屈になっている状態のため、無理に歯列矯正を行うと、歯が前後に押し出されたり歯が土台から外れて歯茎が下がったりするリスクがあります。
結果的にさらに歯並びが悪くなってしまうだけでなく、歯の健康にまで悪影響を及ぼしてしまうのです。
矯正前に抜歯することで、無理なく歯並びを整え、かつ後戻りもしにくくなります。
歯科医が抜歯を進めるのにはきちんとした理由があります。不安な点は随時相談しながら、冷静に判断しましょう。
歯列矯正で注意が必要なのはどんな人?
様々なメリットがある歯列矯正ですが、中には矯正を行うにあたって注意が必要な人もいます。
- 重い歯周病がある人
- 持病がある人
注意が必要ではあるものの、絶対に歯列矯正ができないわけではありません。担当の歯科医に相談しながら、慎重に判断しましょう。
重い歯周病がある人
重い歯周病がある人は、そのまま歯列矯正を行うと歯周病が悪化することもあるため、事前に歯周病治療を済ませておくのがおすすめです。
ただし歯周病の主な原因が歯並びや噛み合わせの悪さだった場合は、歯列矯正によって改善が期待できることから矯正に踏み切るケースもあります。
歯周病の原因は、他にも歯の磨き残しによる歯周病菌の繁殖や、腸内環境・唾液の質と量・食生活など人によって様々です。
歯周病の治療は症例に合わせて行う必要があるため、自分で判断せず、必ず矯正前に歯科医に相談してください。
持病がある人
持病がある人は、どのような病気でも歯科医に報告しておきましょう。
例えば高血圧の場合、血圧を測定しながら治療したり治療中断の判断を適切にできたりと対処できます。
慣れない環境で思いがけず血圧が高くなる可能性は十分考えられるため、安心して歯列矯正を受けるためにも、歯科医が把握しておくのはとても大切なのです。
また、服用中の薬があれば、たとえ市販薬でも事前に報告しましょう。歯科医院で処方する薬と服用中の薬の飲み合わせによっては、副作用が生じるリスクがあるからです。
例えば糖尿病や骨粗しょう症などの持病があって定期的に薬を服用している人だと、その病気の治りに影響が出る可能性もあります。
場合によっては外科的処置が必要となるため、持病のかかりつけ医と歯科医との連携が重要です。
なお、ワイヤー矯正は稀に金属アレルギーを引き起こすケースがあります。そのため、アレルギーに関しても持病と同様に報告することが大切です。
歯列矯正の費用はどのくらい?
歯列矯正の費用は、主に矯正方法によって異なります。
費用面で注意しておきたいのは、基本的に医療保険の対象とならない自由診療になることです。
歯並びや噛み合わせの悪さは病気ではないため、美容整形と同じような扱いとなります。そのため全額自己負担であり、場合によっては高額になる可能性もあるでしょう。
なお、矯正治療の費用以外にも、矯正方法に関わらず共通してかかる費用があります。例えば矯正開始前の相談や検査、さらに抜歯や虫歯・歯周病があった場合の事前治療などです。
さらに矯正後も使用する器具の調整や検査で別途費用が必要となるケースもあります。
歯科医院によっては相談料が無料だったり、矯正前から矯正後までトータルで費用を提示していたりするため、事前に確認しておきましょう。
ここからは矯正方法別に、費用の目安をご紹介します。
ワイヤー矯正の場合
ワイヤー矯正は、他の歯列矯正に比べて費用を安く済ませられることが多いです。一般的には60万~130万円(税込)程度でしょう。
部分矯正であれば、20万~30万円(税込)程度でできるケースもあるでしょう。
ただし装着するブラケットによって費用には差が出ます。特に目立ちにくさを考慮した審美ブラケットを選択した場合は、通常より高くなる傾向にあります。
素材ごとに大まかにまとめると、下記のとおりです。
- メタルブラケット:30万~80万円(税込)
- プラスチックブラケット:60万~90万円(税込)
- セラミックブラケット:65万~100万円(税込)
また、ブラケットを通すワイヤーも、プラス10万円程度で目立ちにくい白を選択できるケースがあります。
舌側矯正(裏側矯正)の場合
裏側矯正の場合は、ワイヤー矯正よりもブラケットを取り付ける難易度が高いことから、費用も高くなる傾向です。
大体の費用は100万~180万円(税込)程度になるでしょう。部分矯正の場合は30万円(税込)程度まで抑えられることもあります。
ちなみに歯の裏側は形状が複雑なため、オーダーメイドでブラケットを制作します。このことも費用が高くなりやすい一因です。
マウスピース型矯正の場合
マウスピース矯正の場合、一般的な費用は大体100万〜180万円(税込)程度です。
マウスピースは段階ごとに使い分ける必要があるため、使用するマウスピースの枚数や矯正する歯の範囲によって費用に差が出ます。
マウスピース型矯正も部分矯正を選択できるケースがあるため、この場合はマウスピースの使用枚数や矯正期間によって、費用を安く抑えられる可能性が高いです。
まとめ
歯列矯正によって、老後に健康な歯を維持しやすくなるだけでなく、全身の健康にもよい影響が期待できます。
また、歯並びの状態によっては思い切って抜歯を選択することも重要です。
歯列矯正はそれぞれの歯並び・噛み合わせの状態によって適切な方法があるため、歯科医と相談しつつ、費用面も考慮しながら判断しましょう。
老後を明るく元気に過ごすためにも、ぜひ前向きに歯列矯正を検討してみてください。
参考文献