歯科矯正とは、いわゆる出っ歯や受け口・乱ぐい歯などの歯並びを整える治療のことをいいます。
歯の矯正治療を行うことで、自分が望むきれいな歯並びになるだけでなく、さまざまな効果が期待できます。
具体的にはむし歯や歯周病を予防したり、食べ物がしっかりと噛めるようになったり、顔立ちが整ったりという効果です。
一方、歯科矯正で顔が長くなるのでは?という心配を抱える方が少なからずいるのも事実です。
この記事では、歯科矯正で顔が長くなる原因と、それを防ぐ方法などについて詳しく解説します。
歯科矯正で顔が長くなるって本当?
歯科矯正を行うことで顔が長くなるというのは本当なのでしょうか。
歯科矯正に関して行われる各種の調査では、「顔が長くなったりブサイクになったりしてしまうかも知れない」といった噂が、SNSなどで拡散される場合があります。
歯科矯正によって本当に顔が長く見えるようになることがあるのか、歯科矯正での失敗を避けるためにはどう対応すればよいのかについて、詳しい検証が必要です。
歯科矯正にかかる費用を無駄にしないためにも、こうした噂が本当なのか、一つでも多くの情報を集約して歯科矯正を成功させることが重要となります。
また、顔が長くなるという状況には、人中(じんちゅう)の伸びが影響しています。
人中とは、鼻と口との間にある細長い溝のことですが、歯列矯正を行うことによって実際に人中が伸びることはほとんどありません。
その理由は、歯列矯正によって皮膚が直接の影響を受けることはないからです。
その一方、歯列矯正を行ったことで、見かけ上では人中に変化が生じたように感じる場合もあります。
歯科矯正で顔が長くなる原因
歯科矯正で歯並びを整えると、顔全体の印象もスマートになり、結果として美しくなることがほとんどです。
このため、基本的には歯科矯正で顔が長くなったりブサイクに見えたりする心配はありません。
しかし、上述のとおり、歯科矯正で「顔が長くなる」「顔がブサイクになる」という意見がSNS上で拡散される場合が少なからずあるようです。
歯科矯正で顔が長くなる原因について、以下に解説していきます。
皮膚がたるむことがあるから
矯正治療を行って口元を正常な位置にすると、顔の変化を感じる場合があります。
この治療を行うことによって前に張り出していた歯の位置を修正すると、その部分の皮膚が引っ込み、結果として皮膚が余ってたるんでしまいます。
この状況は、太っている方がダイエットをすることによって皮膚がたるんでしまうのと同じことだと思えば理解しやすいですね。
このため、頬がたるんだりほうれい線が目立ったり、また老けてみえたりします。
歯が引っ込んだ分だけ、今までよりも顔が長くみえるケースもあるのです。
筋肉が衰えることがあるから
歯科矯正中は食事に関する苦労が伴いますが、食事による影響も少なくありません。
矯正中にやわらかいものばかり食べたり、咀嚼する回数や食事そのものの回数が減ったりすると、顔の筋肉が衰えてしまいます。
その結果、頬がこけて見える・ほうれい線が目立つ・顔が長く見える、といった変化を感じることがあるのです。
ワイヤーによって矯正を行っている際には、実際に食事がしにくい状況となるので、柔らかい食べ物を中心に食事をする方が多いのは事実です。
マウスピースによる矯正の場合でも、歯が動いているときに硬い物を噛むと違和感があります。
違和感を避けるために噛む回数が減ったり、また栄養が不足したりすることで、皮膚にハリがなくなる状況となります。
その結果、顔の筋肉が衰えてしまうことがあるのも事実です。
歯科矯正が終われば元の食生活に戻るので、時間の経過とともに頬にハリが戻り、きれいになることが多いです。
筋肉が衰えるのは、歯科矯正中に一時的に現われる症状なので、施術後の回復を考えれば大きな心配はありません。
不要な抜歯治療をしてしまったから
歯科矯正中に不要な抜歯治療をしてしまったら、どうなるのでしょうか。
まずは、矯正中に抜歯をしなければならないかどうかを検証しましょう。
矯正中に不要な抜歯治療は避けるべきですが、多くの症例を見ると、抜歯を行わずに治療を行うことが可能です。
それにも関わらず不要な抜歯治療をしてしまったら、それが影響して顔が長く見える症状が現われてしまう懸念があるので、注意しましょう。
なお、矯正中でも抜歯が必要になってしまう場合もあるので、その際には担当医師からしっかりと説明をうけることが重要です。
抜歯治療に対しては慎重に考えることが必要なので、担当医師と事前にしっかりと相談し、納得してから治療をすすめることがポイントです。
人中が伸びたように見えるから
実際に歯科矯正で人中が伸びるのは、矯正によって歯が前に出すぎた場合です。
この場合は実際に人中が伸びてしまうので、人中が伸びたように見えるのではなく、実際の症状となります。
もともと下顎前突(しゃくれ)の人や、前歯の歯列矯正で歯を大きく動かした人も、人中が伸びたように見えます。
これは、前歯が前に出すぎることによって上唇や人中が引っ張られるため、人中が伸びたように見えるのが原因です。
このような場合には、どうしても顔が長くなったように見えてしまいます。
歯科矯正で顔が長く見えやすい歯並び
歯科矯正の治療では、歯並びや噛み合わせの改善が主な目的となります。
また、顔全体のバランスを考慮し、フェイスラインまで美しく整えることが重要なポイントです。
こうした目的を達成するには、現状の歯並びの様子が大きく影響します。
歯科矯正によって顔が長く見えやすい歯並びの状況について、下記に挙げて解説します。
上顎前突
上顎前突とは、上顎が下顎よりも出ている状態で、いわゆる出っ歯の状態をいいます。
上顎前突の主な原因としては、遺伝的要因以外にも幼少期の指しゃぶり・舌癖・口呼吸など、さまざまな要因が複雑に絡み合っているとの考え方が中心です。
この状態におけるリスクとして、上顎前突の場合は前歯が噛み合っていないことが多いため、歯周病などの危険性が挙げられています。
この危険性を避けるために歯科矯正を行いますが、前述のとおり、矯正による人中の伸びによって顔が長く見える場合があります。
下顎前突
下顎前突とは、奥歯を噛み締めた時に下の前歯が上の前歯よりも前に出ている噛み合わせのことです。
下顎前突としては、下記に挙げる2つのタイプが挙げられます。
- 歯性のタイプ:単に歯の噛み合わせだけが反対になっている状態
- 骨格性のタイプ:骨格的に下顎が成長しすぎている状態
下顎前突も、上顎前突と同様に改善したい状態であり、歯科矯正によって対応を希望する方も多いです。
この場合でも、やはり人中の伸びによって顔が長くみえてしまう場合があります。
反対咬合
反対咬合とは、歯を噛み合わせたときに下の前歯が上の前歯より前に出ている状態です。
この状態も、歯科矯正による人中の伸びによって顔が長くみえるリスクがあります。
開咬
開咬とは、前歯に上下方向の隙間ができる不正咬合をさし、奥歯でしっかりと歯を噛んでも上下の前歯が噛み合わない症状です。
反対咬合も開咬も、骨格や歯の状態によりますが、それぞれの施術によって顔が長くみえる状態となります。
その他の場合と同じく、この状態も、歯科矯正によって人中の伸びが影響して顔が長くみえる場合があるのです。
乱杭歯
乱杭歯とは、歯が複雑に絡み合ったりねじれていたりして、歯並びが全体的にデコボコに乱れている状態をいいます。
乱杭歯のなかでもとても多い事例として、次のような現象が挙げられます。
- 前歯2本(中切歯)に比べ、その隣の歯(側切歯)が内側に位置しているケース
- 前歯2本が外にねじれて生成されている(翼状捻転)ケース
また、若い女性などにとっては、チャームポイントや可愛さの象徴として取り上げられることもある八重歯も乱杭歯の一種です。
乱杭歯の原因としては、顎に比べて歯が異常に大きいか、または歯の大きさに比べて顎が小さいことが挙げられています。
歯と顎のサイズがバランス的に不一致なので、歯が正しく並ぶのに必要なスペースが少ない場合に起こります。
この乱杭歯を放置すると、むし歯や歯周病にかかりやすくなるので、早期に改善する必要があるのです。
むし歯や歯周病を避けるためにも歯科矯正は必要ですが、矯正施術により人中が伸びることで、顔が長くみえる可能性はあります。
口ゴボ
口ゴボとは、口元がモコっと膨らんで見える歯並びや噛み合わせのことをいい、上顎前突や上下顎前突が原因となる場合が多いです。
細かい症状は人それぞれですが、前歯のみならず上顎の骨も前に出たり、下の歯や骨を含めて口の周辺が前に突き出たりする場合もあります。
口ゴボという呼び名はあくまで俗称で、正確な定義はありませんが、適切な方法で歯列矯正すれば症状の改善が期待されるのです。
施術によって歯の修正を行うと、結果として歯が引っ込んで顔が長くみえてしまうことがあるのです。
なお、一般的な美の基準のひとつとしてEラインと呼ばれる基準があります。
Eラインとは、横顔を見た際に鼻と顎とを結んだラインのことで、Eライン内に口が収まっていることが一般的に美しいといわれています。
口ゴボで口が突き出た状態では、このEラインが崩れてしまうため、見た目の印象が悪く感じられてしまうのです。
人の顔に関する美醜はまさに人それぞれですが、こうした判断基準はポピュラーなので、歯科矯正にあたっても参考とすべきでしょう。
噛み合わせが原因で顔が長く見える場合もある
歯科矯正では、噛みあわせが原因で顔が長く見える場合もあります。
噛み合わせとは上下の歯を閉じたときに接触した状態で、よい噛み合わせは上顎と下顎が隙間なく合わさっている状態です。
一方、重度の出っ歯など上下の顎がきれいに接触しない場合は、噛み合わせが悪い状況です。
歯科矯正で顔の印象が変わるのを防ぐ方法
歯科矯正は、歯並びの乱れを細かく整えるだけでなく、口元の美しさも改善することが期待される有効な施術です。
ところが、実際に歯列矯正の施術を受けると「元々の顔つきが変わるのでは?」という不安を持つ方も多いことでしょう。
歯列矯正を行うことによって顔つきに変化が現れますが、その状況はほとんどの場合よい変化なので、心配する必要はありません。
歯列矯正では、歯並びは当然のこと、フェイスラインや口元の印象を全体的に考慮した治療計画を立てて矯正を進めていきます。
歯列矯正の施術で手を加えるのはあくまで歯並びであり、顔の骨格そのものが大きく変わることはありません。
このため、歯科矯正では歯並びが顔の輪郭に影響している範囲に限って変化があります。
次に、歯列矯正で顔の印象が変わってしまうのを防ぐ方法について詳しく解説します。
表情筋を鍛える
表情筋とは、顔の目・口・鼻などを動かす筋肉で、表情筋を動かすことによって顔の表情を作るものです。
この表情筋は使わないでいると徐々に衰えていきますが、主な症状としては次のようなものが挙げられます。
- 重力に逆らえなくなり、頬や首がたるんでくる
- ほうれい線・マリオネットライン(ブルドッグライン)・口角が下がる
こうした口元の老化現象が起きやすくなります。
人が日常生活のなかで使っている表情筋は全体の30%程度なので、使わない筋肉はたるみにつながり、結果として老けた印象の顔になるのです。
表情筋を鍛えることによって、顔の表情がとても豊かになり、美しい笑顔を作ることが可能となります。
この表情筋は30種類以上もあるといわれており、表情筋トレーニングによって唇の筋肉の厚みが増し、唇全体にハリやうるおいが出ます。
こうした取り組みを実践することで、歯科矯正による顔の印象の変化を防ぐことが期待できます。
信頼できる医師を選ぶ
歯科矯正で顔の印象が変わるのを防ぐためには、やはり何といっても信頼できる医師を選ぶことが大きなポイントです。
その一方、施術を行う医師はとても多いため、どのような基準で医師を選べばよいかわからない方も多いことでしょう。
安心して施術を任せられる医師を選ぶための主な指標について解説します。
まずは、施術後自分が望むゴール(結果)について、しっかりとその認識を共有してくれる医師を選ぶことです。
自分の望む結果に向けて伴走してくれる医師には、信頼して施術を委ねられます。
また、各矯正方法についてのメリットとデメリットを忌憚なく説明してくれる医師の存在も大切です。
急なトラブルの際にも冷静に対応してくれて、継続的な受診も可能な医師は信頼できます。
総合的にいえば、自分が望む生活スタイルに合わせて通院しやすい環境と医師の存在がポイントです。
治療前に精密検査をする
歯科矯正の治療に際しては、施術前に精密検査を行うことが非常に大切です。
精密検査における主な内容としては次のような項目が挙げられます。
- レントゲン
- CT撮影
- 口腔内・顔面写真撮影
- 口腔内スキャン
上記のような精密検査を行い、得られた情報に基づいて自分に合った治療計画を立案することが重要なステップです。
精密検査を通じて、予期せぬ状況の発見や展開があった場合などには、施術方法の見直しも事前に可能となります。
抜歯はしないほうが良い?
これまで解説したきたように、歯列矯正を行うと顔つきが変わることはありますが、それと抜歯の有無は直接関係がありません。
また、これも上述したとおり、抜歯によって顔が変化する場合はよい変化なので、それほど心配する必要もないのが事実です。
歯列矯正の際に抜歯が必要になるのは、全体のスペース不足を補う場合です。
抜歯によって不足したスペースを作り出すことにより、歯並びをきれいに整えることが可能となります。
出っ歯・受け口・口ゴボといった気になる歯並びは、スペースが足りないことによって歯が外側に飛び出している状態です。
結論として、歯科矯正にあたって抜歯をしないほうがよいのは、具体的に必要な場合のみと考えておきましょう。
まとめ
歯科矯正によって顔が長くなるという状況について、その真偽や原因、また防ぐ方法などについて詳しく解説しました。
これまでご覧いただいたように、歯科矯正が原因で顔が長くなるということはありません。
歯並びや顔全体の状況などによって、そのように見える場合がありますが、適切な対処方法もあります。
自分が望むゴールへ向けて、適切な歯科矯正が可能となるよう、専門の医師にしっかりと相談して正しい施術を行うことが大切です。
参考文献